第13話 「通話」
クレーンゲームをした後、急に和希達が合流してきて、結局その後は4人で行動することになった。
当初の目的はなんとか果たし、雅と那由の2人で会話できる状況をつくることには成功した。
が、10分程経った後に再び合流し、那由から話を聞いたところ、
「どうだった?逢坂さんは」
「うーん、やっぱり全然喋らなかったね」
話によれば、「あ、えっと、その……」を決まり文句のように嘯くだけだったらしい。
まあ最初はそんなもんだろう。気長にやっていけばいいか。
夕方になり、俺達はショッピングモールの前で解散した。
帰宅した俺は、すぐにベッドに倒れ込んだ。
「ああ……なんかどんと疲れた」
何せ、異性と遊びに行くなんて初めてだった。
雅のあがり症を治す一環ではあったが、俺の方が緊張していたようにも感じる。
「はぁ……俺、キモくなかったかな」
今思い返すと、アニメキャラのぬいぐるみ渡すとか、ちょっとやばかったか。
嬉しそうにしてたから気にしてなかったけど、もしかしたら引かれてしまったかもしれない。
「だあくそ!やっちまった。絶対キモがられた!」
今更になって俺は錯乱し、ベッドの上で暴れ回る。
「ちょっとナオ、どしたの?」
心配した姉が俺の部屋に入ってきた。
「普通の女の子にアニメキャラのぬいぐるみ渡しちまったんだよ!」
「あー、それは終わったね。ドンマイ」
扉の前でそれだけ吐き捨て、姉は戻って行った。
薄情な姉だ。
しかし、その通りなんだよなぁ。どうしよう、気まずすぎて、学校で顔合わせられない。
どうしたら……。
と、そんな時だった。
携帯からメールの通知音が聞こえた。
逢坂雅からだった。
「まじかよ……このタイミングでか」
かなりナイーブな状態でメールを開く。
───今日はとても楽しかったです。ぬいぐるみ、本当にありがとうございました───
読んだ瞬間、どんよりしていた辺りの空気が一気に晴れた。
わざわざメールを使ってまで嘘をつくような人ではない。
これは、本当なんだろう。
「はぁ、よかった……」
俺は安堵し、胸を撫で下ろす。
と、次の瞬間、また雅からメールが届いた。
───でも、すみません。緊張して那由さんと全然話せませんでした。せっかく時間をつくってくれたのに───
メール越しでも、申し訳なさそうにしている顔が目に浮かぶ。
俺はすぐに返信した。
───まだ最初だし、気にしなくていいって。気長にやってけばいいさ───
よく考えると、いきなりハードル高過ぎたかもしれない。
もう少し地道にやっていく方が良いだろう。
しかし、やっぱりメールでは普通に話せるんだよなぁ。
まあ文字を打ち込むだけで、面と向かって話してる訳じゃないから普通だろうけど。
その時、俺はふと疑問を感じた。
面と向かってなかったら大丈夫ということか。
なら、通話はどうなんだろう。
声だけのコミュニケーションなら、緊張せずに話せるのかもしれない。
そんな可能性を感じ、俺は雅にメールを送る。
───なあ、ちょっと気になったんだけど、電話だと普通に話せるのか?───
───わかりません。電話なんてしたことないので───
そうか。それなら試してみる価値はあるな。
───じゃあさ、今からちょっと電話してみないか?───
俺の提案から3分程経ったが返信が来ない。
忙しいのだろうか。
───今大丈夫か?なんか別にやることあったならいいけど───
───いえ、大丈夫です───
あれ、じゃあなんで返信しなかったんだ?
うーん……まあいいか。
───じゃあ、今からかけるけど、いいか?───
───はい、どうぞ───
彼女の了承を貰い、俺は通話画面に移動した。
そして、通話ボタンに指を置く。
が、瞬間俺は気づいた。
───ちょっと待てよ……俺今、女子に電話かけようとしてるのか?
やばい、急に緊張してきた。
ボタンが押せない。
汗も急に滲みだした。
いいのか?俺が女子に電話なんかかけて。
前にもあった。初めてメールを送った時は30分もかかってしまった。
だが、それで結局馬鹿らしい思いをした。やっぱり俺の考えすぎだ。
電話ぐらい普通にするよな?別に俺が電話かけったっていいよな。
覚悟を決めて俺は通話ボタンを押した。
5回程コール音が鳴ってから繋がった。
「あ、もしもし、聞こえるか?」
俺の声が聞こえるか確認をとる。
が、あっちからの返事がない。
「あれ?どうした?俺の声聞こえてないか?」
(……き、聞こえ、ます……)
ようやく返事が来た。が、同時に可能性が消えてしまった。
完全にいつもの喋り方だ。かなり緊張しているように聞こえる。
やっぱり、声だけでもダメなのか。
「おっけー、やっぱり無理だったか」
(……ご、ごめんなさい……)
「全然いいって。実は俺も結構緊張してたし」
通話も、和希とはしょっちゅうしているが、異性と通話するのは全然違うな。
携帯越しに女の子の甲高い声が聞こえる。
小さく弱々しい声だが、どんな有名声優の声よりずっと心地がいい。耳が幸せだ。
と、1人で悦にひたっている場合じゃない。
この間も通話している。沈黙したままだと気まずい。
あっちからは緊張して話しかけられないだろうし。
俺が何か話題をふらないと。
「あー、なんだ。今日は楽しかったか?」
とっさにそんな質問をしてしまう。
やべ、さっき自分で言ってたじゃねえか。やっちまった。
(……えっと、はい。すごく、楽しかった、です……)
案の定、メールと同じ解答が帰ってきた。
「そ、そうか。それなら良かった。またみんなでどっか遊びに行こうな」
まあ、次も雅のコミュ障を治すために、だろうけど。
「他にはいきたい所とかないか?」
(……あ、えっと……)
「あー、今言わなくていいから。また3択カード持ってきてくれたら選んでやるから」
ショッピングモールを選んだ時も、他に行きたい場所の候補が2つあったということだ。
できればそれも選んでやりたい。
(……お、お願い、します……)
「ああ、んじゃそろそろ切るな。また学校でな」
(は、はい……また)
それを最後に俺は通話を切った。
携帯の電源を消し、俺は枕に顔を埋めた。
「ああ……やべえ!俺痛すぎだろ!!」
枕の中で思い切り叫んだ。
今回はマジでキモすぎた!
何が「選んでやる」だよ!カッコつけてんじゃねえよ俺!!
これは絶対ひかれたわ。終わったわ……
「ぐぉおあああああ!!」
俺は自分の恥ずかしさに身悶えし、叫ばずにはいられなかった。
───だが、それは雅も同様だということを直之は知る由もない。
「う、うぐぅぅ……っ」
通話が切れた瞬間、顔を真っ赤にさせた雅はベッドの上で足をバタバタさせながら悶えていた。




