5.問.幼馴染のアイドルとデート練習したら?
悲しいな、土曜日なのに、悲しいな。そんなくだらない俳句を俺は心の中で一句呼んだ。
今日はアイルの買い物に付き合う日だ。
だいたいなんで俺なんだよ。目が合えばいつもいがみ合って罵詈雑言ばっかりなのに。
言い合うのが好きとかあいつは討論番組に出てくるオヤジかよ。
それになぜか荷物検査の時に出てきたギャルゲは結局家にあったし。
てかあれマジ誰のだよ。俺のロッカーに入れたやつ、同志といえど絶対嫌がらせしてやる。
俺は待ち合わせの1時間前に起きると歯磨きをし、親が買ってきてくれた英語が羅列してある長袖と色褪せたジーパンに着替えて家を出た。
待ち合わせ場所は駅前のドットールコーヒー。
5分前に着き、店内に入るとスマホの着信音が鳴った。
「窓側の一番左の席」
──ガチャ、プーッ、プーッ
見えてんなら話しかけろよ。
なんかいけない薬でも取引すんのかよ。
俺は仕方なく窓際に向かうと春も過ぎ、もうすぐ初夏を迎えようというのに真っ黒なロングコートにファンキーなサングラスをしたアイルが、不機嫌そうにストローを噛みながら足をブラブラと揺らしてハイチェアに座っていた。
「遅い! 遅いのよ、まったく。普通こうゆう時って男が先に来るもんでしょ?」
「はぁ? 五分前にこれば十分だろ。だいたいお前が来る時間わかんねーのに、お前より早く来れるかっ!」
「はぁーあ、これではっきりしたわ。あんたが水ノ下美織と付き合えそうな確率は全国的に見て0%よ」
「んなこと知ってるっての。降水確率みたいに言ってんじゃねーよ。それよりお前なんつー格好してんだよ」
「仕方ないでしょ! 顔バレするといろいろ厄介なんだから。だいたいあんたの格好も相当やばいじゃない」
俺の格好がやばいだと?
おいおい笑わせてくれるぜ、まったく。
至って普通で、この上ない私服だろ。
「その筆記体の英語の文字なんて書いてるか知ってるの?」
「筆記体の英語? んなもん読むわけないだろ」
「私はペン。スラスラ、滑らかに書けるペン──」
なっ、なんだその文房具の広告みたいな文章は……。
そんな変な英文が書かれていたとは。
さすがの俺でもそれを聞いてしまっては着ているのが恥ずかしい。
「も、もう読まなくていいよ。お、お前が変なこと言うから着てるの恥ずかしいじゃねーか」
「読まないあんたが悪いんでしょ。あっ、そういえばあんたペンじゃなくて、せんとくんだったわね」
「……っつ。せんとくん言うな。てか水ノ下から聞いたのか?」
「そうよ、悪い? とりあえず名前は訂正しないでおいてあげたわ。感謝しなさい」
なんで訂正してないのに感謝せにゃならんのだ。
相変わらず今日もムカつき度MAXな女だ。
「それで今日は何の買い物なんだよ」
アイルは口に手を当てんーっと考え込むと、スマホに映るホームページを指差した。
「動物園にしよっ」
「はぁ? 何で動物園なの? お前、動物買うの?」
「い、いいじゃん行きたくなったんだから。それにもし好きな人と付き合った時のデート練習になるでしょ」
何で買い物からいきなり動物園に変わるんだよ。まったく。
だが文句を言うのもめんどくさいので俺は渋々アイルの言う通りに従うと電車に乗り近くの動物園に向かった。
☆
動物園に到着するとチケットを買って中に入る。
土曜日の動物園はカップル比率より、家族の比率が高く、そこら中に子供が走り回っていた。
「おお、キリンがいる。あっちにはライオンがいるぞ」
「あんたなんだかんだで楽しんでじゃない」
アイルは笑って言った。
サングラス越しで表情は見えないがきっとバカにした目で俺を見ているに違いない。
とは言うものの実際動物を見ているのは面白い。
何を考えているのかわからないから行動の一つ一つに色々な想像が膨らむし、本能の赴くまま生きる様は憧れすら覚える。
例えばなんであいつは群れから離れて一人でいるのかとか、こいつはなんで一人で餌を食べているんだろうとかだ。
ぜひ俺も動物園に入って3食飯付きで一生を過ごしたい。
「なんか檻に入ってるのって、かわいそうよね」
「そうか? 寝たい時に寝れるし、飯は食べれるし最高だろ」
「いや、なんか刑務所みたいじゃない?」
そうか、その手があったか。
よし、おらは将来刑務所に入るぞ。
「それに、ほら、あのお猿さんとかボス猿に餌とか取られて関係とか大変そうじゃん」
おふっ。確かに大変そうだ。
背中とか円形脱毛してるし。
願わくば動物関係いや、人間関係のない独房に入れてもらいたいものだ。切実に。
「あっ、あっちにアルマジロいるよ!」
「おい、待てよ」
まったく自由なやつだ。
だいたいこれはデート練習というやつになっているんだろうか?
