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第35話 白い狼1

 コショウを取るのに夢中で、背後の大きな白い狼に気づかなかった。狼は3メートルほどの大きさで、僕をじっと見つめている。狼に襲われるかもしれないと恐怖を感じたが、動くことができなかった。


 それにしても、白い大きな狼ってどこかで聞いたことあったような……。


 動くこともできず、どうやって切り抜けようか考えていると。


 白い狼はゆっくりと近づいてきた。狼に襲われると思ったのだが、恐怖ですくみ動くことができない。狼は僕の目の前で立ち止まり、じっと見つめた。狼の息が顔にかかるのを感じた。狼は僕に噛みついてくると思ったが、そうしなかった。


『少年よ、能力を使えるようになったのですね』


 頭の中に女性の声が響き渡る。


「……今、喋ったのはあなたですか?」


『その通りです。おかしな事を聞きますね』


「すみません。まさか会話できると思っていなかったので」


 白い狼は琥珀色の瞳で僕の顔をじっくり見ている。食べても美味しくないよ? 多分だけど。


『ふむ、優しい心の持ち主に育ったようですね。どうやら、赤子をハーフエルフの女に預けたのは正解だったようですね』



 そうだ、メグ姉の前に現れたとき、僕の入った籠を咥えてた狼だ!


「あなたが僕をここまで連れてきたんですよね? 遠いヴァルハーレン領から連れてきたのも、あなたの仕業ですか? あなたが僕を見つけたとき、僕は捨てられてたのでしょうか?」


『一度に質問が多いですね。分かりました、移動しながら話をすることにしましょう、取りあえず私の背中に乗りなさい』


 そう言うと狼は体を屈めて乗りやすい姿勢になる。話を聞きたい僕は言われた通り背中に乗ってみると。


 めっちゃモフモフなんですけど! 白い狼の毛並みは最高だった。

 

『それでは行きますね』


 白い狼は魔の森の奥、別名迷いの森へと高速で駆け出す。よく考えたら、魔の森の奥地なんて危険すぎるじゃん。少し心配になってきた僕は。


「あの……何処へ向かっているのでしょうか?」


『私の(あるじ)の所です。少年の聞きたかった事はそんな内容でしたか?』


「そうでした、赤ん坊だった僕をヴァルハーレン領からコラビの町まで連れてきたのは、あなたなんでしょうか?」


『そのヴァルハーレン領とか、コラビの町という名前は分かりませんが、北の森から連れてきたのは私ですね』


「――! 今、森って言いましたよね、僕は森に捨てられていたのでしょうか?」


『捨てられていたのかは分かりません。私が赤子、つまり少年を見つけたのは、森の中に建てられた盗賊の砦の中でしたから。盗賊たちが赤子をどうやって手に入れたのかまでは分かりません』


「そうだったんですか……」


『どうやら、少年が知りたかった情報ではなかったようですね』


「大丈夫です。どのみちそれを確かめるため、旅にでたんですから。僕がどうやってコラビの町まで来たのかが、分かっただけでも大収穫です」


 ずいぶん魔の森の奥地まで来たような気がするけれど、どこまで行くのだろう。


「ところで、どうして僕を森の北から南まで連れてきたのでしょうか?」


『それは赤子が糸を操る能力を持っていたからです』


「なぜそんなことが分かるのですか? 能力は7歳にならないと女神様から授かれないはずなんですけど」


『それはおかしいですね。能力は生まれつき持っているものですよ。そもそも女神たちがこの世界に来る以前から能力は存在しましたから、間違いありません』


「――!」



 衝撃の事実だった。つまり、能力が糸だったから捨てられた可能性も考えられるということだ。


 それにしても、まさか能力と女神様が関係なかったとは……。

 

『まさか、盗賊の砦で糸を操る能力を持った赤子を見つけるとは思いませんでした。我が主の苦痛を取り除けるのではないかと考え、連れて帰りましたが、当然赤子が能力を使いこなせるはずもありません。しかたなく、預けられる人間を探していたときにハーフエルフの女を見つけ、彼女に預けたわけです』


「それで僕はコラビの町に連れてこられたんですね」


 これでヴァルハーレン領まで行く理由の半分以上が解決してしまったのではないだろうか……。


『少年はなぜ北の地へ向かっているのですか?』


 僕は家名が残っていること、親が探してる可能性もあるということを説明した。


『なるほど。盗賊に連れ去られていた可能性もあるということなんですね』


「はい、もし探しているのなら元気で生きていることを知らせてあげたいと思いまして。もちろん捨てられてた可能性の方が高いのですが」


『そうですか、私は余計なことをしてしまったのかもしれないですね』


「余計なことですか?」


『助けが来たかもしれない赤子を連れ去ってしまったことです』


 どうやらこの白い狼はとても優しい狼のようだ。


「まあ、助けが来る前に殺されていたかもしれないので。あなたに助けられたのは事実ですよ」


『……』



 その後会話のないまま駆け抜けると、突然辺りの空気が神聖なものに変わったのを感じた。


『着きました。あそこにおられるのが我が主になります』


 視線の先には真っ白な狼がいた……。

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