第36話 白い狼2
視線の先にいたのは真っ白な体長40センチぐらいの子狼……。
凄く可愛いのだが、4本の脚には地面からでている紐で拘束されて、身動きできないようだ。
「なんて酷いことを!」
僕は近寄って紐をナイフで切ろうとする。ところが紐は全く切れる気配がなく、先にナイフの方が折れてしまった。
「なんで!?」
子狼が僕に話しかけてきた。
『小さき者よ。それは忌々しきドワーフ共が創りしグラウプニル。たとえ神の力を持っていたとしても、決して切れることはないだろう』
「僕より小さい子狼に『小さき者』って言われた……」
『気になったのはそこかい!』
なかなか良いツッコミだった。
「グラウプニルって北欧神話でフェンリルを拘束していた紐のことですか?」
『小さき者よ。よく知っておるな……さては転生者か?』
「どうして分かるんですか⁉」
『簡単なことだ、我も転生しておるからだ』
「えっ! 元地球人ってことですか?」
まさかの子狼転生パターン!
『いや、そうじゃなくてな……我がフェンリルだ!』
「……」
『我がフェンリルだ!!』
「どうして2回言ったの?」
『小さき者が無視するからだ!』
「フェンリルって神獣ですよね? 転生に失敗したんですか?」
『どこが失敗なんだ!』
「神獣から子狼に転生して、さらにグラウプニルによる拘束付って、かなりハズレですよね?」
『ハズレ言うな!』
意外とフェンリルってノリがいいな。
「そもそもフェンリルって北欧神話の終末の日、つまりラグナロクの時にグラウプニル外れてますよね? 確かオーディンを喰って仕返しをした後、オーディンの息子ヴィーザルに倒されたのでしたっけ?」
『小さき者は、物知りだな。確かに我はオーディンに恨みを晴らしその直後に倒された。その後なぜかこの世界に転生したのだ。グラウプニルつきで……』
家具家電つきの引っ越しみたいだな。
「ラグナロクの後に転生したのですね」
『うむ、転生した直後は元の大きさだったのだぞ』
「途中で縮んだってことですか?」
『うむ、グラウプニルはただ拘束するだけではなく、我の魔力を吸い取っておるからな。身動き取れずにいた我の前に、たまたま今にも死にそうなホワイトウルフが現れてな。このまま魔力をグラウプニルにくれてやるのももったいないと思った我は、そのホワイトウルフに魔力を分け与え眷属としたのだ。それがそこのエンシェントウルフだ』
「そうだったんですね! 眷属にした結果、ホワイトウルフからエンシェントウルフになったってことですか?」
『少年よ、その通りです』
『我も動けず暇だったから、エンシェントウルフに、この世界の情報を集めて貰っていたのだ』
『この森は私の縄張りなので、そこに住み着く盗賊を退治していた時に赤子を見つけたのです』
「それが僕だったってことなんですね?」
『その通りだ。エンシェントウルフは我の前に赤子を連れてきてな……我が心優しきものに預けるように指示したのだ』
「それで僕が大きくなるのを待っていたと?」
『……』
フェンリルが何かを言うのを躊躇っていると、エンシェントウルフが話を繋ぐ。
『少年よ、待っていたのは私だけです。主はこのまま消えゆくのも定めと言って、少年への干渉を禁じていました』
「なぜですか⁉ 消えちゃうんですよ?」
『小さき者よ、我ら神族には死に対する恐怖や恐れなどはないのだ』
「だからって、せっかく転生したのに……」
『転生はもしかしたら妹の仕業かもしれないな。まさかグラウプニルも一緒について来るとは思わなかったが』
「妹といえばヘルですか?」
『うむ、アレも不憫な妹でな』
「確かに北欧神話のオーディンって結構酷いですよね」
『小さき者はなかなか話が分かるな』
「預言を元にフェンリルは紐で拘束して、ヨルムンガンドは海に投げ捨てたり、ヘルは冥界に叩き落として、最後復讐されてもしょうがないって思いましたよ」
『おもしろいヤツだな。よし! 最後の魔力を小さき者に授けよう!』
『……主よ!!』
「ちょっと待ってください! せっかく僕をここまで連れてきたんだから、まずは能力を試しましょうよ!」
