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第30話 「友達」



和希に引っ張られたまま、俺は3人がいるであろう雅の教室に行った。


教室のそばの廊下には、数えきれない程の生徒達が集まっていた。


教室内のを外から見ているようだった。


「うわっ、すげえ人集りだな」


「もういいって、これじゃ見るのは無理そうだし、もう帰ろうぜ」


「いいから来いって、あそこの隙間から覗けそうだ」


人集りの中にあった小さな隙間を縫うように通っていき、ついに教室の中が見えた。


そこには直視できない程の眩しい光景が広がっていた。


「ほらな、マジだろ」


「あぁ……マジだな」


雅の周りには、彩乃や沙耶香先輩を含め、多くの生徒がいた。


特に3人は、とても楽しく談笑しているように見えた。


雅も、今まででは想像できないほどの多様な表情をしている。


「はぁ、あの3人が集まってると神々しすぎる!」


「生徒会長が2年の教室に来てるだけでもやばいわ」


「いや、やっぱ春川彩乃だろ」


「にしても、逢坂雅ってあんなに喋る子だったっけか?」


「それな、前まで無口だったのに」


「なんか更に可愛く見えてきたわ」


廊下の男子生徒達のそんな会話が飛び交っている。


それも無理はないだろう。


学園の三姫のうち2人と、裏人気の雅が3人でいたら、男としては楽園でしかない。


俺はあのキラキラとした光景を見て小さく笑った。


「やっぱり……もう俺は要らないみたいだな」


「……そっか」


俺の表情を見て何かを悟ったのか、和希もそれ以上何も言わなかった。


「……帰るか。教室に」


「そうだな」


一目でわかった────あそこが彼女の居場所なんだと。


思い返せば、俺がやったことなんて何もなかったような気がする。


だが、俺の心は満たされていた。


そして、俺達は雅達の教室を後にした。




──────放課後になった。


「なあ和希、今日部活ないんだったよな?」


「おう」


「カラオケ行こーぜ。久々に思い切りアニソン歌いたいわ」


当分行っていなかった和希とのカラオケ。


今日はいいものも見れたし、気兼ねなく叫べそうだ。


「ナオがいいんなら、いいけど」


「何それ、俺が誘ってんだけど」


和希はまだどこか懸念を残しているような顔をしていた。


「本当にいいのか?」


「……いいんだよ。これで」


雅と出会う前に戻るだけだ。


2人からの告白は────まあ、後々考えていこう。


とりあえず、今はこのすっきりした気持ちで思い切り自分のしたいことをしたい。


「よっしゃ、この話は終わりだ。早くカラオケ行こうぜ、和希」


「……はいよ」


そうして、俺達は席を立ち、教室を出ようとした。そんな時だった。


「な、直之くんっ!」


そんな呼び声と共に教卓側の扉が開いた。


俺達を含め、クラスの生徒達の全員がそっちに視線を向けた。


そこには少し息を荒立てた逢坂雅がいた。


「み、雅っ!?」


「待って、くださいっ」


久しぶりに顔を合わせ、声を聞いた。


どうして、こんな時に……。


「な、何か用か?」


「えっと、直之くん。ひ、久しぶりに、一緒に、帰りません、か……?」


「え……っ」


俺は驚愕した。


久しぶりに顔を合わせたというのもそうだが、1番の理由は────。


「あ、あれ?あのカードは選ばなくていいのか?」


「は、はい」


そう。彼女は選択肢カードを使わずに、一緒に帰らないかと言ってきたのだ。


自分の意思を、その場で伝えたのだ。


本当に、治ったんだ……。


しかし。


「悪い。今日は和希と約束してるんだ。だから……」


雅はあの2人と一緒にいろ。


そう言おうと思ったが、


「あー!そういえば今日妹と買い物デートするんだった!悪いナオ、俺帰るわ!待ってろよ、那由!!」


そう言って、和希は脱兎のごとき逃げ足で教室を出ていった。


………あいっつ!!!ふざけんな!!


絶対嘘だ。今考えたやつだ。さすがにわかるわ。


てか、妹を出汁に使うとか、まじのシスコン野郎だな。


くそっ、やられた……。


和希はいなくなり、俺と雅が向かい合う形になってしまった。


「あの、一緒に帰っても、いいですか……」


「あ、いや。えっと」


どうしたらいいんだこれ。


俺の逃げる口実もなくなり、雅は顔を赤らめながら一緒に帰ろうと言ってくる。


こんなの、こんなの、断れねえだろ。


「わ、わかった。じゃあ、帰るか……」


「は、はいっ」


周囲の刺々しい視線に晒されながら、俺達は教室を出ていった。



────電車にて。


ガタンと小刻みに揺れる電車内には、異様な静けさがあった。


俺達は、誰も乗車していない車両の扉の両端に向かい合うように立っていた。


くっ……気まずいな。


本当に久しぶりに一緒に帰っているこの状況。


何を話していいかわからない。


考えろ。今ここで1番正しい話題をっ!


