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第94話 「夏祭り 7」





沙耶香先輩に始まり、篠崎さん、彩乃と、気がつけば既に3人との時間を過ごし、残すは1人……雅だけとなった。


入口で合流し、これまで通りもう一度一本道を歩き出した。



めぼしい屋台はある程度回ったと思うが、残りの30分は何をしようか。


まあ雅の行きたいところ回ればいいよな。



「なあ、雅はどこか行きたいとこあるのか?」


「え、えっと、ある……けど」



そんな言葉と同時に、雅は肩にさげていた鞄から何かを取り出す。


思えばかなり長い付き合いだ。雅の行動パターンは何となく分かってきた。


彼女が取り出したのはそう……。



「み、3つ、あるんだけど……その……」



そう言って俺に見せてきたのは、少々ご無沙汰していた3枚のカード。


多分もう、こんなものを使わなくても人と会話はできるのだろうが、これあってこその雅だと、俺はふと思ってしまう。



「おっけー。じゃあどれにしよっかな」



カードに書かれているのはどれもゲーム系のものだった。


さっきから散々甘いものを食わされ見せられていた俺からしたら、この選択肢はどれでも勝ちだ。


射的にヨーヨーすくい、ボール投げか……意外とアクティブなのもあるな。


さて、どれを選ぶか……と、思ったのだが。



「……これ、全部回ればいいんじゃね?」


「……」



いつもの流れで選ぼうとしていたが、直前になって気づいた。


時間は30分あるんだ。そして選択肢は3つ。

ならば、1つ10分で3つとも回ればそれが1番いいのではないか。


俺の言葉で雅も気づいたらしく、ちょっと恥ずかしそうにしながら視線を逸らす。



「ま、まあどこから回るか決める分にはいいか」



思いのほか恥ずかしそうにしていたので、どうにかフォローの言葉で取り繕った。



「そ、そうだね」


「あ、ああ!じゃ、じゃあまずは射的から行くか!」


「うん」



引っ込めかけてたカードを1枚引き、雅に背を向けて歩き出した。


それにひょこひょこと着いてくる雅はなんだか小動物みたいで可愛かった。



歩いてすぐそこにあった射的のできる屋台に入り、2人分の額を渡してから始めた。



景品は見たところ無難なラインナップだ。1番の当たりはスマホと最近流行りの家庭用ゲーム機のソフトか……絶対取れないわあれ。


そう思い、俺は1番下の段に並んでいるお菓子を狙う。



「そいやっ!」



狙いを定め、5発あるうちの1発目を撃ち出す。


しかし弾は見事に空を切っていった。


まあこういうもんだよなと小さなため息をつきながら、次の弾をこめ始める。


と、そんな中隣にいる雅は虎視眈々とある大物を狙っていた。



「え、そんなの狙うのか!?」



集中しているのか、俺の質問にはこくりと小さく頷くだけだった。


そんな彼女が銃口を向けていたのは、パンダの特大ぬいぐるみだ。


特大と言っても、炊飯器ほどのサイズ。だが、あれを射的のコルク弾で落とすには無理がある質量なはず。


それでも雅は狙いを変えることなく一発目をパンダ目掛けて撃った。


的が大きい分、弾は見事に命中した。が、パンダさんはビクともしない。


それを見て悲しそうにする雅を見て、割と本気で狙ってたのだと察した。


絶対無理だろと笑って終わらせることも出来るが、ここは雅の真剣さに便乗しよう。



「雅、俺もそれ手伝うよ」



そう言いながら、俺は雅の方に少しだけ近寄り、パンダを狙いやすい位置取りをする。



「じゃあいっせーので行くか」


「う、うんっ」



雅の返事を聞き、俺は合図を唱え始めた。


いっせーので俺達は同時に弾を発射。

弾は2発ともパンダの胴体をしっかりと射抜いた。が、やはりパンダさんはまるで動じない。



「もう1回だ!」


「う、うんっ」



そして、残りの3発ずつを全てあのパンダに捧げた。


2発目、3発目、4発目と、弾は当たるもののやはりパンダはずっしりと構えている。


俺達がひたすら無理ゲーをしているのを面白そうに見ていた屋台主が、「頭を狙うと取れるかもよ」と一応アドバイス?をしてきたので、最後の1発ずつをパンダの頭目掛けて撃ち出した。


