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38.問.みんなで勉強会したらどうなる?

 ──日曜日

 勉強会の場所であるまなみちゃんの家に向かうため、アイルと一緒にスマホのマップを開いて歩いていた。


「なーんで美織と野原くんも来るわけ?」


「だから俺に言うなよ。まなみちゃんが誘ったんだから」


 ご機嫌斜めのアイルはぶつくさといいながら俺の横を歩く。

 時折ちらちらとこちらの様子を伺っては、ご自慢のツインテールを指に巻きつけて弄っていた。

 

「まっ、いいんだけどさ……。それより今日の格好どう? イメージちょっと変えてみたんだ」


 彼女の本日のコーディネートはTHEボーイッシュ。

 ネイビーのTシャツにショート丈のデニムパンツ。薄茶色のマリンキャップを被っている。

 しかしまあどんな格好をしても似合う。

 足とかすらっと伸びていて展示してあるマネキンみたいに端正だ。


「ど、どうって、そりゃなんか似合うぞ」


「はぁ? なんかってなに。そうゆうとこちゃんと褒めてよね!」


「いや、俺褒めるとかそうゆうの苦手なんだよ」


「ふーん。まあ星くんだし、初めっから期待はしてないんだけどねー」


 アイルは「べーっ♪」と舌を出すと足どり軽く俺の前を歩きはじめた。

 期待していないのなら最初から聞くんじゃないつーの。

 自分の可愛さくらいこれでもかと認識してるくせに。


「多分ここだな……」


 俺達は大きな平屋の一軒家に到着すると門にかかる表札を確認する。

 どうやらここがまなみちゃんの家らしい。

 周りを囲う塀の長さから察するに敷地面積は相当なものだ。


 インターフォンを鳴らすとハイテンションのまなみちゃんがバタバタと騒がしく音を立てて現れた。

 

「アイルちゃんいらっしゃい! 待ってたよ!」


 そんな彼女の様子にアイルは微笑みながら挨拶を返す。

 招き入れられ、門をくぐり抜けると緑鮮やかな和風庭園が俺達を出迎えた。なんともふつくしい……。


「まなみちゃんの家ってお金持ちなの?」


「んー自分から言うのもあれだけど結構お金持ちだよ」


 アイルの愚直な質問に素直に答えたまなみちゃん。

 これは「え〜お金持ちじゃないよー☆へへっ」とか言われるより幾分高感度アップな返答だ。


 まなみちゃんに案内され客間に入ると野原と水ノ下、貴一がすでにテーブルにノートを出して勉強を始めていた。

 思っていたのと違う真面目な雰囲気に関心してしまう。

 もっと楽しそうにワイワイとやっていると思ったが……。


 俺とアイルも着席すると早速教科書を取り出して勉強を始める。

 大きな円形の木製テーブルには時計回りで、水ノ下、野原、貴一、まなみちゃん、アイル、俺の順で座っている。

 水ノ下とアイルの間に挟まれた俺は二人の間に漂う無音のプレッシャーに手に汗握りながら現国の問題を解いていた。


「ねぇ、アイルちゃんは四文字熟語を3つ答えなさいって出たらなにを書く?」


「四文字熟語かぁー。そうだなぁ、一世風靡と一騎当千と……んーと、一刀両断!」


 まなみちゃんの問に答えたアイル。

 どうやらこいつのボキャブラリーには1という数字が年中駆け巡っているようだ。


「じゃあ星斗くんは?」


「お、俺は無病息災、家内安全、災難消除かな」


「なんか、お寺の人みたいだね」 

 

 確かに絵馬に書きそうなことばっかりかも。

 そんな俺の言葉を聞いて貴一は笑い出した。


「いやー、マジでお坊さんみたい。それに交通安全が入れば完璧だな」


「くっ……。じゃ、じゃあ貴一はどうなんだよ」


「俺なら、弱肉強食、小原食堂、それに近藤歯科だ」


 ま、マジかこいつ。

 真剣に言った所がツボにハマる……。

 

