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そんな海の中に、今は確かな業魔の気配をはっきりと感じる。
「海の中にいるのは、海の生物を糧とした業魔だ。すでに人間を襲っているのは、身を持って知っただろう?」
「そうだな」
ここで消えた人達は、慧花と同じ目に合ったのだろう。
そしてマーカーを付けられ、業魔魂に憑り付かれて……。
そこまで考えて、慧花は顔をしかめる。
「…あまり考えたくはないが、襲われた人、全員が業魔になった可能性は?」
「否定はできないな。けどただの死体となってそこら辺にある可能性もあるし、慧花のように宵闇の者として黄泉返ったのかもしれない。まっ、そいつ等はそういうことを担当としているヤツらに任せよう。オレ達は目の前の敵を倒すことに専念すれば良い」
彩斗の眼には好戦的な色が強く浮かんでいる。
その様子を見て、慧花は首を傾げた。
「何故いきなりあの業魔と戦わせようとする? いくら業魂が業魔に対して敵対心を持っているとは言え、黄泉返ったばかりでは厳しいものがあるだろう?」
「でも戦って実績をつければ、実家から出られるだろう?」
「お前っ…! 私の記憶を見たのか?」
「この姿を形成する時に、イヤでもな。でも良いチャンスだと思うぜ? このまま鳥かごの中の鳥として、一生を過ごすつもりかよ?」
(…それはイヤだ)
今の現状に不満を抱いていたからこそ、無意識の中からこの存在を生み出してしまったのだ。
真っ直ぐに、自分の欲望に素直なモノを。
自分の手を引き、今までの日常をぶっ壊す存在を、心の中では強く求めていた。
(自由への手段は惜しめない、か)
宵闇の者として戦えることを周囲に知らしめれば、実家を出て、自由に生きられるかもしれない。
このまま家に帰っても、家族はきっと今まで通りの生活を強いるだろう。
何より、慧花の安全を守る為に。
(私が望んでいる道は、ただ一つ。茨であろうが、自由であること!)
ぎゅっと眼を閉じ、慧花は決意を固める。
「…武器形態は?」
「そりゃ一度、一体化をしてみないと」
肩を竦める彩斗を見て、もっともだと思う。
けれど黄泉返ったばかりでは、5度の一体化は不可能と考えるべきだろう。