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夜明けまで恋して  作者: 鴉野 兄貴
『めし』『ねる』『うまかった』

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『めし』『ふろ』『ねる』『うまかった』

 由紀子です。

あれから色々ありました。って言ったら変ですよね。たいしていつもと違っていないのです。

彼との初めての話。ですか。それはちょっと。

簡単に言うと当時はモルタル壁で、寮でしたので、皆さん聞き耳を立てていたんですよね。

風情も何もありません。私たちは声を殺しておりました。時々夫が変な声を上げそうになったらつねって差し上げましたから。


 あと、彼に関しては毎晩どったんばったん暴れる寝癖は何とかしてほしいものです。

お蔭で木下さんの奥さんから「ゆっこちゃんって激しいんだね」って言われてしまいました。違います。断じて違います。


 彼と初めて迎える正月。

当時は大みそか前には全ての店舗は閉店していたため、難渋することが多かったのですが、皆それが当然のことと思っていました。貴重なお休みの時期だったのです。


 話し戻して。

何故かみかんひとつ、ナマコと大根を事前に購入していた彼はおせちを作る私に不思議そうにしておりました。

「ナマコと大根とみかんと餅があれば正月じゃないのか? 」

……なんと言ってあげればいいのでしょうか。


 初めての夫婦喧嘩は生命保険にはいるか否かでした。

「おれを殺す気か」とか文句を言っていたものです。

同僚の方がお亡くなりになってから彼も考えを変えましたが。


 初の子供は。女の子二人です。

可愛らしい双子に恵まれ、私たちはちょっとお財布の心配をしていました。


 当時は男の子を生むことが切望されていたので休む暇もなくもう一人。

年子で生まれた子はこの子は難産でして。当時は大きくうむのが良いこととされていましたが、この子は陣痛が全然始まりませんでした。

そんなことより文句を言いたいことがあるのです。


彼が帰宅すると。


「めし」

私は出来たご飯をよそい、子供たちと彼に与えます。

「ふろ」

このころはまだ社宅で、水道のポンプが貧弱だった時代です。

二階にはお風呂がありません。当時のアパートなどには樹脂製の風呂桶のようなものがありましてこれを使ったり、素直にお風呂屋さんに向かったり、階下の家の方に頼んでお風呂を借りたりしておりました。

「寝る」

……。


「なんかしゃべれっ!!!!!!!!!! 」

「うまかった」

昭和の殿方はこんな感じだったのです。


 まぁ。洒落者の久さんは家に帰ったら腹巻とステテコだけということはありませんでしたけどね。

その代り家に帰れば木下さんたちと宴会を開くので、毎日ビールケースが空になっていました。

息子、圭一がこのビール瓶を盗んで五円で換金してお小遣いにしていたのが発覚し、彼のお尻を一〇〇叩きしたのはもう少し後になってからのお話でございます。

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