2.22 マイルームを作ろう
この世界で初めて自分の部屋というものが出来た。――まぁ出来たと言っても一室だけだし、用途が決まるまでの暫定的なものだが。
「思ったより大きい部屋をあてがってくれたんだな」
「そうですね。建前上は『暫定』という事ですが、エステル様が教皇である間は使わせていただけるそうです」
「なら部屋を守るためにも一層協力してやらないとな」
「はい♪」
「――さて、早速だがこの部屋の登録を頼んでもいいか?」
「そうですね。――巡り巡りて回帰する、刻の円環へと導く杖よ、我が呼びかけに応じ刻み込め『クロノリンク=Ⅱ(セカンド)』
月を跨いだことで新たに解放された神札の小アルカナ『ワンドⅡ』を使ってアリスにこの部屋を登録してもらう。
「終わりました」
「ありがとう、これでいつでも部屋に帰ってこれるな」
「はい♪」
「そんなことよりぬしさま、こっちへ来るのじゃ! 風呂じゃ、風呂があるんじゃ!」
「あぁ、せっかくだから給排水も手を加えさせてもらったんだよ。まぁ地下からの組み水だけど煮沸すれば十分に風呂として機能するぞ」
「ぬしさま~ あいらびゅ~なのじゃ♪」
どこでそんな言葉覚えたのだろうか。――まぁ、今までは濡れた布で体を拭くくらいしか出来なかったから、風呂に感動する気持ちは分からないでもない。
「――とまぁ工事段階で据え付ける必要があった風呂はともかく見ての通り、この部屋はまだ家具が何も無い。なので今日はその辺を調達する予定だ。――取り急ぎは寝床となるベッドかな」
「そうじゃな……ってもしかしてまた?」
「さすがに察しが良いな。そうだ、本日中に用意する必要があるから手早く俺たちで作るぞ」
「やっと重労働から解放されると思ったのに……いぃやぁじゃぁぁ!!」
「まぁそう喚くな。他の家具のことも考えて、木をほんの四、五本加工するだけだ」
「それがいやなのじゃぁ!」
肉体労働が嫌いな白音を引きずって結弦たちは作業をしても迷惑にならない郊外の雑木林まで足を運ぶ。
♢
「よし! じゃあレン先生、そこら辺の木をバサッといってください」
「バサッといくの~」
切る事で右に出るものは居ないレンにここら一帯の木を切ってもらう。――当然、倒れていく木々は綺麗な切り口をしており、腕の良さが見て取れる。
「んじゃアリスとスーで木にこれと同じ間隔になるように印をつけてくれ」
「わかりました(よかろう)」
結弦は予め用意していた二種類の長さの棒を二人に渡す。これは人体モデュールといって、予め自分の身体の大きさを測っておいた物を定規代わりにするというものだ。――大学時代の実習でやったことだが、覚えておいてよかった。
二人にはそれぞれ一メートルと二十五センチ程の棒を渡し、材料の寸法を書いてもらう。
「それじゃレンはその印とその印が書いてある所を切ってくれ」
「わかったの~」
「ぬしさま、童は何すればいいのじゃ?」
「ん? 仕事したくないんじゃなかったのか?」
「そう意地悪言わないでくりゃれ。頑張って働くから相手して欲しいのじゃ」
「すまんすまん、ちょっとからかってみただけだ。――それじゃあ白音はレンが切った材料を長さごとで一括りにしてくれ」
「わかったのじゃ♪」
皆で手分けして木材を加工していく。
そしてその間に結弦は木材の接合に必要な釘の制作に取り掛かっていた。
実は教会の工事を進めていくと、結弦が未だに開拓していなかった工芸の欄に『石膏+1』『鉄鋼+1』『木工+2』が追加されていた。
もちろん、気づいた時に『+10』までレベルを上げたのだが、これによって加工時に作りたい物を想像するだけで身体が勝手に動くようになってしまった。
「自分の身体が意図しないままに動くのは若干怖いが、修行とかしないで欲しいものが作れるのは純粋にありがたい」
結弦は先の山賊騒動で手に入れた鉄くずを炎属性の魔法で溶かし、水属性の魔法で釘の形に固めていく。
俗に焼き入れという水冷によって鋼を生成する技法で、硬度が高い反面、脆くなるという欠点がある。――まぁ、所詮家具に使う材料だからこれで十分だとは思うが。
♢
作業を始めてから五時間。
結弦は工芸スキルの補助もあってか、最低限必要な家具を一通り揃える事はできた。
「まぁこんなところかな」
「お疲れさまでした。これでひとまずは暮らせそうですね」
「そうだな。早く帰って風呂にしようか」
「風呂じゃ~(お風呂なの~)」
結弦は作成した椅子や机、ベッド等を道具欄にしまい、神札『ワンドⅡ』を使って自室へと戻った。
♢
部屋に戻ってきた結弦たちは風呂の準備をアリスと白音、スーに任せ、レンと二人で家具の設置を行った。
「ベッドふかふかなの~」
「あぁ、せっかくだから街でクッション性の高い羽毛を買っておいたんだ」
「ふかふか~ 気持ちいの~」
「気に入ってくれたようで何よりだ。――で、そっちはどうだ?」
「スーちゃん、もっと頑張ってください!」
「そうじゃ! 神鳥なんだからこのくらいお茶の子さいさいなのじゃ!」
「理不尽なのだぁぁぁ」
どうやら、風呂の湯を沸かさせられているようだ。――向こうに居なくて良かった。
♢
「ふぅ~ 極楽極楽なのじゃ♪」
「そうですね~ お風呂なんて何年ぶりでしょうか」
「ぽかぽかなの~」
お湯を沸かし切り、家具の設置も終えた結弦たちは皆で一緒に湯舟へと浸かっていた。――当初、狭いからということで結弦とスーは後で入ろうと思っていたのだが、女性陣に今更そんなことは気にしないと強引に連れ込まれてしまった。
「うぅむ、いつも見慣れている肢体だが風呂場だからか妙に艶めかしく見える」
「ユヅル殿も雄ということだな」
「うわぁ……このバカ鳥に悟ったような事を言われる日が来るとは……」
「まぁ童たちが魅力的なのは今に始まったことじゃないからのぅ。遠慮せずにもっとこっちへ来るのじゃ」
「あぁ!! 白音さんズルいですよ~ ご主人様、わたしとも裸のお付き合いしましょ~」
「やかましいわい!」
などと設備が良くなってもいつも通りの湯浴みになってしまう結弦たちであった。




