第1話 婚約破棄と回転軌道ですの♥
「――公爵令嬢セレスティア・アーデンベルク! お前との婚約を、破棄する!」
王子の声が響くたび、シャンデリアの光が細かく震えましたの。
舞踏会場は静まり返り、グラスの音すら遠のきます。
けれど私は、ただ扇子を閉じて小さく息を整えましたの。
「まあ。では――証拠をお見せいたしますの♥」
腰のホルダーから、青銀のブーメランを取り出しましたの。
客席のざわめきが波のように押し寄せます。
狙いは、殿下の背後の燭台。
弧を描いて、空気が鳴ります。
キィィン、と澄んだ音。
蝋燭の炎だけを切り揃えて、一本も倒れませんの。
「ご覧あそばせ。寸分の狂いもございませんの。
殿下の“浮気心”だけ、きれいに外れましたわ♥」
しかし――遅れて天井の飾りがドガァン!
「きゃあああっ!」
悲鳴と花弁が舞う中、私は微笑んでブーメランを受け止めましたの。
「……あら、少々威力を盛りすぎましたの。
ですが――結果オーライ、ですの♥」
王子は膝をつき、周囲は呆然。
その混乱の中、黒衣の男が歩み寄ってきます。
「貴女、ギルド所属では?」
「いいえ、社交界所属ですの♥」
「ならば――狩猟士として迎えたい。貴女の腕前、実に見事だ。」
私は一瞬だけ考えるふりをして、微笑みましたの。
「戦いなんて興味ございませんの。
……ただ、投げたい時があるだけですの♥」
王子は青ざめ、観客は口を開けたまま。
世界が静止する中、私のブーメランだけが、月光を返して回っていましたの。




