第1話 真実なんて大体こんなもん
ひさびさに書きました。
楽しく読んでいただければ幸いです。
長い試練の果てに聖水を手に入れた少年は、それを枯れ果てた神木にかける。
すると、枯れ果てていた神木に葉が生い茂り、活力が戻る。
そして少年の前に神樹の精霊が姿を現し、彼を祝福する。
「試練を乗り越えし、勇敢なる者よ、
私はあなたを祝福し、あなたとともに歩むと誓おう」
こうして彼は英雄への一歩を踏み出したのだった。
その男の名は――
~英雄譚・序章より~
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森の中、二人は三人の子供たちに囲まれていた。
いや――それは子供などでは無い。緑色の肌にシワがれた顔、スライムとともに有名なFランクモンスター、ゴブリンである。
「ちっ、またゴブリンかよ、こいつら金になんねーんだよ」
まだ少年とも呼べる年齢の赤髪の彼――霧雨万里は、不満そうに片手剣を構える。
それを聞いた斧槍の青年ジンはため息をつき、少年に話し返す。
「仕方ないだろ、お前が『この辺にお宝がある』なんつって怪しいおっさんから買った地図見てやってきたら、ゴブリンどもの巣だったんだから」
それは数時間前のこと、酒場で万里たちが食事をしていると、40代くらいの男が「坊主、この地図を買わねいかい? こいつぁな、昔大暴れした盗賊がな……」と話しかけてきて、あれよあれよ言う間におじさんの巧みな言葉で1万ゴールドの大金を払って買ってしまった宝の地図。
その地図を頼りにダンジョン『プリズンタワー』第二階層、通称「魔の森」にやってきた万里とジン。
しかし目的地についてみると在ったのはお宝ではなくモンスターの巣。慌てて逃げ出したが、どうやら数匹ほどが万里たちを追いかけてきたようだ。
「あのクソ親父、今度会ったらタダじゃおかねぇ!」
「まあ、今頃はどっかにとんずらしてるだろうけどな」
空いた左手で拳を握り、怒りをあらわにする万里。
二人のやり取りを見て馬鹿にされたと思ったのかどうかは分からないが、ゴブリンたちは手に持った――おそらくは夢半ばで散っていったのであろう冒険者たちの錆びついた剣や槍を持って万里たちに襲い掛かってきた。
「っと、話してる場合じゃあねぇな、ジン! とっととこいつらぶっ倒すぞ」
ゴブリンたちの攻撃を躱しつつ万里がジンに言う。
そして万里の手に持つ剣が光り始め――
「喰らいな、戦技『一文字切り』!!」
万里の剣が魔物を一撃で一刀両断にする。
「コイツで終わりだ、戦技『突撃槍』!!」
ジンの槍もまた万里の剣と同様に光を放ち、ゴブリンを粉砕する。
残った一匹は仲間の壮絶な最後を見て武器を放り捨て一目散に逃げ出した。
万里たちの勝利である。
「ふぅ、ったく、割に合わねぇ戦闘だぜ。
金になりそうなのはボロい剣だけか?」
そう言って万里は先ほどゴブリンが捨てていった剣を拾い上げる。
正直、劣化が激しくてとてもじゃないが中古での買い取りは難しいだろう。鉄くず屋に売り払うのが関の山だ。
「だー、クソッ、やっぱり納得いかねー!!」
やけになって万里はボロの剣を放り捨て、歩き出す。
「おい、万里、どこに行く気だよ」ジンの問いに万里は「小便」とだけ簡潔に述べ森の奥に歩き出す。
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(にしてもいちいちゴブリン相手に剣を振り回すのもかったるいよな、なんかこうパッとモンスターどもをぶっ倒せるような……たとえば『魔術』とか……へっ、ねぇな、『魔術』なんておとぎ話の中の力なんてよ……)
しばらく歩くと万里はちょうど良さそうな枯れた大木を見つけた。
「おっ、ちょうどいいや、この辺でやっちまうか、
ようし、枯れてて可哀そうなお前に善良なオレが聖水(小便とも言う)をかけてやるからな~」
そう言って腰ベルトを外し、ジョボジョボと音をたてて小便を始める万里。
その瞬間、枯れていたはずの大木が光りはじめたのだ。
「な、なんだ、何が起こってやがる!?」
万里が驚愕するなか、さらなる変化が訪れたのだった。
『ああ、ようやく、ようやく訪れたのね、私を包む幾星霜の眠り、その孤独から解放されるこの時が――』
光がさらに強まり、光の柱はどこまでも、どこまでも伸びていく。
そして、光の中から一人の少女が姿を現した。
万里とジンのモンスター大百科
ゴブリン
パワー F
ディフェンス F
スピード F
魔力 F
知力 E
総合 F
万里「万里と……」
ジン「ジンの」
ジン「モンスター大百科!!
って、万里、お前も言えよ! 俺だけ言ったら恥ずかしいだろうが!!」
万里「っんな恥ずかしいこと言えるかよ」
ジン「おい、今、恥ずかしいって言ったよな、俺今、言っちゃったんだけど!!」
万里「おーす、今回から始まった気まぐれ企画、モンスター図鑑の時間だぞ」
ジン「無視すんな、っていうか気まぐれかよ!」
万里「まあ、補足が必要そうなときにボチボチだな、つーかオレ、こんな金になん
ねーことしたくねーんだけど」
ジン「まあ、いいじゃねーか、少しくらい。ほら、第1回なんだし気合入れてい
こーぜ!」
万里「ちっ、わーたよ、とりあえずゴブリンな、こいつは金になんねー以上」
ジン「って、おい、そんだけかよ!」
万里「まあ、そうだな、こいつらはモンスターレベルF――つまり魔物の中でも弱小
の部類ってことだ探索者たちが落とした武器なんかを使ってくるが、真似事レ
ベルでただ振るくらいしかできないな」
ジン「ちなみにモンスターのランクはF~Aまでの6段階に分かれているぞ」
万里「とりあえずこいつを単独で撃破する実力を身に着けることが探索者の最低条
件だな。まあ、こんな雑魚にやられるようなやつ、普通いねーけどな」
ジン「油断は禁物だぞ、万里。こいつらは集団で行動する、だからなり立ての探索
者がゴブリンの群れにやられるってのはよく聞く話だ」
万里「とまあ、今回はここまでだ、次回の予定はいまんとこ未定だぜ」
ジン「それでいいのか?」
万里「いいんじゃね? オレはやらねー方が楽だしな」
ジン「こいつは……まあ、なんだ、次回も期待してくれよ!」