憧憬
日が沈んで、俺たちは焚き火を囲みながらクリスの料理を食べる。
これまでの道中はクリスが腕を振るう機会はなかったが、今日は時間があったからとクリスは結構気合を入れて鍋で色々と煮込んでいた。
材料はイニスカルラで買い込んだ保存食だが、長時間煮込んだ買いがあってか、クリスの味付けが良く染み込んでいる。
「美味しい……クリスって料理も出来るのね」
「何じゃ突然。まあ長く生きておるから、料理くらいはな」
「そういやステラは料理とかしないのか?」
「必要なときはするけど、あまり得意じゃないわ。というか私は踊り以外、何も得意じゃないんだけどね」
そういってステラは明るく笑う。
そこにあまり自嘲めいた雰囲気は無くて、踊りに関する確かな自信と誇りを感じさせる。
「俺も剣以外は今のところさっぱりだしな」
「シンは器用だし、やろうと思えば色々得意なことも見つかりそうだけどね」
「そうじゃな。別に剣の腕を生かして冒険者として生きるだけが道ではない。他にも色々と試してみる価値はあるじゃろう」
「色々なぁ」
色々といっても、俺は特にこれといってやりたいことがあるわけではなかった。
まあそれを探すための旅ではあるのだけど、じゃあさっそく何かを試そうと思っても、まずはこれと言えるものもない。
そう言った意味では、ステラのように一つのことを極める生き方というのもありなのかも知れない。
――剣の才能があるなら、それを極めてみる。
実際、最近は魔物と戦っていても、実力的に成長を感じられるようになった。
そしてそのことが、少しずつ楽しいと思えたりもしている。
強くなるということ。
それ自体には大した意味はないのかも知れない。
けれど強くなれば、少なくともこの手が届く範囲なら誰かを救うことが出来る。
それこそ、いつかのクリスが瀕死の俺を救ってくれたように。
「シン、どうかしたのか? ぼうっとしておるように見えるが」
「ああ、いや……改めて、クリスもステラも凄いよなって感心してたんだ」
「何じゃ、儂が凄いのは当然じゃろう? 一人で何十年生き抜いてきたと思っておるのじゃ」
「私だって≪舞姫≫なのよ? 現役でトップの踊り子なんだから当然じゃない」
俺が褒めたら二人は似たような反応を返した。
そのことが少しおかしくて、俺は思わず笑ってしまう。
でも、そうなんだ。
自分の実力と実績をこうして胸を張って誇れるというのは、本当に凄いことなんだと思う。
俺にはまだそうして、胸を張って誇れるものが何もない。
だからそんな二人が、少しだけ眩しく見えた。
「……俺もいつか」
「ん? シン、今何か言ったかのう?」
「いや、何でもないよ」
思わず口に出した言葉を俺はごまかす。
それを直接本人たちに口にするのは、青臭くてさすがに恥ずかしい。
だから心の中で、静かに思うに留める。
誇り高く生きる二人と共に旅を出来ることは、きっと幸運なのだろう。
俺もいつか、彼女たちのように生きられたら――。
――それは俺の心の中に芽生えた、確かな憧憬だった。




