第45話 「看病 夕方の部」
───目が覚めた。
体の熱はすっかり抜けきり、ちゃんと力が入る。
自然に体を起こすことが出来た。
「んっあぁぁあ、だいぶ寝たなぁあ」
ぐぅっと、限界まで体を伸ばしながら、横目で窓を覗いた。
窓からは、美しい夕日の光が差し込んでいる。
時計の針は5時20分を指していた。
3時間ぐらい寝ていたみたいだ。
体全体を伸ばそうと思い、俺はベッドから降りようとしたが、太もものあたりに違和感を感じた。
俺は自分の太腿の方に視線を向ける。と、そこには穏やかな寝息を立てる雅の姿があった。
「うぉっ、びっくりした」
俺が思わず声を漏らすと、それに気づいたのか、彼女はゆっくりと目を覚ました。
「あ、あれ……わたし……」
「お、おはよう」
苦笑いを浮かべながら挨拶を送る。
「……っ!?」
ようやく自分の置かれている状況を理解したのか、顔を赤くしながら飛び上がるように立った。
「ご、ごめんなさいっ。わたし、寝ちゃって……」
「いや、別にいいんだけど……いつから居たんだ?」
「え、えっと、4時ぐらいに、ここに来て……直之くん、寝てたから、起こさないようにって思って」
1時間以上も前じゃないか。
それだけの時間、こうして待っていたのか。それは眠くなるのも仕方ないな。
彩乃や工藤先輩は、もはや起こしに来てるのか、と思うような言動だったのに、雅は俺の体を労わって……なんて優しいんだ。しかし、
「それなら起こしてくれれば良かったのに。1時間以上も起きるの待ってるとかつまんないだろ」
「ぜ、全然、大丈夫、だよ。結局私も、寝ちゃったし……」
「そ、そうか……」
「うん。看病しに来たんだけど、もう平気そうだから、私は、帰るね」
そう言って、雅は部屋を出ようとした。
「ちょ、ちょっと待って!」
俺は咄嗟に雅が出ていくのを止めた。
わざわざこんな所まで来てくれたのに、俺が起きるのを待っただけで帰るなんて、それは申し訳なさすぎる。
確かに、俺の体はほとんど正常に戻っている。が、ここは嘘をついてでも……。
「平気な訳じゃない。まだ、あんまし体に力が入らないんだ」
「そ、そうなの……?」
「ああ、だから、もうちょっとここにいてくれよ」
「そ、そういうことなら……」
ドアノブにかかっていた手を離し、雅は再びベッドの方へ戻ってきた。
なんとか呼び止めることには成功した。が、さて……こっからどうしよう。
この後のことを何も考えていなかった。
「あー、えっと……」
何か、何か考えないと。
汗は……あんまりかいてない。腹は……減ってないことはないが、今すぐ食べたいとは思わない。
どうしたら……。
と、そんな時。
「あ、あの、直之くん」
「え?な、何?」
「その、わ、私が直之くんにしてあげたいこと、いっぱいあって……だから……これ」
雅はカバンの中から、拳2個分程の大きさの長方形の箱を出した。
あ……これは、まさか……。
そして、箱の中から────3枚のカードを抜き出し、俺の目の前に突き出した。
「え、選んで、ほしい、な……」
「あ、えっと……」
まさかこんな所にまで持ち出してくるとは。てか、こんな日にも俺のために色々と考えてくれたのか……まじで呼び止めて良かった。
「じゃ、じゃあ……はい」
俺は1枚抜き取って内容を見た。
───膝まくらをする───
俺が視線を雅の方に戻した頃には、彼女は床の上で正座し、軽く手を広げていた。
「ちょ、これ……まじでっ!?」
「い、嫌じゃなかったら、だけど……ど、どうぞ」
これまで、手を繋いだり、頭を撫でたりと、予想外の内容を見てきたが、それはその中でもトップクラスにレベルが高い。
だって、膝枕だぞ?俺の頭を、雅のその白くて柔らかそうな太ももの上に乗せるってことだぞ?
そんなの、そんなのって……天国か!!
