宝石の騎士様7
今だ義兄トーク(お互い少しずれてる)を繰り広げる二人に、イラつき出していたら(何でこんな変人が姉様と楽しそうに話してるんだよ!!)宰相が間に入って止めてくれた。ありがとう、宰相さん。
「積もる話はあるでしょうけど、今日はふ、ミシェレア様も長旅でお疲れでしょう。このへんにしときなさい、ヤハル」
「ちぇー、せっかくミシェレアちゃんともーっとお話してもーっともーっとなかよおーくできると思ったのになぁー」
ミシェレアちゃん、なんて馴れ馴れしい呼び方をするな!!ミシェレア姉様の名前を呼ぶことすらお前には許さん!
口に出して毒づきたいが、姉様の手前それはできない。ミシェレア姉様の前ではおとなしく、従順で、賢い私でいたいのだ。
すぐ突っかかる性格だと自負してはいるので、これは自分の中でも快挙である。…そろそろ限界だけど。
「あら、私もヤハルさんともう少しお話したかったわ。またお話し相手になってくださるかしら?」
「え?!いいのー?!」
「もちろんですわ。早速お友だちができて嬉しいです」
「わっほおーい!!あっりがとおおおお!俺っちもミシェレアちゃんとお近づきになれて、チョーうれしいどぅえーす!これから、もっともーっとお近づきになろうね!」
「うふふ、…きゃっ」
「デュフフー、仲良しのしるしー。くんかくんか…んふー、ミシェレアちゃんてばいい匂い…」
姉様の聖母のごとく慈悲深い心で《お友だち》となれたこの変人。それだけでも身に余るほどの光栄なことであるというのに、あろうことか調子に乗って姉様に抱きつきやがる!!
し、しかも姉様の細く白い首筋に顔を近づ…
「きさまぁああああああ!!!さっさと離れろやゴラアアアア!!!!」
「ぶ、ぶふおおおおおおおお?!!!」
我慢していたものが、ぷっつん☆と景気よく切れて気づいたら渾身の右手落とし(言うなればチョップ)をかましていた。そして、そのまま体勢が下に崩れた瞬間に、さらに渾身の右手アッパーを決める。
見事に放物線を描きながら空を舞う変人。そして全てがスローモーションで動きながら、変人は床に落ちた。そう、落ちた。
べしゃん!と。
「…ふう、いい仕事したな」
「ユ、ユエリ…」
「いっだああああああ!!!ひどい!いたい!ひどいよおー!ちょっと!いきなりひどくない?!これひどくない?!」
「うるさい、糞が。てめーは、ミシェレア様に近づくな。顔を見せるな。同じ空気に触れるな。馬鹿がうつる。」
「ぐおお…肉体的苦痛のあとは精神的苦痛だと…?!キミは、なんという激しい愛の持ち主なんだ!いいよん!俺っちは全て受け入れるよん!…カモンッ」
「………………」
もう一発頭に一撃を下ろす。
ゴンッ!と力強い音が響く。
あぁ、、手が痛い。
「ぐうううう…脳みそが今揺れたような…」
「揺れるほどの脳みそなんてないでしょう。この石頭」
「ひどい!なんか俺っちへの扱いひどい!そして、その冷ややかな目線がぞくぞくする!」
「宰相、やはり寄宿舎に行くのを拒否してもいいでしょうか?」
「気持ちは分かりますが、既に部屋の用意はしてありますので、彼に案内してもらって下さい。」
しれっと拒否を示す宰相に苛立つが、そろそろこの馬鹿を姉様から離さないとやばい気がする。
今も、へらへらと軽そうな笑みを浮かべて姉様に話しかけている姿は、後ろからどついて、縛り上げて窓から放り出してしまいたいほどだ。
「ヤハル、そろそろユエン殿を寄宿舎に案内してあげなさい。ラファールも待っていると思いますよ?」
「んえー、もうちょっと、ミシェレアちゃんと話したいなぁー」
拗ねたように唇を尖らせるヤハルだが、宰相がにっこりとした笑顔で「ヤハル?」と呼び掛けると、急に室内の気温が下がったような気がした。それと同時にヤハルは背筋を伸ばして「了解でありますです!」と告げ、いきなり私の腕をつかみ出した。
「ちょっ……!!」
「では!失礼しましたぁー!またね☆ミシェレアちゃん!」
「はい、ヤハルさんこれからよろしくお願いいたしますね。またあとでね、ユエン」
「み、ミシェレアさまあああ」
十分に別れを惜しむこともできず、腕を掴まれた状態のまま部屋の外へと連れていかれる。
にこにこと笑みを浮かべた姉様が閉められた扉の隙間から一瞬だけみえた。
「ミシェレアさま…」
「ふぃー、こわかったぁ。宰相さま☆ってば本気で怒らすと怖いんだよね~ぇ。だから君も発言とかには気を付けた方がいいぞーい」
「……お前が一番気をつけろおおお!!」
「いっだあああいい!!!」
ゴンッと重たい音が静かな廊下に響き渡った。
「ひでぇーなぁ。俺っちは一応第三部隊の隊員だから、君より先輩なはずなんだけど…」
「私は尊敬できない人を先輩とは思わないことにしているんで」
「え?!それって、俺のこと尊敬してないってこと?!うっそーん!なんでなんで??」
「…むしろ尊敬されたことあるんですか?貴方」
「え?あるよ?たくさん」
「………」
「え?なんでそこで黙るの?」
「………」
「え?何でこっち見てくれないの?ねぇ!ちょっとおおおお」
「……(無意味な会話などしても無駄だな)」
ギャーギヤー騒ぐ変態を無視しつつ、先程も宰相に案内された通路をひたすら歩く。歩くたびに、下にひかれたカーペットがふわふわする。この廊下は主に妃候補たちや、賓客が泊まりで訪れた時に利用する場所らしく、ご丁寧に廊下にまでカーペットをしいているらしい。
なんという贅沢な城なんだ、と思ったが、ただの城ではなく王城なのだから、当然なのかも?と思い直すことにした。
「ね、ね。ユエンちゃんっていくつ?見たところけっこぉー若そうだよね!」
「成人したてとか?あ!俺っちはねー、いくつかというとねー、、、ひ、み、つ!気になる?ねぇ、気になる??」
「ユエンちゃんが、どうしても知りたいっていうなら教えてあげてもいいんだけどなぁー??」
隣を歩くうるさい変態さえいなければ、もっと城の中を見回したりとかしたいのだが…
無視しても無視しても、諦める気配がないこの変態。根性があるといえば、そうなのだろうが、違うところでその根性を発揮してほしい。
「ねぇー、ユエンちゃあーん」
「…私は男ですから、ちゃん、をつける必要はありません」
「あー!やっと話してくれた!!ふふふー、ユエンちゃんは、ユエンちゃんだからね!男とか女とか関係ないんだよだよよーん」
「………意味がわかりませんね、本当に」
こんな訳のわからない馬鹿が、国の中枢を守る騎士であるということに、この国の未来に多大なる不安を抱くのは致し方ないことだろう。