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興味の対象

「私への質問は、もう終わり……?」


 話がステラの魔法の特訓について逸れていったことで、ノーラはそんな風に確認するように尋ねてくる。


「あー、じゃあ最後に一つだけ確認。さっき言っていた魔物を生み出す研究をしているのはノーラか?」

「主導ではないけど、私も研究メンバーの一人……」

「そうか」


 まあそうだよな。それが完全に他人の研究だったらわざわざ水を採取してデータを集める必要性は薄い。


 ノーラたちの最終目的は危険のない魔物を生み出して魔石の供給を確保することだろう。

 ただそのためには、まず魔物の発生原理を解明したり、色々と下準備としての基礎研究が必要になる。

 その過程として危険な魔物を生み出してしまうことは当然あるに違いないが、それはこの世界の将来のためには必要不可欠なリスクだった。


「……怒らないの?」

「別に怒る理由はないだろ? 危険な魔物に遭遇したことなら、最初からCランクの依頼だって分かってて受けたこっちの問題だ」


 もしこれがFランクの依頼になっていて、そのせいでどこかの誰かが犠牲になっていたとしたら、また話は変わってくるかも知れないが。

 少なくともノーラは、現状開示できる情報の範囲でこの依頼の危険性を伝えようとしていた。


 冒険者を金で動くただの便利屋としか見ていない依頼者も少なくないと言われる中、ノーラの対応は充分に誠実なものだと言えるはずだ。


「というかそもそもの話をすれば普通に倒したから別に危険な目にはあってないしな」

「倒した……? あの場所の想定されるマナ濃度なら、Bランクでも苦戦する魔物が生まれたはず……」


 ノーラはそう言って、俺が採取してきた三か所目の容器に入った水に目を向ける。

 密閉されているので見ただけではマナがどれくらい含まれているかは分からないはずだけど、想定よりマナ濃度が薄かった可能性などを考えているのかも知れない。


「あのねノーラ、この二人はかなり特殊だから……ねえ、ノーラに二人のこと教えてもいい?」

「俺は構わないが、クリスは……」


 俺は自分が渡り人であることを別に隠してはいないが、クリスは少し事情が異なる。

 クリスが魔族のハーフであることをステラに明かしたのは、彼女が信頼に値すると共に旅をして判断したからだ。


 けれどノーラに関して、俺たちはまだ知らないことが多すぎる。ステラの友達だからと無条件に信頼できるかと言えば、正直なところまだ難しい。

 けれど――。


「儂も構わんのじゃ」

「ありがとう、二人とも」


 ステラはそう言って、俺たちのことをノーラに説明する。

 そしてノーラの依頼の最中にどんな魔物と遭遇し、どうやって倒したのかという話もした。


「渡り人に、魔族のハーフ……興味深い……」


 話を聞き終えてそう呟いたノーラの目が、途端に輝きを帯びる。

 それは何というか、好物を目の前にした子供のような感じで、純粋な興味と喜びに満ちた目だった。


 ――ああ、やっぱり思っていた通りだ。

このノーラという子は自分が興味ないことに対しては淡泊なだけで、逆に興味を示したものに関しては徹底的に追究したくなるという、凝り性をそのまま形にしたような根からの学者気質なのだ。


 悪い子ではないと分かっているが、正直今のノーラの目は少し怖い。

 とりあえず俺たちのことから話題と興味を逸らそうと考えて、俺は口を開く。


「まあ俺たちの話はまた追々するとして、とりあえず次はステラの魔法の特訓をしてみるか」

「え、もう? というか、ここでやるの?」

「そのつもりだけど……クリスとノーラも、少しだけ協力してもらってもいいか?」

「もちろんじゃ」

「最初から、そのつもり……あなたが何をするつもりなのか、私も興味がある」

「そうか、ありがとう。あと俺のことはあなたじゃなくてシンでいいぞ」

「ん、分かった……シン」


 そんな風に二人の協力を取り付けた俺は、早速ステラの特訓のための準備を始めるのだった。

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