俺がこいつの彼氏だったらとりあえず首輪をつけて柵に結んで大人しくさせているだろう。
「マタコミツオビアルマジロだって、敵に襲われると手足を引っ込めて硬い甲羅で身を守ります。巣は地下にあり、暑い日中は巣穴の中で眠って過ごします。睡眠時間はかなり長く、1日だいたい18時間。だってさ、あんたみたい」
「うるせっ。18時間も寝てねーよ」
「まあどっちかっていうとあんたはムシだもんね。ダンゴムシ♪」
「楽しそうに言ってんじゃねーよ。それより俺、オオカミ見たいんだけど」
「何でオオカミ? 好きだっけ?」
「あ、ああ。中学以来好きになった」
そう俺はオオカミが好きだ。
理由は簡単で、一匹狼という言葉に憧れを抱いているから。
俺はぼっちといえど根っからのぼっちではない。
断定するのは嫌だが、今でも心のどこかで友達は欲しいと思ってる。
ぼっちにも色々あってそれぞれなる理由は様々だ。
俺は自己分析的に大きく3つに分類している。
1、なにかをやらかしてみんなから嫌われてしまった、もしくは容姿や性格が原因でいじめられている。哀れ系ぼっち。
2、単に人と話すことが苦手で意図せずともボッチになる。コミュ障系ぼっち
3、群れることを嫌い、常に独りでいる。独りが大好き。一匹狼系ぼっち
これら系統は複合することもあるし、単体の場合もある。
俺は1、2が当てはまり残念ながらぼっち界の憧れの的である一匹狼系ぼっちにはクラスチェンジすることはできていない。
これは俺の修練の未熟さが原因であるとも言えよう。
だから本物の一匹狼を見て力をもらおう。俺はそう考えたのである。
「なぁ、何で狼さん4匹もいるの。1匹じゃねーじゃん。詐欺じゃん」
「はぁ? なに言ってるの? 知らないわよ。えーっと、家族だってさ」
「くそっ。まあ家族ならノーカンか。おらに狼の力をくれ」
「なんかよくわからないけど、あんたってたまに変に笑えるわよねっ。くっくっ……」
アイルは腹を抑え苦笑するように笑った。
それって面白いって意味じゃなく滑稽とか無様とかそんな意味だよな。
お前の今の格好の方が滑稽だぞちくしょう。
☆
こうして俺たちは動物園を巡っていくと昼飯を食べて再び地元の駅に戻った。
「結局あれはデート練習になったのか?」
「んーっ、まっ、あんただからあんなもんでしょ。あんたはどうだったのよ」
「俺!? 色々動物観れたし、まあ良かったんじゃないか」
「ふーんっ、そうなんだ」
アイルはサングラスのブリッジをあげながら適当に頷いた。
「ただ動物よりみんなお前の格好見てたけどな」
「う、うっさい。あんたの格好の方がやばいんだからね」
「あっ、せんとくん。せんとくんだよね?」
突然の声に俺は後ろを振り返ると水ノ下美織がこちらに手を振りながら近づいてきた。
彼女の清楚さを引き立てる白のチュニックに清々しい水色のロングスカート。
初めて見る水ノ下の私服姿に俺のいつも死んだような虚ろな瞳は、今だけクリックリに開きっぱなしである。
それにしてもこんなところで会えるなんて、とっても運命を感じちゃうな俺。
心拍数が一気に急上昇するとトキメキと共に心臓は早鐘を打った。