弾はパンダの脳天に命中。そして、今までうんともすんとも言わなかったパンダがほんの少しだけ後ろに傾いた。



「いけ!そのまま倒れろ!」



小さな子供のように叫びながら、パンダが倒れるのを懇願する。


が、しかし……。


1センチ程傾いたところでぬいぐるみは再び元に戻っていった。



「くっそ!あとちょっとだったのに!」



無謀な挑戦だったことをすっかり忘れ、素直に悔しがる俺と雅を見て店主はくすりと笑いながら立ち上がった。



「はは、惜しかったねぇ。でも兄ちゃん達面白かったからこれ持ってきな」



そう言った店主が渡してきたのは、パンダの半分もなさそうな小さいクマのぬいぐるみだった。



「え、いいんですか!?」


「ああ、これ去年から取られてないやつだからさ。せっかくだし持っていきな」


「あ、ありがとうございます!」



無理ゲーに本気で立ち向かったことで、偶然舞い込んだ幸運に俺達は喜びを露わにする。


雅はペコりとなんども頭を下げ、それをみて店主はまた笑う。



最後に2人で一礼し、俺達は屋台を後にした。



嬉しそうに手のひらサイズのぬいぐるみを愛でる雅を見て、俺はふと思う。



(よく、笑うようになったな)



