ALONE 2
文字通り命をかけた、陛下への鬱憤の詰まった魂の叫び。確かに誰に聞かれようが構わないとは思っていたよ?思っていたけどさ……
――何も本当に聞かれなくてもいいじゃぁないのおおぉぉぉォォ!!
「あ、う、ぅ、ど、ど、どちら様で……」
「あらあらまあまあ。貴女ったら、涙と洟で顔がぐしゃぐしゃよ。…はい、どうぞ。これで早くお拭きなさいな」
そっと手に握らされたのは、肌触りの頗るいい純白のハンカチ。ひょっとしなくてもこれって正絹じゃね?鈴を転がすような美声といい、しっとりと柔らかな繊手といい、絶対にやんごとないご身分の姫君に違いない。泣きすぎて眼が開けられず、顔は確認できないけれども、十中八九美人さんだろうと思う。てか、本当にどちら様?
「ぶっ、ふ、ぅ、ず、ずびばぜん……」
あああ、汚してしまった。美人さん(仮)ごめんなさい。
って、ちょ、強引にゴシゴシ拭かんでください!鼻!鼻!ただでさえ低い鼻が完全に潰れて埋没するから!いでででででで!
「これで綺麗になったわ。さ!眼を開けてごらんなさいな」
至極満足そうな声に、恐る恐る瞼を押し上げる。すぐ眼の前に鎮座ましましたのは、紅薔薇もかくやと言わんばかりの絶世の美女。うわー、微笑むそばから愛嬌がこぼれるような、って表現は、きっとこの人のためにあるんだろうなぁ。一気に眼が醒めたわ。
「どう?少しは落ち着いて?」
「ぐフぅ!!」
はぁう!眩しい!眩しすぎる!平々凡々なわたしにそんな綺羅綺羅しくも麗しい笑顔を振り撒いていただくなど恐れ多うございます!何卒お納めくださいませ!そうしていただかなければわたしの黒く濁った眼が、眼がアアアァァァ!
「ぅ、う、うぁ、」
「まぁ、今度はどうなすったの。わたくしの顔が何かおかしいかしら」
滅 相 も な い ! !
千切れる勢いで全力で首を横に振る。ひいぃ、遠心力パねぇ。マジで首もげるわ。いやしかし、こればっかりは全身全霊で否定だ。美人さん(本物)のお顔には万にひとつの欠点もございません!肌理の細かい白磁にぽつりと落とされた右目の下の泣きぼくろが一層艶麗でイロッポイでございますですハイ!
うわー、うわー!あの陛下に勝るとも劣らない美形さんに会ったのはこれが初めてだ(あ、もちろんお兄も超々!美形だよ。でも少し系統が違うって言うか……うーん、うまく言えん)。陛下のお隣に立てば、互いに引き立てあって名だたる巨匠の名画も凡庸に霞む―――――
…………………あれ?
『陛下に勝るとも劣らない美女』?
ってことはこの美人さんはもしかして
「陛下の幼馴染の――紅薔薇の公爵令嬢様?」
「あら。わたくしをご存じなのね」
真紅のドレスを纏った美人さんはにこりと眼を細めると、スッと背筋を伸ばして完璧な礼を執り、それはそれは優雅に鮮やかな朱を刷く口許を笑みにゆるめた。
「お初にお目にかかります、王妃様。ローデンベルグ公爵が娘でございます。紅薔薇の、などと、この身には勿体ない呼び名でございますわ。臣下の立場を弁えず、差し出がましくもこちらからお声がけいたしましたご無礼、どうかお許しくださいませ」




