見つけた
美亜は大学の授業のあと急ぎ足でバイト先のコンビニへ向かっていた。バイト先までの半分の道を走ってみたが体力が続かない。
「ハァ・・・電車が遅延してたからって言い訳は通用しないんだよなぁ・・・」
「あの、すみません」
突然声をかけられとっさに振り向くと、20代位の男性が息を切らせながらこちらに近づいてきた。前髪が長く顔がよく見えない。気のせいか少しふらついてもいる。
「何でしょうか」
自分の口から発せられた無機質な声に言い訳しそうになりながらも美亜はひとまず男性に向き合った。
「これ、落としましたよ。大事なものかと思って・・・追いかけてしまってすみません。」
男性が差し出したのは美亜の定期入れだった。
「あ!すみません。走っている内に落としてしまったようです。助かりました!」
美亜は自分の失態に気が付き慌てて頭を下げ定期入れを受け取った。
「よかった。ちゃんと渡せて。足早いんですね。追いつけないかと思いました」
男性はそう言いながら額の汗をぬぐった。
「あの」
「本当に助かりました!ありがとうございました!じゃあ急いでいるので!」
男性の言葉にかぶせ気味になった美亜の声は男性の声よりかなり大きく、男性が何か言いかけたかどうか美亜にはわからなかった。そしてバイト先へ遅刻しそうな状況が彼女に余裕をなくしていた。走り去る美亜の背中に男性は「やっと見つけた」と声にならない声でつぶやいた。
ーーーーーーーーーーーーーーその日の夜、ミリアは夢を見ていた。
「あなたに会いたい。好きなの。好きだったの。私だけを愛して欲しかった」
また夢の中で誰かが泣いている。どうしたの?大丈夫、大丈夫だよ。そう伝えたい。抱きしめてあげたいのに声しか聞こえない。
周りは暗いままだし、何も見えない。どうして泣いているのだろう?どうして愛して欲しかったなんて悲しい言葉しか聞こえないんだろう。
「ねぇ、思い出して。会いたいの」
美亜が目を覚ますとそこは自分の部屋だった。
(またあの夢か。最近頻繁にみている気がする。夢の中のあの人は誰に会いたいんだろう)
美亜は最近同じような夢をよく見ている。今まではずっと好きだった。愛して欲しかったと声がするだけだったが、今日の夢では思い出せと言われたはずだ。
(何を思い出すんだろう。私が何か忘れているのかな。でも私別にそこまで強烈に会いたい人とかいないしなぁ)
ぼんやりと夢のあとをおいかけていたが、そろそろ支度を始める時間になったようだ。スマホがアラームを鳴らしている。
「今日も学校に、バイトに。頑張りますか」
誰もいない部屋に美亜の声が吸い込まれた。これが美亜の毎朝のルーティンだ。言葉に出すとより頑張れそうな気がするのだ。
「いらっしゃいませ~」
お店の商品の補充をしながら入ってきた客へ声をかける。
「あの、すみません」
「はい。何かお探しですか?」
そう言いながら顔をあげると、そこには昨日定期を渡してくれた男性がいた。
「あ、昨日の。え?ていうか偶然ですね。ここのコンビニ利用されてたんですか?」
「今仕事でこの辺を回ってて。ここに来たのは飲み物を買おうかと思って。そしたら昨日の子がいるなと思って」
「あ!昨日は急いでてお礼もきちんとせずにすみませんでした!」
「あ、いえ、大丈夫です。昨日はかなり急がれてましたね。間に合いましたか?」
「いや、ダメでした。ここのバイトに遅刻してたんです」
「そうだったんですね。あんなに走っていたのに残念でしたね」
美亜は愛想がよく誰とでもしゃべる為、お客さんともよく話す。初対面でもあまり気にならないタイプだった。昨日のお礼を改めて伝えて軽く世間話をしていた時、美亜は男性がしている指輪に気が付いた。
「あ、ご結婚されてるんですか。・・・ん?その指輪・・・」
「これですか?いえ、結婚はしてないですよ。大事な指輪なので、いつも付けてるんですよ」
「へぇ・・・私の持ってる指輪にすごく似てる気がします」
「え、これに似た指輪を持ってるんですか?」
「はい。私もずっと持ってる指輪があって。それにすごく似てる気がします」
「良かったらその指輪見せてもらえませんか!?」
「え、あぁいいですけど、今日は持ってないんです」
「じゃあ良ければ今度出勤される時に見せてもらえませんか?実はこの指輪ペアリングらしくて、ペアのものを探しているんです!」
急にぐいぐいくる男性にちょっと引き気味になった美亜だったが、探している指輪はどうせ自分の持っている指輪ではないだろうと思い、了承することにした。
「わかりました。では明後日のこの時間またいますので、その時に持ってきますね」
「ありがとうございます!必ず伺います!お仕事のお邪魔をしてすみませんでした。じゃあ!」
「あ、はい。・・・・・・って買い物しに来たんじゃなかったっけ?名前・・・もきいてないなぁ」
約束を取り付けるだけ取り付けて男性は走り去っていった。その日家に帰ってから美亜は自分の持っている指輪をテーブルの上に置いた。
(見れば見るほどあの人の持っている指輪に似てる気がする)
美亜が手にしているのは男性が持っていた指輪によく似た指輪だ。不思議な事に生まれた時手の中ににぎっていたらしい。母親の胎内に異物があったはずがないと騒ぎになったそうだが、祖母が「この子が持っていたならば大事なものだろうから、この子にずっと持たせてやりたい」といってくれ物心ついた時に母親が美亜の指輪だと渡してくれた。どうして美亜の指輪かという説明はさすがにもう少し大きくなってから説明されたが、自分が持っている事がしっくりくる指輪なのだ。なくしてはいけないと強く思い、宝物をしまっている箱にしまっていたのが子供の頃。今は自分のアクセサリーボックスにしまっていて、ある事を確認するのが日課のようなものだ。
(ペアリング探してるって言ってたな。この指輪がそうだったら偶然がすぎるわ)
どこかでそんな事あるはずないと思いつつも、期待してしまうのがお年頃の女性だろう。少しだけわくわくする気持ちを抑えながら美亜は約束の日を待った。
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