簡単過ぎる。呆気なさすぎる。
(……こんなものだったのか?)
ニノマエはアイギスの魂を掴みとってみせると、美しい女性は一瞬にして純白の盾と変わり果ててしまった。
これが本来のアイギスの姿。
今まで、形取っていたのは偽りに過ぎない。
アイギスの術が完全に解かれた事で、周囲に立ち込めていた光の粒子は消失し、人々は完全に意識を取り戻していった。
そして、カミロも。
「ウ、ア、がっ、ぱぁ!」
意識を取り戻したかは不明だが、強制的に巨漢となった反動の結果。
カミロの肉体は風船のように破裂。
周囲に無残な肉片が飛び散り、カミロは死に絶える結果となった。
ニノマエは、何か心残りがあって、哀れな犠牲となったカミロの魂も掴もうとしたが。
(なんだ? 既に魂が……)
カミロの肉体から解放された魂は、檻のような囲いが施されていた。
マーサが言う、転生者の刺客を送る冥府神の仕業だろう。
ニノマエがカミロの魂を掴もうとしても、囲いによって弾かれる。
そして、カミロの魂はどこかへ転移されてしまった。
件の冥府神の元に、向かったのだろうか。
何はともあれ……ニノマエは現状に困り果てた。
シンゲツは意識を再び失い。肉体は重症。
そして、掴んだままのアイギスの魂。
(彼女が光の能力を扱えていたのだから、シンゲツの体を回復できればいいのだが……? ん?? これは)
アイギスの盾の方に、何かの痕跡が輝いている。
正確には、ニノマエが感覚で捉えられる何かなのだが……そこは元々、アイギスの魂があった付与されていた部分だった。
少し思案したニノマエは、もしかして、と行動を起こす。
★
「状況確認は取れたか!」
「ハッ。住人の大多数が肉離れを発症しており、治療師の治療を受け回復しております」
「治療師……? こんな小さな村に治療師が配属されていたのか?」
「いえ。D連邦へ向かう途中、村に立ち寄った治療師だそうで」
中継地である小規模な村だったが、事件が事件なだけあって住人がD連邦へ緊急事態を表す狼煙を上げた事で、D連邦から警官隊が到着。
現場検証などを行っていた。
部下から報告を受けた警官隊の上官が、治療師の元へ足を運ぶ。
「貴方が治療をしてくれた治療師か?」
その人物は白銀の光沢ある軍服を纏っており、治療師より兵士を彷彿させる容姿だった。
だが、白という清楚な色合いから、治療師と言われても納得はできる。
深海のような藍色髪の合間から金色の眼光を覗かせる治療師の男性は、上官の問いに頷く。
「ほとんどの者が無事だった。奇跡的に。しかし、向こうに一人……死体がある。人の形すらない為、性別すら分からない」
「ああ……ここの住人の所在確認を行っているが、『カミロ』という男性が行方不明になっている。恐らく、あの死体は『カミロ』と思われる……念の為、死因なども含め解析する事になるな。ところで、何か頼みがあると聞いたが……その。コイツは一体、どうなっているんだ?」
上官が無視しようとしたいが、出来ずにいるのは、治療師の男性――の傍らで倒れている男性。
時折、ビクビクビクと激しく痙攣し、体が妙な動きをしている。
なのに意識はない。
全く以て奇怪な状態の男性――『シンゲツ』に対し、治療師の男性が説明した。
「『魔喰虫』に寄生されている。しかも脳部分に寄生されているせいか、意識が戻らない」
「寄生……?! あ、アンタじゃ治せないのか?」
「いや。治す以前に、寄生している『魔喰虫』は何者かにテイムされている。無暗に取り除くのも不味いと判断し、治癒は断念している」
「……『魔喰虫』って事は、コイツ前科者かもしれないな」
「前科者はこのように『魔喰虫』を寄生して放逐するのだろうか。私は専門外なのでご教示願いたい」
「む……どう、だろうな。状況から、D連邦の強制労働所から逃げ出した可能性が高いか……こちらで身元確認を取ろう」
「ああ、そうして貰えると助かる」
「――っと。忘れていた。アンタの名前を教えてくれ」
「『ニノマエ』だ」
★
『アイギス』を含めた武器を擬人化させる『擬人化』は、武器に魂を付与するユニークスキル。
本来、魂を付与できないものに、付与できるようにさせ、人の姿に変える。
なので、ニノマエは『擬人化』を利用した。
アイギスの魂の代わりに、自身の魂を光盾・アイギスへ。
そして、アイギスの魂は『魔喰虫』へ入れ替えた。
これにより、ニノマエはアレンのテイム支配から解放された。
テイムはあくまでも動物対象。
『魔喰虫』という器に対して行使される為、意味をなさなくなっている。
とは言え。
ニノマエはまだ、様子見をする事にした。
マーサは狙われているのは『シンゲツ』ではなく、『ニノマエ』だと言った。
ニノマエもそうだと思う。
しかし、『シンゲツ』が狙われていないという確証はない。
この状態で、『シンゲツ』と『ニノマエ』。どちらが狙われるかを見極めるのだ。