『我を拘束から助けると?』
「神器相手に通用するかは分かりませんが、意外と『糸』に関しては万能ですよ? だから試してみますね」
『ならば小さき者に任せよう』
僕はまず、フェンリルの前足を拘束しているグラウプニルに集中してみる。
『グラウプニルを確認。登録しますか?』
目の前に透明な画面が現れる。
【登録1】グラウプニル
登録しますか? ・はい ・いいえ
<はい>と念じる。
【能力】糸(Lv4)
【登録1】麻、綿、毛、絹、鉄、アルミ、鋼、銅、銀、金
ジャイアントスパイダー▼、グラウプニル(使用不可)
【登録2】炭素
【媒染剤】鉄、銅、アルミ
【魔物素材】ホーンラビットの角(18)
【形状】糸、縄、ロープ、網、布▼
【作成可能色】20色▼
【解析中】無
いきなり登録できたのはいいが、使用不可となっている。糸の能力のレベルも上がり、素材の合成ができるようになった。
そして、フェンリルを拘束していた前足のグラウプニルが消え去ったのだ。
『――!!』
『これは凄いな! 拘束が無くなるのは何百年ぶりだろうか』
「このまま後ろ足のも回収しちゃいますね」
『ちょっと待つのだ! 小さき者は能力で取り込んだ糸を出せるんだろ? グラウプニルは出せるのか?』
「よく分かりますね? グラウプニルは残念ながら使用不可になっています」
『やはりそうか! グラウプニルは特殊な素材故に、簡単には出せんようだな』
「確か、猫の足音、女の髭、岩の根、熊の腱、魚の息、鳥の唾液を素材として作られていて。これらの素材は、グラウプニルを作るのに使用されたので、この世に存在しなくなったと言われているんでしたっけ?」
『小さき者は博識だな。おそらく新たに作り出すのは難しいのだろう。肝心の素材がこの世に存在してないのだから』
「なるほど……その通りかもしれませんね。でも使えないのは残念ですが、拘束は解けますのでさっさと取っちゃいましょう!」
『だから待てと言っておるだろうが! 北欧の神々に恐れられた、我でも切れない紐だぞ、無くすのは惜しくないのか?』
「そう言われても……あっ! 直接操ればいいのか!」
『できるんじゃねぇか!』
自由になった前足でビシッとツッコミが入る。これならヴァーヘイレム王国ナンバー1の漫才師を目指し……いや目指さねぇよ!
気を取り直して、後ろ足を拘束しているグラウプニルに触れてみる……良かった、なんとか操れそうだ。フェンリルの後ろ足に絡みついているグラウプニルを解いていくと、フェンリルがついに自由となった。
「やった! 成功した!」
思わずフェンリルとハイタッチ!
『小さき者よ……いや、まだ名前を聞いていなかったな』
「エディです」
『エディよ忌まわしきグラウプニルから我を解放してくれて感謝する、そしてエンシェントウルフよ、エディを連れてきてくれて感謝するぞ』
「フェンリルが死ななくてよかったです」
『もったいなきお言葉』
「ほっとしたらお腹が空きました。ここで弁当食べてもいいですか?」
『弁当が何かは分からんが、何かを食べるのは問題ないぞ』
収納リングからメグ姉が作ってくれた弁当をだして食べ始めると、フェンリルが近づいてくる。
『それが人間の食べ物か⁉ 良い匂いだな!』
興味津々のようだ。
「ちょっと食べてみます?」
『良いのか? 良いのだな!』
焼いたお肉をパクっと食べる。
『美味い! 人間たちはこんな美味いものを毎日食べているのか!』
「こんな美味しいのは毎日食べられないですよ。貴族とかは知りませんが」
勢いがついたフェンリルは全部食べてしまった……。
「あっ! 全部食べちゃった!」
『はっ⁉ スマヌ……』
しょんぼりするフェンリル。見た目は子狼なので凄く可愛い。
「しょうがないな……ホーンラビットの肉があるから焼いて食べるか。エンシェントウルフさんも食べますか?」
『私は大丈夫です……できれば私の分を主にあげてもらえますか……』
「そうなんですか? じゃあ2匹焼くので、僕は片脚だけで十分なので残りはフェンリルにあげますね」
ホーンラビットの肉を焼くために、木の枝などを集めることにした。