だいぶ前からそうだったが、改めて見ると、本当に笑うようになった。

怖がらずに感情を表に出せるようになった。


本当に良かった。



と、そんな風に思いながら歩いている俺に雅が声をかけてくる。



「ど、どうしたの?直之くん」


「ん、ああいや。ぬいぐるみもらえて良かったなって」


「うん、ありがとう。直之くんが一緒に取ろうとして、くれたから」


「まああれは普通にラッキーだっただけだけどな」



どっちかというと、2人して無理ゲーしてるのを面白がってくれた店主の気まぐれのおかげか。



「でも雅、よくあのぬいぐるみ取ろうと思ったよな。やっぱりああいうの好きなんだ」



初めて一緒に出かけた時もそうだったな。

何かも知らないアニメキャラのぬいぐるみ渡したらめちゃくちゃ喜んでくれてたし。

そういえば、ちさ姉が昔持ってたぬいぐるみがまだ家にあるだろうし、今度雅にあげようかな。


そんなことを考えていた時、雅はぼそりと小さな声で言う。



「う、うん。ぬいぐるみは、好き。で、でも私、直之くんと一緒にいるのが1番……」



そう呟いた雅。その声は本当に消え入りそうな程に小さかったため、別のことを考えていた俺はほとんど聞き取れなかった。



「え、ごめん、今なんか言った?」


「う、ううん。なんでも、ないよ」



そう言う雅の顔はリンゴのように赤くなっていたが、なんのことだか分からなかったので、何も追求することはなかった。



「そっか。じゃあそろそろ次行こうぜ」


「うん」



そうして、俺達は次の目的地を目指して歩き始めた。



少し歩いてすぐそこにヨーヨー掬いの店が見えたので、さきにそっちを回ることにした。


さっきの射的とは違い、ヨーヨー掬いは無難に楽しめることができ、お互い1つずつヨーヨーを獲得した後すぐに屋台を離れた。



そして次に向かったのがボール投げなのだが……。



「ああくっそ!全然当たらない!」



射的以上に苦戦を強いられていた。


ボール投げのルールは簡単で、1から9の数字の書かれたプレートにボールを当てる。


当てた枚数が多いだけ、良い景品が貰える。のだが……。


1枚も当てれなかったらもちろん景品は無し。


そして現在俺は5個ある内の3個を外していた。


ちなみに雅も今のところ4個投げて落としたプレートはゼロ。


お互い運動神経のなさが祟ったようだ。


それにしても当たらない。

距離は5メートルそこそこしかないだろうに。


俺ってこんなに運動オンチだったんだな。



「はは、兄ちゃん達頑張んな」



皮肉交じりの笑みを浮かべながらそう言う店主。冗談で言ってるのが分かるし、実際その通りだから腹も立たない。



「これ難しすぎないですか!?」


「はは、兄ちゃんそりゃ投げ方の問題だよ」


「投げ方?」


「ああ、重心が傾いてるし、投げる時に肘が真っ直ぐ前に向いていないのもあるな」



ただの皮肉屋かと思ったが、案外に細かいアドバイスをしてくれる。



「それに比べて、彼女さんの方は投げ方だけなら良いねぇ。あとは狙いと力だな」


「か、かの……っ」



店主からのアドバイスではなく、「彼女さん」という台詞に顔を赤らめながら慌てふためいている。



「ほーら、兄ちゃんも彼女にいいとこ見せねえとな」


「か、かの……っ!」



と、つい俺も同じリアクションをしてしまう。が、実際女の子の前で格好つけたいというのは確かだ。


ここは1枚でも落とさなければ。



さっきのアドバイスを思い出し、意識しながら4個目を投げる。



狙った方向には行かなかったが、間違いなくさっきよりも質が良くなったのが分かった。


その感覚のまますぐに最後の5個目を投げる。


俺の投げた球は1番のプレートを貫き綺麗に落とした。



「あ、当たった!!」


「おお、やったな兄ちゃん!」



良かった。なんとか1枚当てることが出来た。


高揚感と言うよりは、ほっとしている。



「す、凄いねっ、直之くんっ」



いつの間にか全てを投げ終えていた雅が隣で賛辞をおくってくれている。


まあそれを素直に喜ぶほど良い結果ではないが、女の子から褒められるというのはやっぱり嬉しいものだ。



景品はよく分からないキャラのキーホルダーが2つ入ったセットだったが、まあ戦果ゼロよりは良いか。


せっかくだし1つずつをお互いスマホに付ける。


本当に何のマスコットキャラかも分からないが、雅は嬉しそうに、スマホにぶら下がったキーホルダーを眺めている。


今日は何回見ただろうか。

雅の笑った顔……。



沙耶香先輩も、雅も、篠崎さんは……まぁ、ちょっとあれだけど、今日は本当に楽しい。


こんな時間がいつまでも続けばいいのに。



そんな風に感じていた裏で、俺はこうも思った。




でも、この時間がずっと続くことが、皆の……俺のためになるのだろうか────






と、そんな時。



「あ、いたいた。せんぱーい!」



甲高い声とともに手を振りながら近寄ってきたのは彩乃達だった。



「もうすぐ花火始まりますよ」


「あ、もうそんな時間なのか。じゃあそろそろ見やすい場所に移動しよっか」


「そうですね。あれ?うーん……」



会話の途中、彩乃は急に不審な表情を浮かべる。


そんな彼女の視線の先にあったのは、俺と雅のスマホに下げられたキーホルダーだった。



「ふ〜ん……ずいぶんと楽しかったみたいですね」



ジト目で俺達を睨んでくる彩乃を、後ろにいた沙耶香先輩が止める。



「ちょっと、それを追求するのはルール違反よ。さ、そんなことより移動しましょ」


「そんなことじゃないです!そこ重要です!」


「はいはい。わかったから早く行くわよ彩乃さん」




食い下がる彩乃を引きずりながら歩き始める沙耶香先輩に各々着いていく形でその場を移動し始めた。




少し区切りが良くないですが、次回は花火の描写から続けてそのまま学校祭準備という形になります。


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!


感想やコメントもお待ちしております。


誤字脱字報告をして下さっている方も本当に感謝しております。


夏祭り編も終わりに差し掛かり、残すところ後は学校祭のみとなりました。


あと少しでこの作品も完結ですが、どうかそれまでお付き合いくださると幸いです。

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