2.23 旅支度
リベラル大聖堂の一室を手に入れてから数日。
結弦たちは比較的平穏な生活を送っていた。
「レンちゃん、白音さん、朝ですよ~ ご飯も出来ていますので起きてきてくださ~い」
「まだ眠いの~」
「そうじゃぁ~ 童もまだ寝るのじゃ~」
最近ではすっかりお母さんポジションも定着してきたアリスと相変わらずなレン、白音によるいつもの光景がそこには広がっていた。
「ほら、今日はエステルに呼び出されているんだからさっさと食べて支度するぞ?」
「うぐぅ~ 鬼じゃあ~」
「誰が鬼だ! いいから顔を洗ってこい」
レンと白音を無理やり叩き起こして顔を洗わせる。
♢
十分後。
やっとのことで食卓を囲んだ所で、結弦は本日の予定を皆に伝える。
「今日はさっきも言ったが飯を食ったらエステルの所に行くぞ。――どうやら例の教会襲撃騒動の方が進展したらしい」
「そうですか。それは良かったですね」
「あぁ、ちょうど俺らも次の街へ向かおうと思っていたから一石二鳥だった」
「ここ出るの?」
「あぁ、次の街で拠点が見つかるまでは帰って来れない。神札の登録さえ済んでしまえばいつでも戻って来れるからそれまでの辛抱だ」
「わかったの~」
「恐らく明日には出発するから、午後は旅支度に割くことになると思う。資材や糧食、交易品の手配を手分けして調達しよう」
「わかりました」
その後、各々で個別にタスクを伝え、朝食を終える。
♢
「おはようございます。こちらでの生活も随分と慣れてきたようで何よりです」
「おはよう。その件については感謝している。――っで、単刀直入で悪いが例の件の進展を聞かせてくれ」
「わかりました。それではここ三か月間での動向からお話します」
「頼む」
エステルによると山に潜伏していた賊は傭兵ギルドの人間だったらしく、ここから北に馬車で一月半ぐらいの距離にある『ザイード』と呼ばれる街で依頼されたらしい。依頼内容は大きく分けて二つで教皇エステルの抹殺とリベラルを恐慌状態に陥れることとのことだ。
「なるほど、俺たちも王都へ行く途中だったからザイードという手掛かりは都合がいい。――それにしてもよく喋ったな」
「これでも私、教皇様ですから……ね♪」
細かい事は気にしない方が身のためな気がした。
「それでユヅル様たちには申し訳ないのですがザイードまで向かっていただきたく本日はお呼びさせていただきました」
「最初からそのつもりで来ているからそう畏まらなくていい。――ただ、一ヵ月半となるとかなり長い旅路になりそうだ」
「あぁ、それでしたら心配しなくていいですよ。こういうこともあろうかと、一月前に王都から飛空艇を寄こすように手配しておきましたので。――ちょうど昨日の夕方に到着して今は街の外周区で停泊させています」
「そんなものがあるのか」
「これでも私、教皇様ですから……ね♪」
はい、深くは聞きません。
「それでその飛空艇とやらに乗せてくれると?」
「はい、ユヅル様が王都を目指していることもアリスちゃんから聞いていましたのでザイードでのお仕事が終わったらそのまま王都に行っていただいて構いません」
「それは願ったり叶ったりだ。助かる」
「一応名目上は公務に該当するので街についてからは担当の者を頼ってください。それとザイードに着いたら一度報告を頂けると嬉しいです」
「わかった」
恐らくアリスの神札のこともエステルには筒抜けになっているだろうし、拠点が出来たら顔を見せてやろう。
その後、細かな依頼者の特徴とザイードの街についての情報を貰い、会合はお開きとなった。
♢
「飛空艇なんて凄いですね。私、見るのも乗るのも初めてでワクワクしちゃいます♪」
「そうだな……改めてあのロリッ子教皇に逆らわない方が身のためだという事がよく分かった」
「もう! ご主人様はひねくれ過ぎですよ。せっかくのご厚意なんですから素直に喜びましょうよ」
「そうだと良いのだが……」
「まぁそれは置いときまして……準備するんですよね?」
「そうだったな。それじゃあ手分けして必要な物を集めてくれ。アリスとスーは交易品、レンと白音は食料、俺は資材の調達にかかる。――まぁ今回は向こうが足を用意してくれるからそこまで大量に買い込む必要はない。後、つまみ食いはするなよ?」
「なぜそこで童たちを見る!?」
「今までの行いを胸に手を当てて思い返してみろ」
「ふむ……至って行儀の良いぷりてぃな白音ちゃんだったはずだが」
「予想以上にお花畑で聞いた俺が馬鹿だった。――とりあえずその『ぷりてぃな白音ちゃん』とやらを信用するからな?」
「うむ! 任せるのじゃ♪」
本当に大丈夫だろうか?
一抹の不安はあるが、頭を使う仕事を任せる訳にもいかないし、食にうるさいこいつらを満足させる食品を考えるのもめんどくさいので、妥協点ということで納得することにした。
♢
手分けして備品の調達を開始すること二時間。
仕入れが終わった面子から宿に帰ってきて、買ってきたものを結弦が道具欄に収納していく。
とりえず必要最低限は集まったな……一組を除いては
「何か言い残すことは?」
「まってくりゃれ!? 言いつけ通り手は出しておらんのじゃ」
「確かにそうだな。――でもだからと言って渡した金を全て肉と甘味に変えてくるバカはいないだろ!」
「うぐぅ。我慢するので精一杯だったのじゃ」
「ごめんなさいなの」
そう、こいつらの頭の中には自らの欲求を満たすことしか無かったようで、野菜や穀物、魚という一般的な食材を一切仕入れてこなかった。
「まぁまぁ……確かにちょっと量は多いですけど、今から私が他の食材を買ってきますので許してあげてください」
「はぁ~ しょうがない。人員を分けたのは俺だし、食材の買い出しは俺も行く」
「わかりました。じゃあ私たちは行ってきますので三人はお風呂の準備でもしておいてください」
「わかったのじゃ!」
「頑張るの~」
「もしかして我も?」
「うん、二人だけにしておくのは心配だから手伝ってあげて」
「それは言外に今日も我が湯を沸かす当番だと言うことじゃないかぁぁぁ!!」
「んじゃ任せたぞ?」
「頑張るのじゃ♪(なのー!)」
結弦とアリスはスーの叫びは聞こえないフリをして街へと繰り出す。
そして予定より幾ばくかは遅くなってしまったが、ザイードに向けての旅支度は整い、リベラル最後の一日は終わりを告げた。




