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魔物の研究

 あの川に発生した魔物は、本当に自然に発生したものなのだろうか。

 仮にそうなのだとしたら、あまりにもタイミングが良すぎるのではないか。俺はそんなことを思った。


「あなたは……本当に、変な人……」

「最近よく言われるな」

「……あなたの考えているように、何者かが人為的に、魔物を生み出そうとした可能性は、確かにある……」

「……? 人為的に魔物を生み出す、じゃと?」

「というかシン、そんなことを考えていたの?」

「まあな。というかそんなに驚くような考え方か? マナの多いところに魔物が生まれやすいというなら、マナ濃度の高い水を下流に垂れ流し続ければ当然魔物は生まれやすくなるだろ? だったらそれを誰かがわざとやっていたとしても、別に不思議じゃない」

「確かに言われてみればそうじゃが……」


 そんなに飛躍した論理ではないと思うのだが、クリスやステラの反応を見る限り、この考え方は少し常識外れだったらしい。

 しかし一方でノーラは全く驚いた様子を見せない。ただ表情を変えないまま緑色のジトっとした半眼をこちらに向けていた。……感情が全く読み取れない。


「でも……仮に誰かが、魔物を生み出そうとしていたとして……あなたはそれを知って、どうするつもり……?」

「どうするって、そりゃ――」


 ――ん?

 何だろう、この違和感は。


 魔物を生み出すような危険なことをしている人間がいると知ったら、普通はそれをやめさせるとかいう考え方になると予想出来そうなものだけど。

 それなのに、どうするつもり、とは一体どういう意味だろうか。


「……なあクリス。仮に出来るとしたら、魔物を生み出すってのはこの世界では悪いことになるか?」

「何当たり前なことを言っておる。危険をばら撒くのと同じなのじゃから、当然悪いに決まっておるじゃろう」

「だよな」

「……それなら、研究を進めて……危険のない魔物が生み出せるようになれば、何も問題はなくなる……」


 俺とクリスの会話に反応するように、ノーラはそんなことを言った。

 危険のない魔物を生み出す。どうしてわざわざそんなことをする必要があるのか。


 そこまで考えて、ようやく俺はノーラの考えていることを理解する。


「なるほどな。魔物を作るというのは、魔石を作るということなのか」


 魔石は魔物を倒すとその場に残るものだが、逆に言えばそれ以外の方法では手に入れようがないものらしい。


「そう……魔道具の普及で、魔石の需要は急激に増えた……このまま数年もすれば、魔石の供給が不足するようになる……そうなったら、最悪戦争が起こりかねない……」

「確かに今は世界中の生活基盤が、どこもかしこも魔道具に依存しだしているから、充分にあり得る話ね……あまり考えたくないけど」

「ふむ。つまり人為的に魔物を作る研究は、魔石不足を解消するための重要な研究、というわけじゃな」


 ノーラの話を聞いて、ステラとクリスはそれに理解を示す。

 人が生み出した魔物によって被害があったとしても、せいぜい数人程度で収まるだろうけど、仮に戦争となったら被害がどれだけの規模に及ぶのかは想像も出来ない。


 だから戦争を防ぐためなら、魔物を人為的に生み出すことだって許される。

 多数を助けるために少数の被害を許容する。それがこの世界の合理的判断なのだから。


「とりあえずあの魔物が自然に発生したものじゃない可能性についての話は分かった……まだ質問を続けても大丈夫か?」

「ん、問題ない」


 さっきから俺がずっと質問攻めしているから、ノーラに不快感とか与えていないか少し心配になったけど、特にそんな様子もなく。俺が訊いたことには、ノーラは素直に答えてくれる。


 別に俺の質問に答える理由も義理もないはずなんだけどな。やっぱりノーラは少し変わっているだけで、本質的には他人に親切な良い子なんだろう。


 とりあえずその後もいくつか質問してみて、色々分かったことがある。


 たとえばあの場所に魔物が生まれるというノーラの予測は、別に魔物の発生原理を解明しているわけではなくて、学術ギルドに蓄積されている統計データから導き出されたものらしい。

