序章「宇宙(そら)の中」
「はぁー。にしても、暇だよなぁ……」
「ああ。地球連邦ってすっごい辺境だからなぁ……全く、行くだけで一苦労って言うか……」
「しかも、あれだろ? 軍艦って図体でかいわりに動きはとろいしさ、ちっこいのだったら小さな〈時空の歪み〉を通って一週間ちょいあれば行けるけどさ、この船みたいに大きいと、それなりの大きさの〈時空の歪み〉じゃないと通れねえんだろ? だから、一ヶ月ぐらい掛かるってさ……」
彼らは、一様に顔を曇らせた。
だが、そこに鋭い叱責が飛んだ。
「貴様らっ! 何腑抜けたことを抜かしている! 陛下もこの状況に耐えておられるのだぞっ? それをそのようなことを申しては、陛下に失礼だとは思わぬかっ!」
「はは、はいぃっ!」
彼らは、背筋を伸ばしてビシッと立つと、敬礼した。
するとそこに、背後から淑やかな声が掛かった。
「そこまで堅苦しく縛り付けていたら、それこそ地球連邦まで保ちませんわよ? 地球連邦までは、あと三週間以上も掛かりますのに」
「へ……陛下っ!」
彼らは、瞬間的に凍り付いた。
「ですから、フェーマー中将。今はまだ、それほど厳しくなさらずに。そうですわね……あと地球連邦まで一週間を切った頃ならば、それぐらいまで厳しくなさっても宜しいかと存じますわ」
さり気なく言葉の後半部分で爆弾発言をかますと、富瑠美――に扮した早理恵は、踵を返した。
そして、誰にも気付かれないように眉を顰めた。
(もう……花鴬国を出て三日。……やはり、地球連邦は大変遠い国ですわね。わたくしが今まで訪れた国は、一週間もしないで到着できましたもの)
そう、だから、長期間国を空けるのも初めてなのだ。
そのことは少し楽しみでもあったが、今現在地球連邦にいる、富瑠美と些南美と柚希夜のことが、心配で不安だった。
(大丈夫なのかしら……? あと、戦争が始まるまで、最低で三週間はありますけど……でも、心配ですわ……いくら何でも、危険です。それにしても……合流するまで、大変ですわね……。わたくしと些南美と柚希夜は、この船の中でずっと部屋に閉じ籠っていることにはしてありますけれど……一刻でも早く、合流してしまわねば……。それにしても、富瑠美御異母姉様や些南美や柚希夜にしては、迂闊ですし、軽率ですわ……)
早理恵は、思わず深く考え込んでしまった。
(富実樹御異母姉様といい、富瑠美御異母姉様といい……地球連邦が、一体何だと言いますのかしら? まあ、富実樹御異母姉様の御育ちになられた地ではありますが……それにしては、どこか妙ですわね……。それに、花鴬国を出る前の……あの、富瑠美御異母姉様と、麻箕華の会話……宗賽大臣殿――シュール殿の、こと……)
早理恵は、軽く頭を振って思考を振り払った。
(ああ、もうやめですわ。これ以上訳の分からないことをいくら考えても、どうにもなりませんもの。……わたくしには、本当に訳の分からないことだらけですわ。元々、官吏になる気もありませんでしたし……こういった政治関連は、苦手なのですもの……。とにかく、わたくしにできるのは、富瑠美御異母姉様の身代わりだけですわ。後のことは、国に残った杜歩埜御兄様達と、大臣殿達と……地球連邦の、富瑠美御異母姉様に御任せするしかできませんのね……)
早理恵は、束の間哀しげな目をすると、部屋に戻って行った。