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第0話 雨の日に拾った少年と"違和感"

ジャラッ——

硬貨が机に広がる。

足りる、あと少しで。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……」


そうやって彼女は毎晩お金を数える。


「やった!もうすぐ入学資金が集まるわ!」


学院に入って商売の資格を取得する。

それが、十四歳の彼女の夢だった。


---


彼女が住み込みで働く宿屋には、外国から様々な客人が訪れる。


「一部屋貸してくれ」

「はい!ではこちらにサインを……」


そうして料金を受け取り、鍵を渡した。


「この荷物を部屋まで頼む」

「はい!……え!?」


それは大量の荷物だった。

この国に入る人間は、みんな魔力を持っているはずなのに。


「なんで私に……」

「自分で運べばいいのに……」


何度も往復して、やっと部屋に全ての荷物を運び終えた。客人はありがとう、と言ってチップをくれた。


(わぁ、これで晩御飯が食べられる!)

(このために頼んでくれたのかな……)


 でも。


「魔法が使えたら、もっと楽に働けるのに」


また別の日は果物屋、また別の日は花売り……

そうして彼女は魔法を使わずに、地道にお金を稼いでいく。


---


宿屋のオーナーに村への届け物を頼まれた。

外へ出て歩いていると……。


「お嬢さん、この辺の子かな?」

「えっ……」


見知らぬ男性に声を掛けられた。

片目には眼帯をつけている。小さな鳥が肩に乗っていた。


「素敵なペンダントだね」

「ありがとうございます」


リアが身につけるペンダントには赤い石がついている。一般的には魔石――と呼ばれるものだ。


「何か、御用ですか……?」


少し警戒した。周囲の大人達にも、知らない人にはついて行くなと口酸っぱく言われている。


「実は、"子供"を探しているんだ。

 君と同い年くらいなんだが……」


「よければ手伝ってくれないかい?」


 怪しい。


「ごめんなさい。今届け物を頼まれていて」

「そうか……呼び止めて申し訳なかった」


リアはすぐに立ち去った。


---


村に行く途中、何かの視線を感じた。

けど、その正体が分からなかった。

魔物――ではないはず。


「遅くなっちゃった……」


宿屋の店主に頼まれた届け物の帰り道。

気がづけばすっかり日が暮れていた。


やがて、雨も降り始める。


「わーっ」


走った。

すると小さな鳥が目の前を通り過ぎていった。


(あの鳥、おじさんの……)


 ガサっ


音のする方を見ると、一人の少年が倒れていた。

"あの"学院の制服を着ていた。


憧れの眼差しを向けた。


「わぁ……」


でも、すぐに気付いた。様子がおかしい。


「だ、大丈夫!?」

「怪我してる……!」


少年に近付いた。

年齢は、リアと同年代のように見えた。


すると少年はリアの胸元にあるペンダントにそっと触れて、深呼吸。


ペンダントが一瞬、熱を持つ。


「よかった……」


少年は小さな声で呟いた。


「え……?」

(このペンダント知ってるの?)


しばらくの間、迷った。

周囲に頼れそうな大人はいない。


「だ、誰か!」


誰も足を止めない。

視線すら、合わせようとしなかった。

子供を引っ張って去る親まで。


雨が次第に、二人の体温を奪う。


「どうして、無視するの……」


(関わらない方がいい……)

(でも――)


(助ければ、評価されるかもしれない)


学院の生徒を助けたら、入学に有利になる。

そんなあざとい考えが浮かんでしまった。


(もう……!!)

(最低だ……!今は違うでしょ!)