「あー、小原食堂って貴一くんの近所のとこにあるやつ?」


「そうそう! あそこの焼肉定食美味しんだよ」


「そうなの!? 私も今度連れてってよ〜♡」


 キャッキャウフフと楽しそうにいちゃつきだした貴一とまなみちゃん。

 そんな相思相愛な二人に俺は切歯扼腕だ。

 まったく、こんな立派な家に住んでいるお嬢様が、貴一のような頭の弱い子と付き合っていていいのだろうか。

 そんな二人の横では水ノ下と野原が真剣な表情で勉強に取り組んでいた。

 俺の通っている高校では順位発表とかはない。だから1位の秀才である有名な、なんとかくん意外の成績はわからない。

 水ノ下と野原は学力的にはどの程度なのだろうか。

 気になるけどいきなり成績を教えてとか言えないしな……。


「なあ、アイル。野原と水ノ下ってどれくらい頭いいんだ?」


 耳打ちをしてアイルに問いかけると、


「さあ? 知らないけど、聞けばいいじゃん。ねぇ、野原くんと美織って順位どれくらいなの?」


 そう言って躊躇なく二人に尋ねた。

 さすがアイル。遠慮がない。


「俺は真ん中よりちょっといいくらいかな」


「わ、私もそんな感じ……」 


「えっ! そうなの? 二人とも中学の時は9位と10位でかなり上位だったのに? 東西高校恐るべし」


 言いづらそうに二人が言うと、貴一といちゃついていたまなみちゃんが驚いたように言った。

 なら多分だが実際二人とも、もっと上位だろう。謙遜しそうなタイプだしな。


「へぇー。じゃあ二人ともダウトだ♪ じゃあ私より上か下かを教えてよ。5位より上? 下?」

 

 ドヤ顔するアイル。5位より上って言ったらある程度分かっちゃうだろ。こいつ恐らく自分の順位を自慢したかっただけだな。

 野原はすぐ様、下と答えた。

 水ノ下はなにか躊躇う様に手に持ったシャーペンを弄っている。


「も、もしかして私より上……」


 驚愕するアイル。

 この反応言わずもがなといったところか。

 さすが水ノ下。

 お胸だけじゃなく、頭にもしっかり栄養が行っているのか。

 実に理想的な栄養循環だ。


「いや、べ、別にたまたまだよ。二年になったら下がるかもしれないし。あはは」


「ま、まさか私より上が同じクラスにいたとはね……ははっ」


 申し訳なさそうに愛想笑いする水ノ下とぐぬぬっと苦笑いするアイル。その間に挟まれた俺は肩をすぼめて夏目漱石の『こころ』を読んでいた。

 だが、俺のこころはここにあらず。あー早く帰りたい。

 そう考えていた俺に救いの神が現れた。


「ねぇ、なんかお菓子食べたくなっちゃった! 星斗くんと美織買ってきてよ。私達アイルちゃんと野原くんに勉強見てもらうから」


 まなみちゃんはそう言うと財布からお金を取り出し、水ノ下に渡した。

 もちろんこの状況でアイルが黙っている訳もなく、


「私が星斗と行くよ! 美織は1位目指して勉強頑張らないといけないでしょ?」


「いや、アイルちゃんこそ1位狙えるんだから頑張るべきだよ。それにまなみちゃんはアイルちゃんに勉強見てもらいたいわけだし……」

 

「じゃあ、俺と美織ちゃんで行けばいいんじゃないか? アイルちゃんは芸能人だし、もし騒がれたりしたら面倒くさいだろ?」


 張り合う2人に割って入ったのは意外にも野原だった。

 まあ野原の言うことももっともではある。

 しかし久しぶりに水ノ下と2人っきりになれるチャンスなのにな……。

 

「いやいや、野原くんとアイルちゃんはここで待機。じゃあ星斗くん、美織よろしく〜!」


 まなみちゃんはアイルと野原の腕をガシッと掴むと、顎を振って早く行けと催促する。

 ぷーっとふくれっ面のアイルを横目に俺と水ノ下は家を出てコンビニへと向かった。

 土地勘のない俺は水ノ下に案内されながら歩道を進む。

 

「なんかごめんね。まなみちゃんが……」


「い、いや別に……」


 ぷつりと途切れた会話。漂う空気は少しばかり重たい。

 久しぶりに二人っきりで話すということもあるが、やはり水ノ下はなんか余所余所しい。


「あの……。こんなこと聞くのも変なんだけど」

 

「な、何?」


「──アイルちゃんのこと好き? なの?」


 大きくて粒らなアーモンドアイが俺を上目遣いで見据える。

 

「えっ、いや好きじゃないけど。ただの、お、幼馴染だし」


 いきなりの質問に俺は後ろ頭を掻いて答えた。

 なんでこんなこと聞いてくるんだ? 俺のことが好き……とか?否が応でも胸が高鳴る。

 水ノ下は口の前で指を組むと「そうだったんだ」と小さな声を漏らした。


「でもどうしてそんなことを?」


 水ノ下はフルフルと顔を振って、


「えっ、ああ、いや。アイルちゃんと仲いいからさ。私が話しかけると邪魔なのかなって……思ってて……」


 照れ臭そうに前髪を撫でながら答えた。

 そんな気遣いをしていたなんて彼女らしい。

 でもそれが原因であればちゃんと伝えることで、以前のように喋ることが叶う。


「ぜ、全然そんなことないぞ。むしろギャルゲの話とかたくさんしたいしな」


「本当に!?」


「うん」


 突然歩くスピードを上げた水ノ下。

 白のロングスカートがふわりとたゆたう。


「ちょ、ちょっと水ノ下さん? いきなりどうしたの?」


 思わず上げた声に水ノ下は後ろ手を組んで半身振り返ると、


「これからもよろしくね星斗くん♪」


 嬉しそうに笑いながらそう言ったのだった。

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