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第64話 ごめんね

『来週の25日、2人で会えない? 桃華ちゃんに話したいことがあるんだ』


 草壁から届いたメッセージ。

 こんなメッセージを見て、話したい内容が予想できないほど鈍くはない。


 それにしても、草壁が指定してくるのも25日なんてね。


 渚といる時にメッセージが届いたことには少し驚いた。

 でも、かえってよかったのかもしれない。元々、渚に隠しておくつもりもなかったし。


 約束の25日はもう明日だ。

 草壁との待ち合わせは午前11時。草壁が予約してくれたカフェで昼食をとることになっている。

 そしてその後、渚に会いに行く。


「……大丈夫よね」


 渚はちゃんと、私と恋人になってくれるだろうか。大丈夫だろうとは思うけれど、安心はできない。

 しかしそれと同時に、恋人同士になれた場合のことを想像すると胸が弾む。


 だってずっと、私は渚と恋人になりたかったんだから。


 現在の時刻は午後11時。眠るにはまだ少し早いけれど、起きていても落ち着かない。

 もう眠ってしまおう。そう思って横になりかけた瞬間、スマホの着信音が部屋に鳴り響いた。

 渚からの電話だ。


「もしもし? なにかあった?」

『……明日、桃華が草壁に会うと思ったら、なんか気になっちゃって』

「そうなの?」

『……うん。桃華、草壁の告白、ちゃんと断るよね?』

「告白かどうかなんて分からないでしょ」

『そのくらい、私にも分かるから』


 今、渚はどんな顔をしているんだろう。渚の表情が見たい。これがビデオ通話だったらよかったのに。


「ねえ、渚」

『なに?』

「私、渚が呆れるくらいには一途だと思うよ」


 ほとんど告白みたいな言葉だ。そう、と渚は照れた声で返事をしてくれた。


『明日のデート、楽しみにしてるから』


 それだけ言うと、渚は電話を切ってしまった。

 渚も私と同じように緊張しながら明日を待っているのだと思うと嬉しい。


「今度こそ8月25日は、私と渚の記念日になるのよ」


 言い聞かせるように呟いて、私はぎゅっと目を閉じた。





 ショーウィンドウに映る私は、文句なしに美人だと思う。自分で自分を褒めるのはどうかと思うけれど、今日くらいは許してほしい。

 こんなに時間をかけてお洒落をしたのは、人生で初めてだ。


 ストレートアイロンで真っ直ぐにした髪には、艶が出るスプレーもちゃんとかけた。前髪は緩く巻いて固めたし、服だって1時間もかけて選んだ。

 夏にぴったりな白いシャツワンピース。丈が短くて落ち着かないけれど、渚が前に褒めてくれた物だ。


「……うん。大丈夫」


 爪も、真っ赤に塗ってみた。赤が似合う、と渚が言ってくれたから。


 今さらお洒落をしたからといって、渚の気持ちが変わるとは思わない。だからこれは自分のためだ。勇気を振り絞るための、私なりの武装。


「桃華ちゃん」


 草壁の声がして、慌てて振り向く。私服姿の草壁が、私を見て爽やかな笑みを浮かべた。


 私は今日、きっと草壁に告白される。

 そして私は今日、草壁を振る。


 告白を断るのは初めてじゃない。でも、これほど交流のある相手を振るのは初めてだ。

 前の人生では、ほとんど男とは関わってこなかったから。


「ごめんね。待った?」

「……ううん。私も、今きたところだから」

「よかった。じゃあ、行こっか。お腹空いてる?」

「うん」


 嘘。本当はお腹なんて空いていない。緊張しすぎてそれどころじゃないから。


「よかった。桃華ちゃんが好きそうな店、探してみたんだ。気に入ってくれるといいんだけど」


 草壁はきっと、私のために必死にお店を探してくれた。

 私に告白するために、精一杯のお洒落だってしてきてくれたのかもしれない。

 心が痛まない、と言えば嘘になる。でもこれは私にとって、どうしても必要なことだった。


「ありがとう、優希くん」


 それから、ごめんね。

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