第77話 「それはまるで運命のような」
「あっ、すみませ……」
俺は愕然とした。
謝罪の言葉が途中で止まるほどに、衝撃を受けたのだ。
それは、どれだけ瞳を大きく開けても、この距離では絶対におさまりきれないもの。
何人も寄せ付けないような迫力を放つもの。
正確に言えば、視線を合わせることに精一杯になり、近づくことすら忘れてしまうような感覚だ。
そう、俺の視線の先にあったのは、男の夢と希望とロマンが際限なく詰まっているであろう、2つの豊満な……ソレだった。
雅や沙耶香先輩、彩乃なんか勝負にすらならないような、ダイナミックさだった。
「あ、こちらこそぉ〜」
視線が彼女の胸に釘付けになっていた時、当人から突然声がかかった。
その体つきからはとても想像できないような、とても可愛らしく、どこか気の抜けた声だった。
「い、いや!全然大丈夫です!!」
俺は慌てて立ち上がり、視線を強制的彼女の顔の位置まで持っていった。
しかし、なかなかどうして男という生き物はこうも無意識を優先してしまうのだろうか。
理性と本能を天秤にかければ、いつだって下に傾くのは本能なのだ。
俺の視線はゆっくりと胸の方に戻り始める。
……いやダメだ!気をしっかり持て!
俺にはこんな目の前の豊かな胸よりも大事なものがあるはずだ。
告白されて返事を渋っているようなクソ男が、更に他の女の子にまで下心を見せようものなら、それはクズ男どころじゃ済まされなくなる。
俺は皆の顔を思い出し、意志を強く持ちながら視線を彼女の顔へと戻す。
だが、彼女の顔が視界にすっぽりと入った瞬間、再び走った衝撃に息を詰まらせた。
語彙力のない俺が一言で言い表すのであれば……めちゃくそ可愛い。
本当にそう思えたのは、雅、沙耶香先輩、彩乃を含めて4人目だった。
一切の淀みがない、吸い込まれそうになる真っ白な肌に通った鼻筋。
少しくせっ毛があるせいか、どこか幼子特有の愛らしさを感じさせる明るい茶髪。
そして何より、誰が見ても分かるようなとろりと眠たそうなタレ目は、相当なツリ目フェチでない限り、最高の可愛さを感じるだろう。
女性経験のない俺でも分かる。
彼女は、雅達に並び立つよつな美少女だ。
しかしやばいぞ。
これじゃあどこに視線を合わせればいいんだ。
目のやり場に困るというのはこのことか。
どうにか俺の男としての本能を緩和させようと目を泳がせていると、少し困った表情をしたその可愛らしい顔が俺を覗き込んできた。
「ね〜え、どうかしたのぉ〜?」
「あ、いや、えっと……」
やめてくれ。そんな可愛い顔を俺に近づけないでくれ!
俺に邪念を抱かせるような言動はやめてくれ!
そう言いたいものの、上手く言葉が出てこない。
なんでただの本屋にこんな可愛い子がいるんだよ。てか、なんで初対面の男にこんなに近づいてこれるんだよ。
……これはあれか?テンネンってやつなのか!?
可愛くてガチの天然とか、反則にも程があるってもんだ。
俺の学校なら雅達と共に人気女子ランキングのトップ3ぐらいに入っていてもおかしくないぞ。
おかしくない……おかしくない……ん?おかしくない?
人気女子トップ3……1位は沙耶香先輩。2位は彩乃。裏人気1位は雅……3位って、名前……なんて言ったっけ。
和希が言うには、トップ3の中で1番の巨乳。どこか気の抜けたことがあり、男が女に求める可愛さの要素を全て兼ね備えた超絶美少女。
それだけ聞いてみれば、目の前にいる彼女とどこか近しいものを感じる。
まさか……いや、流石にそんな奇跡的な話がある訳ないか。
実際に本人の顔を見たことはないし……あ、そういえばずっと前に、和希から人気女子の写真が何枚か送られてきたことがあったっけ。
当時は全く興味がなかったからちゃんと見てはいなかった。
そんなことを思い出し、俺はスマホを取り出した。
「あの、ちょっとそのままいてもらえますか?」
「え、あ〜、いいよぉ〜」
相変わらず、会話のペースがまるで合ってない。ゆったりしすぎてこっちまで眠くなりそうだ。
と、そんなことより写真だ。
俺は和希とのトーク欄を、上へと思い切りスライドしていく。
すると、和希から写真が連続で送られてきている所を見つけた。
どうやら俺の記憶は正しかったみたいだ。
そこには沙耶香先輩や彩乃、雅や他の女の子の写真があった。
そこから俺は、人気ランキング3位の写真をタップし、拡大させた。
制服姿で映っていたので、少し雰囲気が違うように見えるが、目立つ髪の色や唯一無二のタレ目は、間違いなくここにいる彼女と同一のものだ。
それでもまだ確信しきってはいない。
俺は思い切って、スマホの画面を彼女の顔の真横辺りに固定した。
そして、俺はもはや必然的に目を白黒させて驚いた。
「……まじ、かよっ」
「ほぇ〜?どうしたのぉ〜?」
「き、君は……」
最近、ここまで非現実的なことは起きていなかった。
むしろ、多少の非現実は、雅達によって、俺の中での日常となりつつあった。
しかしこれは流石に……常軌を逸しすぎている。
こんな奇跡……こんな偶然、俺は体験したことがない。
超絶美少女からラブレターが届いたり、超絶美少女からストーカーを食らったりしたこともかなりミラクルだったが、これはそれの比じゃない。
それこそ、人間の妄想が生んだ物語の中だけの出来事だと思っていた。
とある本屋で偶然同じ本を手に取ろうとした時、ふいに触れ合った手と手。
目の前にいたのは、この世のものとは思えないような、2次元から飛び出してきたような美少女。
そしてそんな彼女がまさか……。
「えっと……あなたの名前は?」
俺がおどろおどろしながら彼女に名前を確認する。と、彼女はにこりと笑い、眠くなる声色で答えてくれた。
「わたしぃ〜?わたしはぁ〜、篠崎真帆ってぇ、いいますぅ〜」
────まさか、人気ランキング3位の、篠崎真帆だなんて。
そんなこんなで、元平凡高校生、橋田直之は、裏人気1位を含めた学園最高の美少女4人と知り合うことになってしまったのだ。
彼女が一体どんな人間なのか。そして、これから彼女の存在が、これまで構築してきた俺達の関係にどんな影響を与えるのか、現時点での俺にはまだ知る由もなかった────
出そう出そうとは思っていたものの、中々タイミングを見つけられず登場させられなかった最後のヒロイン、篠崎真帆。おそらく、最初から読んでくださっていた方でも忘れてしまっていたと思います。ですが、ここから最後まで彼女をメインキャラクターの中に加えたいと思いますので、これまで通り、暖かい目で見舞ってくださると幸いです。
今話も足をお運びくださってありがとうございます!




