2.24 飛空艇
この度、評価が100pt突破しました。
これも皆さんあってのことで、感謝の気持ちでいっぱいです。
「では、お気をつけて行ってきてください」
「あぁ、着いたら連絡する」
翌朝、エステルやファルネスといった教会関係者と宴で知り合った住民が結弦たちの見送りに来てくれていた。
「なんと言いますか見送ってもらうのは不思議な感覚ですね」
「そうだな。いつの間にこんな目立つ集団になってしまったのだろうか」
「良いではないか。童は民草から崇められて実に満足じゃ♪」
「当然の扱いだ」
「そうなの~ ご飯いっぱいなの~」
「こういう時はお気楽トリオが居てよかったと思うよ。――とは言え、今回の依頼は一応公務扱いだから気を抜くなよ? ミスってエステルを敵に回すようなことはしたくない」
「それは考え過ぎだと思いますが……でもまぁお仕事ですし気を引き締めていきましょう」
結弦たちは見送りに向けて手を振りながら飛空艇へ搭乗する。
船内は飛行機のように安全ベルトみたいな物は無く、客室に入ったらゆっくりと浮上した。
♢
グラジオラス王国所属、中型飛空艇『アリエス』。
全長百メートル、総重量十トンの木製飛空艇であるアリエスは要人の運搬等が主任務の客船らしい。
特徴としては、船体の大部分が木で出来ているので他の船に比べて軽く、移動速度重視の船に分類されるようだ。――飛行機ほどじゃないにしても、これに揺られているだけで一ヵ月半も掛かる行程が二週間で済むのだから驚きだ。
「ご主人様、浮いてます! 浮いてますよ~」
「飛んでるの~」
アリスとレンが興奮気味な声で駆けよってきた。
「あぁ、飛んでるな」
「むぅ~ なんかテンションが低い気がします」
地球で飛行機に何回か乗っている俺としては空を飛んだからといって特に騒ぐようなことでは無いんだよなぁ~
まぁそれでも初体験の二人に水を差すのは間違っているか。
「すまんすまん、ちょっと考え事をしてたんだ。――よしっ! せっかくだし外でも見に行くか」
「行きましょう♪」
「おそと~」
アリスとレンに手を引かれるまま結弦は客室から展望デッキへと移動する。
展望デッキは船の先端部にあり、特殊な魔石によって押し寄せてくる強風を人体に害が無い程度まで和らげてくれているらしい。
「あぁこれは確かにすごい景色だ。さっきまでいたリベラルの街があんな小さくなっている」
「そうですね。――ほら、見てください。雲に手が届きそうですよ!」
「おいしそうなの~」
「こらこら、あまりはしゃいでると船から落ちちゃうぞ?」
「そうでした。レンちゃんも気を付けて!」
「わかったの~」
そうは言っても初めての空、はやる気持ちは抑えられないようでちょっと目を離すとすぐに元の光景に巻き戻されていた。
◇
飛空艇生活五日目。
流石に初日ほど大はしゃぎすることもなくなった結弦たちは、外の雲を指差しながら連想ゲームに興じていた。
「ふむ、あれは吉兆鯛じゃな」
「そうでしょうか……山岳鱈のようにも見えますが」
「にくなの~」
「お前ら、雲一つでよくそこまで思い浮かぶな。――後、レンは肉から離れなさい」
「ぬしさまは想像力が欠けておるのぅ。――ほれ、あれは何に見える?」
白音は雲の中に見える黒い塊を指差した。
「流石にあれくらい俺でも見分けがつくぞ? ドラゴンだろ?」
「正確には黒耀竜じゃな」
「にくなの~」
「また肉か……」
「ってそんなこと言っている場合じゃないですよ! ドラゴンこっちに向かってきてますよ!」
アリスの金切声と同時に飛空艇の登頂部から警鐘が鳴らされた。
彼女の言う通り、身の丈三メートルは優に越していそうなドラゴンがこちらに向かって飛んできている。
「なぁ白音、アレお前より強いのか?」
「んにゃ……童の足元にも及ばない下位種じゃ。じゃがおかしいのぅ、童は常に妖気を周囲に撒き散らしているから本来なら近寄ることすらないはずなのじゃが……」
「確かに……スー、あの竜は何か言ってるか?」
「さっきから『俺と勝負しろ』と喚き散らしておるわい」
どうやらウチの三バカと同類らしい。
「アリス嬢、あぁ言う向こう見ずなお客さんには一発ドカンとやってしまって良いとは思わないか?」
「もう! スーちゃんのそういう戦いたがり屋さんなところはダメなところですよ? でもそうですね……このまま放置しておくのも飛空艇に乗っている方々に迷惑がかかってしまいますし……ご主人様、撃ち落としてもよろしいですか?」
アリスも随分とたくましく育ったものだ。ご主人様はちょっと悲しいよ。
「わかった、殺さない程度に頼む」
「はい♪ スーちゃんお願い! ――原初の炎にして終焉への導き手、我が請うは審判の焔『クリムゾンブレス』」
アリスとスーによる合わせ技であるクリムゾンブレスが放たれる。
そして、やる気満々の黒耀竜は突如飛来する無数の炎弾に対応出来ずに胴体と翼に何発か攻撃を受ける。
「やりました!」
「ナイスヒットじゃ」
結弦を蚊帳の外に三人と一羽はハイタッチを交わす。
「ちょっとやり過ぎな気もするが、アレどうするんだ? 堕ちてるぞ?」
「えっ!?」
見ると翼の一部が焼け焦げてしまい、自力では空を飛べない有り様になっていた。
「あわわわっ……どうしましょう。助けないと!」
「とてもトドメを刺した人間の言葉とは思えないが、下に人が居た場合は面倒だ。――スー、やれるか?」
「まったく、あのような下級の生物のために我が働かなくてはならないとは……」
「私からもお願いします。あのドラゴンさんを助けてあげてください」
「主に言われてはやるしかないか。――白音の嬢ちゃん、フォローは任せた」
「任されたのじゃ」
スーは飛空艇を飛び出し、堕ちる竜の元へ寄っていく。そしてその姿は次第に本来のサイズへ戻っていき、竜を背中に乗せた時には召喚時と同等の大きさになっていた。
背中に竜を乗せたスーは展望デッキまで舞い上がる。――ただし、鳥の形をした雲になって。
「童の幻覚も中々のものじゃろう?」
「そうだな。流石は九尾の大魔王さまだ」
「そうじゃろうそうじゃろう、もっと誉めるがよい」
いつも通り頭をグリグリと押し付けてくるので適当にあしらっておく。――まぁ、こうやってすぐに頭に乗るのも大魔王さまらしいと言えばらしいか。
そうして突然現れた黒耀竜はアリスとスーの大魔法によって呆気なくお縄につくのであった。




