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単刀直入

 ノーラの家の中は殺風景とまではいかないまでも、見るからに生活に必要最低限のものしかない様子だった。

 確か前にステラの二つ年下だと言っていたからノーラは十五歳くらいなはずだけど、この家の様子は年頃の女の子が住む環境としては少々異様なもののように思えた。


 俺たちはノーラに促されるままに、テーブルの席につく。


「というかノーラ、こんな良い所に住んでたなら、教えてくれても良かったのに」

「ん、次に会ったら、教えるつもりだった……ここに住み始めたのは、先月からだから……」

「そりゃまたずいぶんと最近じゃのう。何かあったのかの?」

「おじさんに、そろそろ自立してもいい頃だろうって、寮を追い出された……便利だったのに」


 少し拗ねたような調子でノーラはそう言った。

 ちなみにノーラの言うおじさんというのは、ノーラを孤児院までスカウトしに来た学術ギルド≪星の天秤≫の偉い人のことだとステラが補足してくれる。


 元々学術ギルドの寮は資産を持たない若い学者のための施設らしい。

 そのため発明などによって大きな収入があるノーラのような学者は、普通は自分から狭い寮を出て自分の住居を持つようになるという。


 けれどノーラは狭い寮を苦にしておらず、むしろ便利だとさえ思っていたため、自分から寮を出ようとは考えなかったようだ。

 そんなノーラが寮を追い出される形になったのは、寮の部屋数にも限度があるということや、すでに学者として多大な実績のあるノーラがいつまでも寮暮らしではあまり外聞が良くないということが理由みたいだ。


 そんな風にノーラの近況の話がひと段落したところで、ちょうどいいかと思って俺が口を開くことにした。


「それで一応俺たちはステラとノーラを会わせるというのが第一の目的ではあったんだけど、実はノーラにもう一つ用件があるんだ」

「ん、分かってる……冒険者ギルドの依頼の件……想定より、ずっと早かった……」

「これが依頼されていた三か所で採取した水だ。これでいいんだよな?」

「…………これで、問題ない」


 俺が取り出して机の上に並べた水の入った容器三つを、ノーラはそれぞれしっかりと確認してからそう答えた。


「というか、よく儂らがその依頼を受けた冒険者じゃと分かったのう」

「少し前に冒険者ギルドから、依頼が受注されたという連絡があった……受注したのは、シンとクリスという今話題の二人組の新人……その後ステラと一緒に訪ねてきた二人も、シンとクリス……」

「なるほどのう、ギルドから連絡が行っておったのか」


 確かにその状況で別人だと考えるのは現実的ではないだろう。


「なあノーラ、今回の依頼の内容についていくつか訊きたいことがあるんだけど、いいか?」

「ん、答える……」

「まずその水は何の目的で採取したんだ?」

「水に含まれるマナの、濃度測定のため」


 ノーラ曰くここ最近、街より下流での魔物の発生率が顕著に高くなっているらしい。

 その理由はまだ分かっていないが、ノーラは街で使った水を浄化している魔法の影響だと考えていた。


 浄化魔法による残留マナの量と性質を調べるために、必要なサンプルの採取が今回の依頼の意味だったようだ。


「なるほど。じゃあ次の質問だけど、今回の依頼がCランクだったのは、ノーラが冒険者ギルドに危険性を伝えたからか?」

「そう」

「つまりノーラはあの場所に危険な魔物が発生すると、最初から分かっていたんだな?」

「分かっていた、というのは正確じゃない……あくまでも、仮説段階での予想」

「……そうか」


 たぶんノーラのその言葉に嘘はない。

 けれど全てが言葉通りという訳でもない。


 例えば浄化魔法の影響を単純に調べるだけなら、街の上流と下流の二つのサンプルの比較でもいいはずだった。

 少なくともあの亀の魔物が現れた三つ目の場所を指定した理由と根拠は、ノーラが今語った言葉からは分からないだろう。


 というかまだ手元に水のサンプルすらないノーラが、ああして魔物が実際に生まれる場所をピンポイントで指定できること自体が、俺はどうにも不自然なことのように思えた。


 もちろん魔物が生まれたのは偶然という可能性もあるけれど、そう考えるのはやはり現実的ではない。

 だから俺は、単刀直入に尋ねた。


「それじゃあ三つ目の質問。水の採取の三つ目の場所で、実際に俺たちは強力な魔物と戦闘になったんだけどさ。……あの魔物って、本当に自然に発生したものなのか?」

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