第78話 「3位の彼女は同類でした」
その名を聞いた時、俺は卒倒しそうになった。
驚きすぎて、一瞬本当に息が止まったんだ。
衝撃的な話なんて、今までいくらでもあった。学園の裏人気である逢坂雅との出会いから始まり、学校1の美少女である沙耶香先輩、そして学園のアイドル的存在である彩乃……今思えば、それこそ信じられない話だ。ましてやそんな人達から告白されるなんて夢にも見なかった。というか妄想することすらおこがましいというものだ。
こんなこと、今までだって何度もあった。自分でも、流石に多少のことでは驚かないという自負があった。ちょっと妄想が過ぎるかもしれないが、雅達に勝るとも劣らない程の可愛い女の子から声をかけられても動じないぐらいの精神ではいたはずだ。
しかし、それは違った。
俺は今、言葉を発せられない程に驚きを感じているのだから。
本当に忘れていた。
ありえない話だと決めつけていた。
学園のワンツー美少女と知り合い、裏人気の美少女とは小学校の時からの知り合いだったという事実を知り、普通じゃ一生かけても味わえないであろう幸福を手にした俺に、これ以上の出会いはないだろう……そう思っていた。
考えなかった訳ではない。学園トップの美少女達と出会ったのだ。まだ他にもあるのではないかと、思わなかった訳では無い。
でも信じられないだろ。
休日に、学校でもない所で、自分の学校のトップ3の1人とばったり出会う、なんてミラクルシチュエーション。
でも、今こうして現実に起きてしまった。俺は明日にでも死んでしまうのだろうか。
言葉にできないまま半覚醒のような状態でいると、突然にその幼さが残る甲高い音が耳に響く。
「あのぉ〜」
「………ふぇ?ふぁっ!はい!」
突然過ぎて、今まで出したことの無いような奇声を発してしまった。
なんかだいぶ前にもこんなことあったな。
美少女に声をかけられただけで声が浮つくとか、童貞丸出しすぎで恥ずかしい。
いや、今重要なのは体勢を立て直して冷静に言葉を放つことにある。
「あ、えっと……俺、橋田直之って言います」
一応普通に返すことは出来たけど、なんかどうでもいいことを言ってしまった。
別に自己紹介する必要はないだろ。
「橋田、直之く〜ん?なぁんか、聞いた事あるような」
まぁ聞いた事があるのは普通だろ。
俺が、というよりは、俺の周りにいる面子が凄いからな。
最近ではだいぶ減ったが、前は彼女達の誰かが俺の教室に来るだけで騒ぎ立てていたし。
と、そんな話をしていても仕方がない。この眠そうな声を聞いていたら本気で体に力が入らなくなりそうだ。
これ以上この人と関わる理由もないだろう。というか、俺は彼女達以外の異性と関わる資格はないのだ。
返事を待たせている人達がいる男が、また他の人と関わるとかありえない。あってはならない。
ちらちら彼女の胸が視界に入ってきて、変な気になる前にさっさとこの場を去ろう。
「変なこと聞いてすみませんでした。じゃあ俺はこれで……」
そう言いながら踵を返し、店を出ようとした。が、そんな時。
「なんで?……好きだったんじゃないのぉ?」
篠崎真帆の口から放たれたその言葉に、俺は何故かピタリと立ち止まってしまった。
彩乃や沙耶香先輩の時もそうだ。
女の子の口からその言葉を聞くと、どこか重みを感じる。ついはんのうしてしまうのだ。
早くここから立ち去らなければならないのに、俺の体はゆっくりと、元いた場所へ向いていった。
彼女の放った「好き」という言葉。それがどういう意味なのか。それを知りたくて俺は振り返ったのかもしれない。
まさか、俺が彼女の胸を見ていたことがバレていたのか、と。
しかし、俺の向いた先に見えた彼女の状況を見て、俺はすぐにその意味を理解した。
「好きなのぉ?……この漫画」
彼女は先程俺達が持ち上げようとしていた姉の漫画を手にしながらそう言った。
「あ、あぁそっか、漫画……まぁ、好きと言えば好きかな」
「?」
恥ずかしさのあまり、視線を逸らしながら言った俺の返答に彼女は疑問符を浮かべていた。
「どういうことぉ?」
「あ、えっと、その漫画はちさね……俺の身内が描いてるやつなんだ」
「そうなのぉっ?」
相変わらずペースを崩されるゆったりとした口調だったが、彼女は少し驚いているように見えた。あと、ワクワクしてる?ようにも見えた。
「あ、あぁうん。えっと、篠崎さん?はその漫画が好きなの?」
「そうなの〜。私ぃ、少女漫画とかはあんまり読まないんだけどぉ、これだけは好きなの〜」
「そ、そうなんだ」
まさかうちの高校トップクラスの美少女が姉の漫画をここまで好きなんてな。帰ったら教えてあげよう。
「帰ったら伝えとくよ。じゃあ俺はもう……」
彼女の言葉の真相を確認し、懸念が晴れた俺は再び彼女に背中を向けた。
が、またしても俺は次の言葉で振り返ることとなった。
「あ〜、その鞄のキーホルダ〜」
「……え」
彼女は、俺が肩にかけていたショルダーバッグのチャックの部分につけていたアニメキャラのキーホルダーに気づいたのだ。
「それ〜、今年の春にやってたアニメのやつだよね〜」
「っ!?」
俺は露骨に驚きの表情を浮かべた。
それもそのはずだ。
このキャラは、今年の春に放送されたラノベ原作アニメのキャラだ。
とても知名度が高いとは言えない作品だし、ましてや女性向けの作品でもないのに、どうして……。
「こ、このキャラ知ってるの!?」
「知ってるよ〜。私ぃ、原作のライトノベルも読んでるから〜」
「ま、まじで!?」
まさに驚きの連続だった。
アニメだけでなく、原作まで読んでいる程のコアなファンだったとは。まさか……まさか……。
「もしかして、篠崎さんって……結構、ヲタクだったりする?」
勇気を出したその質問に、彼女はタレ目のままニッコリと笑顔を浮かべながら答えた。
「うん。漫画とかぁ、アニメとかラノベとかぁ、すごぉく好きだよ〜」
「……」
驚きに驚きを重ね、本日2度目の衝撃。本日最大の衝撃だった。
本屋で出会ったのが人気3位の美少女で、更にはそんな美少女がまさかの……同類だったのだ。