同級生の女の子の膝枕……どうしよう、なんかドキドキしてきた。
……いやいや、沙耶香先輩もそうだったけど、これは雅が厚意でしてくれていることだ。そんな感覚で臨むのは失礼だ。
ここは自然と、一切動じずに身を委ねるのが作法ってものだ。膝枕の作法なんざこれっぽっちも知らんが……。
「じゃ、じゃあその……いくぞ」
「う、うん」
俺はベッドをゆっくりと降り、雅が空けてくれている膝に自身の頭を乗せた。
瞬間、俺は今まで感じたことの無い衝撃に見舞われた。
………なんだ、これ。
今、一瞬、頭が溶けた感じがした。
ゆったりと沈み込み、まるで膝と同化していくみたいに……。
柔らかい。それに暖かい。
後頭部が、幸せすぎる。まさに……天国を見ているみたいだ。
「ど、どう、ですか?」
「……あぁ、なんか、凄い気持ちいい……あ」
あまりの心地良さに、思わず本音が漏れてしまった。
「ち、ちがうんだ!別に、変な意味じゃなくて、単純に心地いいっていうか」
「………」
あぁ、だめだ、完全に恥ずかしがってる。顔が真っ赤だ。
ちくしょう、俺のアホが!!
でも、まじで心地よすぎる。それに、いい匂いがする。柔らかさと温かさとと甘い香りに包まれて、何も考えられなくなってきた。
……いや、だめだ!
俺は頭を一気に持ち上げる。
はぁ……危ねぇ、今回こそダメかと思った。
「わ、悪い。やっぱり膝枕は……っ!?」
そう言いかけた時、雅が俺の頭をもう一度膝に乗せた。
「ちょ、雅っ!?」
「……もっと、このままで、いて」
恥ずかしさを隠せないまま、雅は小さくそう呟いた。
「私の膝……いや?」
「い、いや、そんな訳……」
そんな訳ない。この世界にあるどんな高級枕よりも遥かに心地がいい。
でも、これ以上こんなの続けたら、俺は……。
「私、もっと、直之くんに恩返しがしたいの……直之くんの役に立ちたい……」
「え……」
何を今更……そんなの。
こうして家まで来てくれて、看病してくれる時点で、むしろ俺がお礼をしなければならないくらいだ。
でも、彼女はそうは思っていないのだろう。
まだ足りないなんて思っているのかもしれない。
そして、それは俺が、まだ満足そうにしていないからなのかもしれない。
俺がいつも動揺して、あまり喜んでいなさそうだから、彼女はそれが気がかりなんだろう。
だとしたら、それは違うんだ。
「……もう充分だから。いつも俺は雅に感謝してるんだ」
雅がコミュ障を克服して、友達になって、それで感謝しているのは俺の方だ。
変わったのは、雅だけじゃない。俺の日常もいい意味で変化していたんだ。
それも時間を辿れば、雅のおかげだったのかもしれない。
だから、恩を返さなければならないのは俺の方なんだ。
「……膝枕、すげえ気持ちいい。これならすぐに良くなりそうだ。ありがとう、雅」
友達というありふれた関係で、ここまで良くしてくる雅に、俺はただ、素直に感謝の言葉を言うだけだった。
「じゃあ、もうちょっとだけ、このままでいさせてくれ」
「う、うんっ」
そして、その後30分程、雅の膝の上で体を休めた。
久しぶりに後書きを書かせていただきます。
この度もご拝読ありがとうございます!!ランキングはもうだいぶ落ちてしまいましたが、読んでくださる方が増えてとても嬉しいです。
誤字報告をしてくださる方も出てきて、本当にありがたい気持ちでいっぱいです。
そこで、よろしかったらなんですが、今出てきているヒロインで、誰が好きだとか、誰を応援したいとかを、感想にて教えてくださると嬉しいです。何人かそういった感想をくださる方がいて、いつも楽しみに読ませていただいております。読者様の意見で、今後の展開が多少変わってくるかもしれないので、もしお時間があれば感想に書いて頂きたいです。「〇〇が好き」とか、「〇〇を応援してる」などと、短い感想でいいので、よろしくお願いします。勿論、読んだらすぐに返信させていただきます。
これからも、毎日更新を頑張って行きたいと思うので、応援よろしくお願い致します!
長文、大変失礼致しました。




