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夜明けまで恋して  作者: 鴉野 兄貴
幸せに。なります

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39/70

久と木下の休日

「木下。まだだ。まだだぞ」 久は早くも臨戦態勢。

そして、木下と呼ばれた青年も鋭い視線を一点に注ぐ。


「久。まだか」「まだだ。木下。耐えるんだ」

くそっ。木下はうずく身体を押さえるかのように呟く。



 二人の視点の先には。味噌で煮込んだ牡蠣かきとほうれん草の。鍋。

「まだかああああああああああ」「まだだっ! 生牡蠣は危険だぞッ 」

1975年。この時代、冷凍技術はまだまだ発展途上であった。


「ああ。やっぱ牡蠣は美味いわ」「春先だからどうだと思ったがなかなか」


 二人の青年は美味そうに牡蠣をついばみ、ほうれん草に舌鼓をうつ。

この時代、ハウス栽培の技術もまだまだ発展途上である。

ビニールハウス(和製英語。正しくはGreenhouse)の設置数は昭和40年代から増え始めた『新しい農法』である。


「これが俺の故郷のごちそうだ」久。お前の故郷って。

「マジか。もうちょっと良いの食えよ」一言多いぞ。木下。


 由紀子が森本家で豪華な(?)歓迎を受けているとき、

久は久々の休日(この時代、休日出勤は給料二倍なのだ!)を木下と過ごしていた。色気の無い男だ。


「しかし、あれだな。いい牡蠣が手に入ったよな」「だなぁ」

二人の背後にはバケツ一杯の牡蠣が入っている。『知り合い』に貰ったのだ。


「あれって。もしかして密漁」「だまれ。俺たちまで牡蠣のように沈むぞ」


 どんな友人なのか、凄く気になる話である。

ご飯にお茶漬け海苔をかけ、大根おろしをすってかけ、熱湯を注いで食べる二人。久の発案だがそれなりに美味い。

七輪を木下が取り出してくる。牡蠣が焼けるかぐわしい臭い。暖かい湯気が二人の汗を誘う。

「こっちは俺のだ」「いや。俺のだ」


 バケツ一杯あるんだから、余裕もて。

ちなみに、二杯分あったのでその分は寮長や専務たちに持って行った。

ものすごく喜ばれていた。この時代、海産物の保存は細心の注意を必要とする。


「久。この間の釣りでマムシに襲われたんだって」「ああ。専務達や火乃さんといった釣りか」

久は子供のように可愛がられている。そういうこともある。

この時代の車には冷房は装備されていない。暖房もである。



「いや、マムシが火乃さんの出会い頭に」「ほうほう」

「で。咄嗟に棒切れでぶん殴って、口をそのまま棒で押さえて」「おう。引き裂いてマムシ酒だ」

帰りは股間がビンビンのギンギンで、二日三人は眠れなかったと言う久に笑い転げる木下。


「あるのか」「残り? あるぜ」

ちょっとのもうぜ。木下は余計なことを言う。

昼間から酒盛りを続ける二人の元に、牡蠣の焼ける香りを嗅ぎつけた人々が次々とやってきた。

久が漬け込んだ色のついた日本酒を飲む人々。あっという間にそれはなくなり。



「いやぁ。昨日の晩は女房と張り切ってしまって」「そ、そうですか」

ツヤツヤの顔立ちの専務を見て久と木下は「しまった」と言う顔をしていた。

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