第21話 「ストーカー 前編」
メガネを付けて戻った後も、何人かが話しかけにきたが、俺はことごとく無視し続けた。
もうあんな思いは二度とごめんだ。
その日の放課後の下校途中、彩乃は不機嫌そうな顔していた。
「むー、なんで戻しちゃったんですか。もったいない」
「うるさい、あやうく死にかけたっての。もう二度とやらない」
「えー、じゃあ私とか逢坂先輩の前ではたまにメガネ外してくださいよー。ね、逢坂先輩」
そう言われた雅は首を二度縦に振った。
まあ、この2人の前だけなら、別にいいか。
「ま、そのうち……な」
「やった!先輩やっぱり優しい!!」
「ちょ、電車内では静かにしろ……って」
電車内で大声をだす彩乃を注意していた時、背後から妙な視線を感じた。
すぐに振り向いたが、そこには誰もいなかった。
「はーい、すみませーん」
彩乃は小さな声で謝罪してくるが、俺には全然聞こえていなかった。
そういえば、前にも妙な視線を感じたことが何度かあった。
が、その時も、気配がした場所には誰もいなかった。
確かに、誰かに見られているような気がする。
一体なんなんだ。
懸念が払拭されないまま、モヤモヤした状態で電車を降り、2人と別れて俺は帰路に着いた。
1人で住宅街を歩きながら、あの視線の謎を考えていた。
まさか、ストーカーなのか?
だとしたら、ストーキングされているのは雅か彩乃のどちらかだろう。
学園の三姫である彩乃と、裏人気ナンバーワンの雅。
そして言わずもがな、どちらも超絶美少女。ストーキングされる要因は十分にある。
だとしたら、駅で別れた後が危険だな。
て、いや、何言ってんだ俺は。
またキモイ妄想をしてしまった。
……俺の妄想ということで済めばいいのだが。
───あれから4日が経った。
イメチェンの件はようやく終息し、俺の周りに人は集まらなくなった。
そして、妙な気配もあの日から感じなくなった。
ひとまずは安心だろう。
だが、そうやって安心している所に、それは突如やってきた。
放課後、いつものように雅の3択カードで、「一緒に帰る」を引いた。
言っておくが、これを引いたのは2日ぶりだ。毎日一緒に帰ってるわけじゃないからな。
だが、今日は彩乃は用事があるとのことで一緒に帰るのは雅だけとなった。
電車の揺と共に小さくなびく雅の髪。
窓から入ってくる夕日の光に彩られた肌。
最近はずっと雅も一緒だっから、こうして、彼女をちゃんと見たのは久しぶりだ。
やっぱり、何度見ても可愛いな。
流石、裏人気ランキング1位というところだろうか。
彩乃も負けず劣らずだが、彼女の方がなんというか……女の子らしさみたいなものをかんじる。
女性経験ゼロの俺が言っても説得力は皆無だが……。
おっと、沈黙していたら気まずくなってきた。何か話題を。
「そ、そういえば、またみんなで遊びに行きたいな。どっか行きたいとことかあるか?」
「……えっと、考えて、おきます……」
「そ、そっか」
以前は考えておくなんて言葉も出てこなかったのに。
やっぱり、あがり症はだいぶ改善してきているみたいだ。
これも和希や和希の妹、そして1番は彩乃が仲良くしているおかげだ。
彩乃の存在が、雅の成長に大きく影響しているんだろう。
そんな風に感慨にふけっていた、その時だった。
あの時と同じ視線を感じた。
振り返るが、やはりそこには誰もいない。
不気味だ。
やっぱりストーカーなのか?
彩乃は今ここにはいない。
とすると、ストーカーの標的は雅ということになる。
いや、やっぱり俺の考えすぎなのか?
今まで、視線を感じただけで、それ以上の危害はなかった。
彼女達にも聞いてみたが、視線の存在すら気づいていないようだったし。
俺、妄想がいきすぎてついに厨二病になっちまったのかな。
と、そうしているうちに電車は俺たちが降車する駅に到着し、結局そこで別れた。
まあ、今まで何もなかったんだし、やっぱり俺の考えすぎだな。
そう割り切って、俺は自宅に帰るためにいつも通る住宅街の街道を歩き始めた。
しかし、どうしても懸念が消えてくれない。
言葉として認識しているだけで、ストーカーというものがどんな存在かわかっていない状態で、可能性から除外して本当いいのか?
ダメだ、やっぱり気になって仕方がない。
このもどかしい気持ちを払拭しようと、俺はケータイを出し、インターネットで「ストーカーとは?」と検索欄に打ち込んだ。
と、その時だった。
俺の背後から、電車に乗っていた時と同じ視線を感じた。
……なぜだ?
なんで、俺が1人の時に、視線を感じるんだ?
まさか、ストーキングされていたのは雅でも彩乃でもなくて………。
………俺!?
なんで俺が……ストーキングされる相手なんて、まるで心当たりがない。
次第に曖昧だった視線は、確かな人の気配に変わった。
俺は少し歩く速度を上げた。
すると、気配は同じ距離感でついてくる。わずかだが足音も聞こえる。
間違いない、誰かが俺をつけてきている。
法律とかはよく分からないが、ストーカー行為は紛れもない犯罪だ。
もし、本当に俺をストーキングしているやつがいるなら、できれば正体を突き止めたい。
俺は近くの路地裏に入った。
そこでストーカーを待ち伏せすることにした。
シンプルな手段だが、こんなんで本当に引っかかってくれるだろうか。
足音がどんどん近づいていく。
うお、しっかり引っかかってくれてるわ。
そして、長い間悩まされていたストーカーと思われる人物がとうとう姿を現した。
ストーカーは、俺が待ち伏せしていることに気づき、驚いたのかその場に腰を落とした。
「……きゃっ」
それを見て、俺は絶句した。
……え、なんで………だって、この人は……。
ストーカーの正体は、俺も知っている……というか、うちの生徒達なら誰もが知っている人だった。
長い黒髪に透き通るような白い肌。そして凛としたすこしつり気味の瞳。
間違いない。この人は……うちの高校の生徒会長、そして……学園の三姫。付き合いたい女子生徒ランキング1位の────工藤沙耶香だ。
「ど、どうして、あなたが……」
瞠目しながらそう聞くと、彼女は苦笑を浮かべる。
「あ、あはは……」