 なんでも広範囲に感知系の結界を使うことで、マナ濃度ごとの魔物が発生するタイミングなど様々なデータを長年に渡って集めている魔物学者がいるのだとか。


 そうして俺の質問がひと段落したところで、今度はクリスが口を開いた。


「儂からも質問していいかのう?」

「ん、どうぞ」

「おぬしは先天的な非魔法適正者という風に聞いておったのじゃが、見た感じ普通に結界などの魔法を使っておる……それはどうやっておるのじゃ?」

「ん……まず非魔法適正者というのは、別に魔法が使えない人間じゃない……体内にマナを持たず、同時にマナを感知することが極端に苦手なだけ……適切な術式と大気中のマナを使えば、魔法を扱うことは理論上可能」

「え、そうなの?」


 そんなノーラの言葉を聞いて、意外そうな声を上げたのはステラだ。


「突然どうしたんだステラ?」

「いや、私も非魔法適正者でしょ? ……って言ってなかったっけ?」

「聞いてないな」

「うむ、聞いておらん」


 まあおそらくステラもそうだろうという話は俺とクリスでしていたけど。


「とりあえず私も非魔法適正者なんだけど、てっきり魔法は使えないんだとばかり思ってたから、ちょっと驚いちゃって」

「いや、普通はその認識で間違っておらんはずなのじゃが……」


 そう言いながらクリスはノーラに目線をやる。

 説明を求められていることを理解したノーラはやはり表情を変えずに口を開く。


「もちろん普通の人より苦労はするし、私の場合だと属性魔法はどれもろくに使えないくらい不得手……でも儀式系魔法に関してはかなり高い適正があった……ステラもマナの感覚を掴めれば、何か得意な魔法は見つかるはず……」

「本当!? 」

「ん、本当……」


 ノーラの答えを聞いて、ステラはぱっと見ただけで分かるくらい喜んでいた。


 確かマナの感覚を掴むのは、魔法の才能がある人でも普通は数年かかると以前クリスが言っていた。非魔法適正者となればそれ以上に苦労するに違いない。


 けれど絶対に出来ないと思っていたことが、出来るかも知れないという希望を得た今のステラにとっては、そんなことは関係ないのだろう。


「ちなみにノーラはマナの感覚を掴むのにどれくらいかかったんだ?」

「確か、五年くらい……」


 結構かかるな。

 とりあえず普通にやるとステラも同じくらいかかると考えて間違いないはずだ。


 別にステラはそれを悲観したりしないだろうけど、今後も冒険を続けていく上ではステラも何かしら魔法が使えた方が便利に違いない。

 もしかしたらステラが弱い魔物程度が相手なら自分の身を守るくらいは出来るようになるかも知れない。


 というか俺はステラを仲間に勧誘するときに、戦えないことを理由に一度断られている。一応戦うだけが貢献でないという形で説得して勧誘自体は成功したけど、根本のところでステラが感じていた足手まといになるかもしれないという引け目が払拭されたわけではない。


 ちょうどいい機会だし、少しステラには頑張ってもらって魔法を使えるようになってもらうのはありかも知れない。


「ステラは魔法が使えるようになりたいんだよな?」

「もちろん」

「じゃあこの後ちょっと特訓してみるか」

「それはいいけど、でもそんなにすぐ使えるようにはならないと思うわよ?」


 踊り子の経験から、大きなことを成し遂げるには地道な積み重ねが大切だと知っているステラは、そんな風に現実的なことを言う。


「そんなの、やってみないと分からないだろ?」


 そんなステラに、俺は自信満々にそんなことを言ってみた。

 まあもちろん、俺の言葉にはいつもどおり何の根拠もないんだけど。


 そのことに一人気付いたクリスはどこか呆れたような表情をしていたが、結局何も言ったりはしなかった。

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