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「君を愛するつもりはない」と言った伯爵様の胃袋をつかんだら溺愛されました  作者: あいら


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エレナが救出されてから三日。

まだ目覚めたり眠ったりを繰り返す状態ではあったが、確実に回復へ向かっていた。

クラウディオはそのたび胸を撫でおろし、その傍からほとんど離れようとしなかった。


そしてその間にも、国全体を揺るがす激震が走っていた。


ダリオ・バルツァーリ——

クラウディオの叔父であり、代々続く名門バルツァーリ伯爵家の分家当主。

その彼が、今回の誘拐計画の黒幕だったという事実は、王都に瞬く間に広がった。


横領、誘拐、暴行、そして伯爵家本家の資産を狙った陰謀。

どれひとつをとっても重罪であり、これが一人の伯爵家関係者の犯罪であることは国にも衝撃を与えた。


クラウディオは裁定の日、エレナの寝室を出る際、彼女の手をそっと握った。


「すぐ戻る。……国がどう裁こうと俺は、お前を守るために最後まで戦う」


エレナは薄く微笑み、枕に頬を寄せた。


「……クラウディオ様、行って……あの人を、終わらせてください」


その言葉が、クラウディオの背中に重く、しかし確かな決意を乗せた。







その頃、ダリオは逃亡を図っていた。


王都の外れ、廃れた別邸。

かつては彼が資産をため込むための隠れ蓑として利用していたが、今は荒れ果て、壁にかかった絵画ですら埃にまみれている。


「なぜだ! なぜ私がこんな目に!」


ダリオは机を蹴り飛ばしながら叫んだ。

酒瓶を乱暴に開け、喉を焼くように流し込む。


「すべてはあの小娘のせいだ……!

エレナが来てからすべてが狂った……!」


怒りは盲目的な熱となって彼の頭を支配していた。

だが、敗北が確定した現実は消えない。


「ミケーレ! お前はどこだ!」


奥の部屋から怯えた足音が近づく。


「……父上、お願いです。これ以上逃げないでください。

王宮に出頭すべきです。もう——」


「黙れェ!!」


ミケーレは思わず後退した。

父ダリオの目は血走り、理性の欠片すら残っていない。


「お前は私を裏切るのか!?

クラウディオにつくというのか!?

あの恵まれたガキに!

私がどれほど惨めに努力してきたと——!」


「父上、それは……違う。

クラウディオ様は……あなたの敵ではありません。

罪を認めてください。あなたを救える道は、それしか——」


「救える? 誰が? クラウディオが? 国王か?」

ダリオは嗤った。

「私の人生を踏みにじった奴らの裁定を受けろと? そんなもの……認めるものか!!」


その瞬間、別邸の外が騒がしくなった。


「伯爵ダリオ・バルツァーリ!

国王陛下の名において拘束する!」


騎士団の声が響き、馬の蹄音が鳴り響く。


ミケーレが顔色を失う。


「父上……逃げられません。もう……終わりです。

だから、せめて——」


「黙れと言っている!!」


ダリオはミケーレの胸倉を掴んだ。

その手は震え、爪が食い込む。


「お前まで私を裏切るのか……?

私のために泣いてくれるのは……お前だけだったのに……!」


嗚咽のような声に、ミケーレの胸が締め付けられた。


「……裏切ってなんかいません。

ただ……父上に、人として正しい道を歩いてほしいだけです」


一瞬、ダリオの手が弱まった。

だが次の瞬間には、怒りでその目が再び濁る。


「もう遅い……! 私は終わってなどいない……まだやれる……!!」


ドンッ——!


扉が破られ、騎士団が雪崩れ込む。


「動くな!」


ダリオは暴れたが、数人がかりで押さえつけられた。

顔を床に押し付けられ、鉄の鎖が腕に巻かれる。


「離せ! 私は伯爵家の者だ!

この国の貴族だぞ! 私を誰だと思っ——!」


「大罪人だ。黙れ」


クラウディオの声が割って入った。


ミケーレがハッとして振り返る。


クラウディオは冷たい目をして、捕らわれたダリオを見下ろした。


「——エレナに触れた時点で、お前の命は終わっていた」


ダリオの顔色が変わる。


「クラウ……ディオ……!?

まさか……お前……私を本気で——」


「当然だ」


それ以外に何があると言わんばかりの声音だった。


ミケーレはその場で涙を堪えきれず、膝をついた。


「クラウディオ様……父上を、どうか……」


「ミケーレ、お前は何も悪くない。

父の罪が、お前の罪になることはない。

——必ず俺が守る」


その言葉に、ミケーレは崩れ落ちるように泣いた。






王宮——裁定の間。


玉座の間には王、宰相、そして貴族たちが並び、

中央に罪を問われるべき男・ダリオが跪かされていた。


国王の声が響く。


「ダリオ・バルツァーリ。

お前に問う。

横領、誘拐、暴行未遂。

これらの罪に、何か弁明はあるか?」


ダリオは震えながら口を開く。


「私は……私は……すべて、家のために——!」


「家の名を騙り、己の欲望を満たそうとしただけだろう」

宰相が冷ややかに言い放つ。


クラウディオも一歩前へ出た。


「叔父よ。

あなたがどれほど俺の家を汚し、エレナを苦しめたか……

生涯かけても償いきれない罪だ」


「私の……私の人生は……!」


「自分で壊したのだ」


ダリオは泣き崩れた。






王は最終判決を下した。


「ダリオ・バルツァーリ。

お前を——伯爵位より剥奪し、さらに、国法に基づき重労働刑二十年とする。

……これが国家としての裁定だ」


扉が重く響き、判決が確定された。


ミケーレは傍で震えていたが、王は穏やかに言った。


「ミケーレよ。

お前が父の罪を知った時の行動は誠実であった。

罪なき者として保護し、将来は王宮で働く道を選んでもよい。

父の罪で人生を縛られる必要はない」


ミケーレの目から涙が落ちた。


「……ありがとうございます……!」


クラウディオは近づき、彼の肩を優しく抱いた。


「ミケーレ、お前は俺の家族だ。

——そして、エレナにとっても」


ミケーレは声を殺して泣き続けた。






こうして、バルツァーリ家を脅かし続けた陰謀は終焉を迎えた。

しかしその代償として、クラウディオもエレナも深い傷を負ったままだ。


それでも、

エレナの病室に戻ったクラウディオは、彼女の寝顔を見つめながら静かに呟いた。


「もう……何も恐れなくていい」


その言葉には、これまででいちばん強い誓いが込められていた。


——すべては、彼女を守るために。

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