第二話 「ちょっと広い家」
放課後。
芹澤詩織 は、コンビニのスイーツコーナーの前で固まっていた。
「詩織ちゃん、プリン派!?」
隣では、内宮灯和 が目を輝かせている。
「え、あ……はい。好きです」
「分かる! プリンって人生だよね!」
人生なんだ。
灯和は真剣な顔で頷きながら、カゴへ大量のお菓子を放り込んでいく。
プリン。
シュークリーム。
アイス。
ポテトチップス。
なぜかするめ。
甘党なのかそうじゃないのか分からない。
「灯和さん、結構食べるんですね……」
「育ち盛りだから!」
同級生である。
レジを済ませ、二人は夕方の道を歩く。
春の風は少し涼しく、制服の袖が揺れた。
灯和は嬉しそうに袋を抱えながら言う。
「コンビニってすごいよねぇ……」
「そんなにですか?」
「だって二十四時間いつでもスイーツあるんだよ!?」
感動するポイントが独特だった。
詩織が苦笑していると、灯和はふと思い出したように顔を上げる。
「あ、そうだ」
「はい?」
「どうせなら私の家来る?」
「……へ?」
あまりにも自然に言われた。
「スイーツ食べよ! ちょっと広いけど!」
“ちょっと”が若干不安だった。
とはいえ、断るのも悪い気がする。
何より――。
少しだけ興味があった。
この不思議な同級生のことが。
「じゃ、じゃあ……お邪魔します」
「やった!」
灯和はぱっと笑った。
その笑顔は、本当に嬉しそうだった。
歩いて数分後。
詩織は固まっていた。
「……え?」
目の前にあるのは。
屋敷だった。
いや、屋敷というか。
城だった。
高い門。
広すぎる庭。
噴水。
ドラマでしか見たことがないレベルの建物。
「えっ」
「着いたよー」
灯和はいつも通りのテンションだった。
詩織だけが現実についていけていない。
「ちょ、ちょっと広いって……」
「うん?」
「これが!?」
「まぁおじいちゃんの代から増築してるからねぇ」
増築の規模じゃない。
門が開く。
その瞬間だった。
ドドドドドドドッ!!
「ひゃっ!?」
ものすごい勢いで何かが突っ込んできた。
大きい。
怖い。
灰色の毛並み。
鋭い目。
ハスキー犬だ。
「わぁぁぁぁっ!?」
詩織が悲鳴を上げた次の瞬間。
べろべろべろべろ。
「えっ」
顔を舐められた。
ものすごい勢いで。
「ボスー、飛びついちゃダメだってー」
灯和が笑いながら犬の首元を撫でる。
ハスキー犬――ボスは、見た目こそ強そうだったが、尻尾をぶんぶん振っていた。
完全に人懐っこい犬である。
「お、おおきい……」
「この子甘えん坊なんだよね」
ボスは詩織の周りをぐるぐる回りながら、撫でろと言わんばかりに鼻先を押し付けてくる。
怖い顔なのに、やることが大型赤ちゃんだった。
「わ、わ……」
恐る恐る頭を撫でる。
途端にボスは嬉しそうに目を細めた。
「……かわいい」
「でしょー?」
灯和が得意げに胸を張る。
その時だった。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
低く落ち着いた声。
詩織が振り返る。
そこにいたのは。
黒い燕尾服を着た男性だった。
背筋の伸びた姿勢。
白手袋。
完璧なお辞儀。
どう見ても執事だった。
「……えっ」
思考停止。
「本日はご友人を?」
「うん! 詩織ちゃん!」
「これは失礼いたしました」
執事は詩織へ丁寧に一礼した。
「内宮家執事長を務めております、黒崎と申します」
「し、執事長……」
存在するんだ、執事長。
詩織の脳内が限界を迎え始める。
灯和はそんな様子を気にした風もなく、袋を掲げた。
「今日はコンビニスイーツパーティーだから!」
「かしこまりました。では紅茶を準備いたします」
執事が自然に返す。
この空間だけ世界観が違う。
詩織はようやく理解した。
この子は“ちょっと変”なんじゃない。
かなり変だ。
しかも、とんでもない方向に。
キャラ紹介
芹澤詩織:17歳。心優しく努力家で、押しに弱い性格。人に迷惑をかけまいとする芯の強さを持ち、誰かの力になりたいという思いがあり、将来の夢は精神科医か教師。綾乃という高1の妹がいる。




