表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シスター・マリエッタの事件簿  作者: 東 空塔
事件三 鷹を狩る土蜘蛛
32/84

就奉院の実情

 小川が刑事部屋で資料に目を通していると、内線がかかってきた。


「小川警部補に来客です」

「俺に?」


 下に降りてみると、そこには八重樫の母親がいた。


「あなたは……」

「お話したいことがあります」 


 小川は八重樫の母親を取調室に案内した。少し遅れてマリエッタもやってきた。


「あの、小川さんは昨日宮司さんにお話を聞いたんですよね。どこまでお聞きになりましたか?」


 そう言われて小川は八十宮司から聞いたことを話した。一通り聞いた後、八重樫の母親はゆっくり顔を上げて言った。


「もう少しお話する必要がありそうですね」


 こうして八重樫の母親は話し始めた。


 土雲村の村民は純血性を維持するため、長い間婚姻関係は村民同士で行われていた。当然のことながら戦前までは近親間で婚姻を行うケースも多かった。


 しかし、戦後制定された民法で三親等以内の婚姻が禁止となったため、村民同士のみの婚姻では村の維持も難しくなってきた。そこで八十健二の父親であった八十(みこと)は村民に村以外の人間との雑婚を推奨するようになった。


 それが時代の気運とも重なり、多くの村の若者は町に出て結婚相手を見つけてくるようになった。こうして村は過疎化を免れ、村の存続はひとまず安泰かと思われた。


 ところが、保守的な村人たちの中にはこの傾向をよく思っていない人々もいた。彼らに子供が産まれ、大きくなってくると純血組と混血組とに分けられ、前者は後者を差別するようになった。混血の子供たちはいじめられたり、保守的な大人たちからも冷たくあしらわれたりした。


 この兆候に心を痛めた当時の禰宜・八十健二はそのような混血の子供たちを集めて簡単な善行をするよう勧めた。それはちょっとごみを拾ったり、村の小さな子供と遊ばせたりと負担にならない程度の奉仕であった。それを八十健二は大げさに村人にアピールし、あの子達は村のために本当に良くやっている、村人の鑑だと言いふらしたので、その甲斐あって村人全体の混血の子供たちに対する見方が随分良くなった。これが就奉院のはじまりであった。


 その評判のよさに、混血の親たちはこぞって自分の子供を就奉院に入れたがった。八重樫の母親も、もともと余所の町から嫁いできた身であったので、幼い一人息子を就奉院に入れた。

 就奉院の子供たちもやがて大きくなって青年になり、村人の模範として村にとっては誇るべき存在となっていった。


 ところが八十健二が宮司となり、その息子の八十博が就奉院の院長になると少しずつ様子がおかしくなってきた。彼は一族に誇りを持ち、忠誠を尽くすことを重んじるようになった。朗らかだった就奉院の青少年たちの顔は鋭くなり、言葉使いもきつくなった。


 そんなある日、村に住宅開発の業者がやって来た。村の土地の一部を住宅開発のために売って欲しいということだった。業者は断られても断られても何度もしつこくやって来た。

 その業者が何度目かにやってきた時、帰りに自動車事故にあった。下り坂でブレーキが故障して利かなくなりカーブを曲がりきれず転落した。幸い一命は取り留めたものの、その業者は重症を負った。


 それ以降、村に不利益なことをもたらす業者などが不可思議な事故にあったり災難に合うようになった。村人の間では八十博が就奉院の青年に命じて工作しているのではないかと噂された。

 怖くなって子供に就奉院をやめさせようとした親が翌日首吊り自殺をした。また自ら就奉院をやめようとするものにはリンチが加えられるという噂も流れた。院内は恐怖政治で縛られているようだった。


 八十健二宮司は村人の訴えを聞いて博に注意したが、


「これは私の仕事です。干渉しないでいただきたい」


 と、博は聞く耳を持たなかった。

 やがて博は就奉院の青年に特別任務を与えるようになった。それは土雲村一族に敵対する一族に制裁を加えるというものであった。


「それは神武紀元前に渡来した秦氏の末裔のことですか?」


 小川が聞くと、八重樫の母親は首を振って言った。


「そこまではわかりません。でも八十家に伝わる秘伝にはその敵対する一族のことが明記されているそうです。ともかく、就奉院の中の選ばれた者にその任務は与えられるようです」


 八重樫の母親は深く嘆息して次の言葉をつないだ。


「そして、近頃就奉院のメンバーが行方不明になることがしばしばあるのですが、それは特別任務に当たった者だという噂があります」


「犯罪に加担したメンバーが口封じのために消されると言うことですか?」


「そうかもしれませんし、もしかしたら任務終了後に自殺するよう命じられているのかもしれません。もともと混血児は一族の中では弱い立場の人間です。それが踏み絵のように任務を突きつけられたら従わざるを得ないでしょう……」


「……となると息子さんも命の危険があるということですね」


「そうなんです。どうか息子を見つけて下さい」


      †


 捜査本部長である田島刑事部長と堂島、そして小川は捜査方針についてミーティング中であった。

 小川は八重樫の母親から聞いたことを話し、公開捜査の必要性を訴えた。


「八重樫は行方をくらましてから数日が経っています。でもまだ間に合うかもしれません。八重樫は今回の事件の鍵を握っています。逮捕して口を割らせれば一連の事件は芋づる式に解決するでしょう」


 それを聞いた田島刑事部長は慎重に言った。


「小川君の言うことも一理あるが、下手に一般公開などして自殺志願者を刺激するのは賢明とは思えないな……」


「では全国の警察署に写真を配布して、あくまで警察内部の捜査に留めての協力要請ということではどうでしょうか」


 堂島の提案に田島が頷いた。


 そうやって釣り糸を垂らしていると、早速アタリがあった。


「ただいま、和歌山県警から連絡がありまして、八重樫武の身柄が確保されたそうです」


「よしきた!」


 田島刑事部長は早速和歌山県警に連絡を取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