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新たな仲間

 そうして俺たちは晩飯前には宿に戻る。

 ステラの様子を窺うと、もうずいぶんと回復しているようで、明日には問題なくイニスカルラに旅立てそうだった。


 そうして宿で晩飯を終えた後、俺はステラに声をかける。


「なあステラ、少し話があるんだけどいいか?」

「ん、何、改まっちゃって……別にいいけど?」


 そう言われたのでステラの部屋に行く。もちろんクリスも一緒だ。ちなみにクリスはやたらとニヤニヤしている。別にそんなに面白い話をするつもりはないのだが。


「ステラって、イニスカルラに着いた後は予定とかあるのか?」

「予定? ……何、もしかしてデートのお誘い? しかもクリスの目の前でなんて、ずいぶんと大胆な浮気ね」

「違う。というか浮気って何だ、俺とクリスは別にそういう関係じゃないって」


 そう言いながらちらりとクリスを見るとやはり楽しそうに笑っていた。というかいいなそのポジション、俺もそこに立ちたい。


「知ってるわよ。……そうね、一応ギルドに今回の依頼の完了報告をするくらいかな。新しい依頼とかも来てるかも知れないけど、しばらくは踊り子を休業しようと思うから」

「休業?」

「ええ。踊り子として活動する目的がなくなっちゃったからね……だから何のために踊るのか、それを一旦整理したいの」


 ステラの踊り子としての目的。それはかつての一座の仲間を探すことだった。

 しかし、彼らがすでに生きていないことは、ステラだってとっくに気づいていた。

 気づいていて、それでも自分を騙しながら今まで踊り続けてきたが、ステラはもう自分を騙して踊ることをやめたのだ。


「そうか。ということは、それ以降のステラは特に予定が決まっているわけじゃないんだな……なあステラ、もしステラさえ良ければなんだけど、俺たちと一緒に旅をしないか?」

「旅? 私が、あなた達と? ……無理よ、私は戦えないもの」

「それは大した問題じゃないって。戦闘なんて俺一人で大抵のことは何とかなるし、その上クリスまでいるんだ。俺たちより強い冒険者パーティーなんてまずいない。少なくとも俺は見たことがない」


 正確に言えば他の冒険者パーティーを見たことすらないのだけど。


「それはそうだけど……」


 ステラは迷っている。迷っているということは、旅に同行すること自体はステラにとっても魅力ある提案だということだ。

 ただ遠慮がちなステラは、自分が俺たちの足手まといになることを心配している。自分だけがパーティーに何も貢献できないことを危惧している。


 けれど何も、戦うだけが貢献ではないのだ。


「それに踊り子として世界中を回ったステラだからこそ持っているものがある。グランドイーターとか隠蔽の腕輪みたいな、俺もクリスも知らない知識とかは今後もたくさん出てくるだろうし。あと俺とクリスだけだったら怪しい新米のFランク冒険者だから信頼も得づらいだろうけど、ステラがいてくれたら少なくとも信頼を得るという面での心配はなくなるはずだ」


 俺は続ける。


「何より、今回の旅で俺はもっとステラのことを知りたいと思った。≪舞姫≫としての格好いい人間を演出しているステラだけじゃなくて、本来のステラという人間も見てみたいと思ったんだ」


 それくらい俺はステラという人間に惹かれていた。これは理屈じゃない。


「……クリスはいいの?」

「ん、何がじゃ?」

「私が、二人の旅について行っても」

「ついていく、というのには反対じゃのう」

「…………」

「儂らの仲間として、共に旅をするというのなら、賛成じゃがのう」


 クリスはそう言ってドヤ顔をしている。そんな「今儂良いこと言ったじゃろう?」みたいな顔でこっちを見ないでほしい。というかそこまで良いことを言ったわけでもないだろう。


「というかステラとこのまま別れていいのかと言ってきたのはクリスなんだよ。言ってしまえばクリスもそれだけステラを気に入っているってことだな。自分で言うのは照れくさいから俺をそそのかしてステラを勧誘させる程度には――」


 そこまで言ったところで、クリスの杖が俺の後頭部にコツンと当たる。余計なことは言うなというクリスの照れ隠し。ちなみに全く痛くない。かわいい。


 まあ何にせよ、そうでなければクリスの魔族関連の話をステラに明かしていいとは言わなかっただろう。

 気に入っているだけでなく、すでに信頼できる仲間だと、クリスは短い付き合いながらステラという人間をそう評価したということだ。


 もちろん、ステラという人間の抱えていた根深い問題まで俺たちは触れてしまっているということも関係はあるのだろうけど。


「まあそういうわけで、俺たちとしてはぜひともステラに仲間になって欲しいんだけど……どうだ?」


 俺は自分たちの意思を伝え、ステラの意思を確認する。

 ステラは俺とクリスの表情を確認し、そしてどこか安心したように言った。


「……むしろ私からお願いするわ。私を二人の仲間に入れてください」

「決まりだな」

「じゃな」


 そういうわけで、俺たちの仲間にステラが加わった。


 ちなみにステラは勢いや義理ではなく、ちゃんと考えた上で踊る理由を探すために、最善の選択としてそうしたのだと思う。


 ステラの目的は、俺がこの世界で何をするのかを探すという根本の旅の目的と合致する


 ――言ってしまえばこれは、青臭い自分探しの旅だった。

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