「私はリアよ!」

「よければ、私の職場に来る?」


(怪しまれないよう、笑顔で)


彼は、その言葉にわずかに頷いた。


少年を肩に寄りかからせて、宿屋へ戻った。客人と揉めている声が響く。


「オーナーは……今日は機嫌がわるいみたい」


誰にも気づかれないよう、空いてる個室へと運んだ。階段をゆっくり上がり、ドアを閉める。


「ふぅ……」


濡れていた少年の上着を脱がせ、髪の毛をタオルで拭いた。


「着替え!お客さん用のがあるから待ってて」


少年に服を渡すも、ぼーっとしている。


「……っ!……触るよ……」


着替えるのを手伝い、ついでに治療を始めた。

腕は包帯でぐるぐるに巻かれていたので、そのままにした。


残るは手と、頭と、顔。


(わぁ……整った顔立ちね……)


ペタペタ……

できる限り、手作業で治療をした。


「あなた、お名前は?」

「……」


話さない。

昔の自分と重なり、胸がぎゅっとなる。


白いベッドにゆっくり寝かせた。

すると、少年が口を動かしていた。

上手く話せないようだった――


「お腹空いたのかしら……」

「ちょっとまってて!」


食事を運び、スプーンで食べさせようとした。けど、食べない。


「美味しいよ!冷ましたから熱くない!」


リアが自分の分の食事を食べて見せると、ようやく食べてくれた。


---


熱が出始めたようで、息を苦しそうにしている。

汗を拭い、額に張り付いた髪もかき分けた。


「綺麗な髪色……」


やわらかなブロンド。

指先に、ほんのりと温もりが残る。


――けれど。


根本が黒いことに気付いた。


「えっ……」


この国で黒色の髪色は珍しい。


「まるで国王陛下と……」


その先は言ってはいけない気がして黙った。


それから徹夜で看病した。

苦しそうな、呼吸の音。


「大丈夫……?」


少年の手を握ったその瞬間。


バチバチッ、火花がたった。


「いたい!」


静電気?

リアはため息を吐いた。


(私に魔法が使えれば……治療が出来たのに)


不甲斐なさを感じながら眠りについた。


---


翌朝、ゆっくり目覚める。

するとベッドで眠っていたはずの少年の姿がなかった。


おまけに。


「全部消えてる……」


汚れていたはずの床は綺麗に磨かれていた。


ベッドと着替えは綺麗に整えられて、見たことのない花だけが一本残っていた。


それを手に取る。


「……なんのお花だろ」


それはまるで、王家の紋章に使われているような花の形だった。

すぅ……と鼻から息を吸う。


「……いい香り!」


そして。


「あれ……?」


僅かにヒビの入っていた赤い石のペンダント。それが綺麗な見た目に戻っていた。


まるで、最初から何もなかったみたいに。


---


買い物へ出ると、昨日"子供"を探していた男と再び出会った。


「やあ。昨日はどうも」

「こんにちは……」


眼帯の男は、コンパクトを取り出し、リアに見せた。鏡は一瞬で別の姿を表した。


「この少年を探しているんだ」


それは、あの少年だった。


「知っているかい?」

「し、知らないです……」

「そうか……」


男の表情から笑顔が消え、

視線が、ゆっくりとリアの胸元に落ちた。


「その"ペンダント"を持つ君なら――

 知っていると思ったが……」

「もし、見かけたら魔法団に知らせてくれ」


息が詰まった。


「は、はい……」


存在感が怖かった。

まるで、何かを支配するかのような強い目力。

男が立ち去ると、空気が和らいだ。



あの少年は一体、何者だったのだろう……。



(魔法団に追われてるのかな……)

(学院の人だし、すごい魔法の才能があるのかも)


ぽつり、呟く。


「すごいなぁ」


 けれど。


「あの男の子が望まないなら……」


 秘密にしなきゃいけない。

 私と同じように。


 今度は、私が守る番だ。 


リアはペンダントを握りしめた。

赤い石が、わずかに熱を持つ。


まるで、何かを伝えようとしているみたいに。



* * *


そして。


十七歳になったリアは、あの日助けた少年のことがいまだ記憶に残り続けている。



……なぜか、嫌な予感がしていた。



「リア!薬草が足りないみたいの」

「あ、じゃあ私摘んでくるよ!」

「一人で大丈夫?」

「子供たちを誘うから大丈夫よ!」


胸の奥の違和感を

振り払うように、リアは笑った。


治療用と風邪薬用……よし。


リアは大きな籠を持って、町の救護所から出た。

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