第65話 変わらない答え
草壁が選んだ店は、落ち着いた雰囲気のカフェだった。とはいえ、かしこまった雰囲気というわけでもない。
店内にはクラシックのBGMが流れ、会話を楽しんでいる客も多い。
「桃華ちゃん、どれ頼む?」
見やすいように、メニューを私の向きにしてくれる。アイスやケーキ等のカフェメニューはもちろん、パスタやドリア等フードメニューも充実していた。
「じゃあ……明太子パスタで」
「俺も同じのにしよ。ドリンクどうする? セットのにする?」
「うん。アイスティーにしようかな」
「じゃあ、それも同じで」
私を見て、にっこりと草壁が笑う。たぶんここに座っているのが私以外の女の子なら、素直にときめいていたのだろう。
本当にごめんね。
どうしても、草壁が渚を好きになるのを邪魔しなければならなかった。
そのためには、私が草壁に近づくのが最も有効な手段だったのだ。
申し訳ないとは思うけれど、後悔はない。私にとって最も優先するべきなのは、渚を私の物にすることだったから。
「今日の桃華ちゃん、可愛いね。お洒落してきてくれた?」
「……えっと、まあ」
「嬉しいな」
草壁がタッチパネルを操作して二人分の昼食を注文する。目が合うたびに胸が痛くなってしまう。
今日ここにくるのは、正直気が重かった。
だけどちゃんと、草壁の話を聞くべきだと思ったのだ。
草壁の私への恋を、私が終わらせるためにも。
♡
食事の間は、他愛ない雑談をしただけだ。個室でもない店で告白されるはずがない、と確信していたから。
「そろそろ出ようか」
伝票を持って草壁が立ち上がる。
「今日は俺が奢るよ。俺が誘ったんだし」
「……ううん。自分の分はちゃんと払うから」
「お願い。俺に払わせて」
財布を出そうとしたら、申し訳なさそうな顔で言われてしまった。こんな顔をされたら、さすがに払うと強くは主張できない。
「……ありがとう」
「ううん」
会計を済ませ、そのまま外に出る。
ちょっといいかな? と草壁は人通りが少ない方へ歩き出した。
♡
「ちょっとここ、座らない?」
草壁が指差したのは、さびれた公園のベンチだった。あまりにも陽当たりがよすぎるせいで誰もいない。
快適な場所だとはお世辞にも言えないけれど、二人きりで話をするのにはぴったりな場所だ。
「うん」
「なにか飲む?」
「ううん。カフェで飲んだから、大丈夫」
どんな顔で草壁を見ればいいか分からなくて、つい俯いてしまう。ぎゅ、と握り締めた手の内側には汗がにじんでいる。
「あのさ、桃華ちゃん。話があるって言ったでしょ?」
「うん」
「俺の話がなにか、薄々桃華ちゃんも気づいてるんじゃないかな、とは思ってて」
そうじゃない? と草壁が私を見て笑った。
いつもと変わらない笑顔のようでいて、緊張しているのが分かる。
それが分かる程度には、私は草壁と同じ時間を過ごしてきたのだろう。
「たぶん、桃華ちゃんの予想は当たってる。だからまず、今日ここにきてくれてありがとう」
「……うん」
頷くことしかできない。私は草壁より、ずっと長い時間を生きてきたっていうのに。
「桃華ちゃん。好きです。俺と付き合ってくれませんか?」
差し出した草壁の手は震えていた。
「桃華ちゃんは俺のこと、恋愛的な意味で好きじゃないかもしれないけど……でも俺、好きになってもらえるように頑張るし、桃華ちゃんのこと、本当に好きだから」
何を言われたって、私の答えはずっと決まってる。
私が好きなのは、渚だけだから。
渚以外、好きじゃないから。
「……ごめん。私、優希くんとは付き合えない」




