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傾国の女神  作者: 野津
7/11

ALONE 1

長らく間が空いてしまいました。

しかも「コメディ」のはずなのに、今回何故かちょいシリアス気味な仕上がりに…

すみません(汗)

――王妃降板計画が頓挫し、早一ヶ月。

そりゃもう朝に夕に陛下の視線(というか最早「刺」線)がビシバシと全身を射抜いておりますとも、ええ!何か、更に目付きが悪くなられたような気がする。眉間の皺も一層、深くなられた。勿論、極上の美男であらせられることに微塵もお変わりないけれども、そんなことはどうでもいい。とにかくめっさ怖い。わたしが一体何をした(王妃辞めようとしたけど)。だがしかし、それのナニがいけなかったと仰るのか。わたしごときが勝手に事を進めようとしたのがお気に障ったのだろうか?「やるならとことん自分の手で」ってコトですか?うん、きっとそうだ。それなら辻褄が合う。

でもでも、いいことじゃん!名ばかりの王妃の位に図々しく(全然本意なんかじゃないけどね!これ重要!)居座り続ける目障りな小娘を、ご自分の手を煩わせることなく、晴れてアウトオブ眼中できるんですよ!?なのにその結果、あのツンドラもかくやと言わんばかりの冷眼から放たれる殺人ビームを四六時中浴びせられる破目になるとか、納得いかん。このままだと胃痛と精神的苦痛で死ねる。嫌アアァァァ!

頼みの綱のお兄はあの日から未だに顔を見せてくれないし、宰相様や大臣方に助力を求めても多忙な方々ばかりだからご迷惑になるだろうし、男爵家を頼るなんて以ての外!(だってお爺しかいないんだもん!これ以上心労かけてハゲさせるなんてできない…!)

だーれーかータースーケーテー!!







………なぁんて号泣しながら全力で「メーデー」コールを連発したところで誰も助けちゃくれないのはよぉく判っているので、わたしはおバカな頭で必死に考え倒して、とうとう陛下の殺人光線から逃れるために、いつもは足を踏み入れない中庭の植え込みに逃げこんだ。ここなら物陰になっているから見つからないはずだ、絶対。…多分。…恐らく…。

自信がなくなっていうると同時に、なんだか無性に虚しくなってきた。なぜわたしがここまでせんといかんのだ。わたしは世間様から遠く離れたカビ臭い(でもそれも好き)本の世界に包まれて、目立つことなく地味に静かにひっそりと生きていくつもりだったのに。貧乏でも、大好きなお爺や、大切な家族みたいな優しい給仕さんや侍女さんたちとずっと一緒に、慎ましくともあったかいのんびりした日々を過ごしていくはずだったのに。

それがどうだ。理由も判らず王宮に連れてこられて、無理やり王妃にさせられて。今や数え切れないほどの侍従や女官たちに傅かれて、高価な衣装や装飾品に囲まれて、広い立派な部屋を幾つも与えられて、毎日豪華な料理を食べさせてもらって。――そんなの、ちっとも嬉しくない。ここにはわたしの欲しいものも、わたしの望むものも、なにひとつとしてない。…あー駄目だ、今まで考えないようにしてたのに、一回ドツボに嵌まるともう歯止めがきかない。



「うぅ~~………ッ」



食い縛った歯の隙間から変な唸り声が漏れて、ぶわっと眼から大量の汗が吹き出した。

とうとうその場に座り込んで、両手で抱えた膝にきつく顔面を押し付ける。

こらあかん。と頭の中の妙に冷静なもうひとりの自分がツッコんだけど、もう止められない。



「ぅえ、う、ぅ、……ぅあぁぁぁぁん!」



もうこんなトコに居るのは嫌だ!帰りたい帰りたい帰りたい――!



まるで利かん気のない子どもの癇癪だ。泣いたって、喚いたって、どうにもならんのに。

陛下が何をお考えなのかまったく判りやしないけれど、あのお方がうべなわれない限り、わたしはこの絢爛な牢獄から永遠に出ることはできないのだ。その事実を、それが意味する重い現実を、四年も経ってようやく正しく理解した。理解せざるを得なかった。できることなら理解したくなかったけど!



「陛下の阿呆うぅぅぅ」



なんで、わたしなんかに白羽の矢を立てられたんだ。身分的にも容姿的にも、陛下と並んで遜色ない才色兼備なご令嬢は、この国には掃いて捨てるほどいるのに。しかも陛下は、わたしを王妃に据えられる以前から、幾人もの側室をお持ちでいらっしゃる。皆さん中身は鬼みたく(いや、鬼以上に)悪辣だけど、揃って咲き誇る花の化身かと見紛うくらいお綺麗で、そして全員が「国王」という地位に関係なく一心に、ひとりの男性、自らの「夫」として陛下をお慕いしているのだ。逆にわたしには、陛下に対してそんな想いはこれっぽっちもない。だから彼女たちはなおのこと、わたしを目の敵にしてあれやこれやと嫌がらせをしてくるんだろう。まぁ、美丈夫の陛下と何もかんも釣り合っていないっていうのが、一番の怒りの要因なんだろうけどね。

ああ、本当になんで、陛下はわたしなんかを王妃に据え置かれたのか。それこそが、唯一にして最大の疑問だ。だだっ広い王宮の中に捨て置かれて(と表現するには些か睨まれている時が多い気がする)四年。月に一度、義務的に床を共にすれど、子作りの行為をされたことはなく。わたしとの間に子を成すことが目的ではないとはっきりしたこの期に及んでなお、わたしが王妃の座にとどまらなければならない理由は?――そんなもん、ない。少なくともわたしにとってはそうだ。更に言えば、わたしが絶対に、何としても、ここに居なければならないという確固たる理由もない。というワケでとっとと離縁しやがりください国王陛下この野郎。


――もうこの際、不敬罪で投獄されて処刑されたって構わん。だから最期にこれだけは言わせてくれ。





「陛下、なんか……っう、……へーかなんか大嫌いじゃあああコンチクショおおおおお!!」









「あらあら貴女。そんなにお小さいお身体なのに、随分と大きなお声で大胆なことを仰るのね」





………………………どちら様?


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