そんな葛藤をしていた時、雅が口を開いた。


「な、直之くん……」


「お、おう」


「私、少しですけど、クラスの人達と、話せるようになりました。春川さんや、工藤先輩とも……」


あぁ、知ってる。本当にすごい成長だ。


「へ、へぇ。良かったじゃん。目標達成だな」


「……全部、直之くんの、おかげです」


「いや、俺はまじで何もしてないだろ」


そうだ。俺は何もしてない。結局、何もできなかった。


これはあの2人と、そして雅自身の努力による当然の結果だ。


「いいえ、直之くんが、いなかったら、私、ずっと誰とも話せなかったと、思います」


「いや、俺がいなくたって、彩乃と沙耶香先輩がいたから大丈夫だっただろ」


「あの2人と仲良くなれたのも、直之くんがいたから、ですよ」


……なんでそんなこと言うんだ。


俺は本当に、何もしてやれなかったのに。


雅が成長していくのを、傍らから眺めてただけだった。


だから……言わないでくれ。


「直之くん、本当に、ありがとうございます」


「……違う。俺はお礼をされるようなことは何もしてない」


俺はただのヲタクな高校生で、友達の少ないちょっと根暗な高校生で、なんの取り柄もない、ただの高校生だ。


こんな可愛い子に感謝されるようなことは1度もしていないし、そもそもできない。


だから、そんな風に言わないでくれよ。


「直之くんは、特別なんです。私は、直之くんが凄いことを、知っています」


特別なんかじゃない。俺はただの凡人だ。


「……春川さん達から、聞きました。直之くんに救われた。優しさを貰ったって……」


なんだよそれ。


俺は何も覚えていなかったんだぞ。


ただの1つも。


彼女達はちゃんと覚えていたのに、俺は忘れていたんだ。


雅の事も、言われるまで思い出せなかった。


そんなやつが特別な訳が無いんだよ。


「……俺にはもうできることはない。あの2人と楽しくやってくれ」


もう終わりだ。


雅はこれから楽しい学校生活を。そして俺はいつもの平穏な日常を。


それでいいじゃないか。


「……いやだ。直之くんも、一緒じゃないと、楽しくない」


雅が初めて、俺にタメ口を使った。


「これからも、一緒に帰ったり、一緒に遊んだりしたい。直之くんと、一緒にいたい」


「み、雅……」


……なんだよこれ。


こんな言い方されたら、俺はまた勘違いをしてしまう。


そうだ、ありえない。そんな訳ない。


だって、あの2人に続いて、雅まで……なんて、絶対にありえない。


だが、そんな非現実的なことが今まで何度も起きてきた。


俺の気持ち悪い妄想が現実に起きたりもした。


だとしたら、この言い方だと、雅は俺の事を……っ。


俺は意を決して聞いてみた。


「な、なあ雅。俺達って、ただの友達、だよな?」


かなり遠回しに聞いてしまった。これじゃ俺の意図を理解してくれないかもしれない。


いや、そんなことはない。ここで友達と言うのに少しでも躊躇いがあったら、何かあるってことだ。


そして、彼女の出した答えは……。


「はい。私と直之くんは友達です」


……即答だった。


俺は顔から火が出そうになる。


ぐわぁぁあああ!!やっちまったぁああ!!


これはないわ。俺の妄想だったわ。


もう最悪だ。俺キモすぎる!!


今ここで思い切り暴れたい。床に顔を擦りつけたい。


もう自分の顔を鏡で見れないわ。


そんなことを考えながら悶々としていた時、彼女はぼそりと何か言った。


「友達です……今はまだ……」


「え?今何か言った」


「な、何も言ってませんっ……」


「え、絶対何か言っただろ。もっかい言ってくれよお」


「……いや、です」


何を言ったのか気になるが、まあ大したことないだろう。ただの友達だしなぁ……。


くそっ、いいよいいよ。こんな可愛い子が友達なんて最高じゃねえか。何欲張ってんだ。


俺は開き直った。


「えっと、じゃあまあ、これからもよろしくな、雅」


「はい。よろしくお願い、します。直之くん」



こうして、改めて俺達はただの友達になった。


雅のコミュ障も治ったことだし、これで普通の友達になれる。


もうあの3択カードともおさらばだ。




そう、思っていたのだが─────。


「えっと、直之くん。いきなりでごめんなさい、なんですけど……」


「ん、どしたん?」


「あの……これ」


そう言いながら、雅はポケットの中から、アレを出した。


………おい、おいおいおいおいおい。


まてまてまてまて。


え、あれ?なんで……今、これがっ!?!?


「……直之くん、選んでくださいっ」


彼女は3枚の選択肢カードを胸の前に持ってきてそう言った。


………なんでぇぇぇえええええ!!??


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