勝負
ようやく見つけた、ルイーナ街道を歩くクリスの背中に、俺は冗談めかして問いかける。
「か弱い女の子の一人旅とは、さすがに不用心すぎないか?」
「……あいにく、女の子という歳でもなければ、か弱くもないのでのう」
クリスは俺の冗談に乗ってくる。声色を聞く限りは普段と変わりない様子だった。
「それでおぬしは、儂に一体何の用じゃ?」
「決まってるだろ……クリス、お前を迎えに来たんだよ」
「……儂はもう、おぬしと共に旅をする気はない」
「まあそうだよな。そうでもなければ、今こんなところにいるはずもないし」
「………………」
それが分かっていてもなお、俺はクリスを追いかけた。
女々しくて、未練がましくて、恥ずかしくて、情けなくて。
考えれば考えるほどダサくて泣けてくるけど、仕方がない。それが俺の本来の姿なんだから。
「なあクリス、お前のマナを隠すことが出来る道具を見つけたんだ」
そう言って俺はクリスに隠蔽の腕輪を差し出した。
クリスはそれをじっと見てから、少し感心したように言う。
「……なるほど、消魔石に特殊な術式を刻んでおるのか」
「ああ。北の国では軍事利用されているものらしい。昔は魔法を使うために一々つけ外ししないとすぐ壊れてたけど、今は改良を重ねて魔法もつけたままで問題なく使えるってさ」
「ふむ……確かにそれがあれば、マナの問題は解消できる……しかし、それでも儂は……」
旅を続けることに関しては、クリスは首を縦に振らなかった。
それでも確実にクリスの心は揺れている。
結局クリスは俺のことを心配しているのだ。
ヴェロニカの一件のように、クリスのせいで俺が魔族のような強大な力を持つ存在に目をつけられることを恐れている。
それは俺がいくら問題ないから気にするなと言ったところで意味がないことは、これまでの経緯で理解している。そもそも俺は魔族のこともよく知らないし、その他にこの世界にはどんな脅威が存在するのかも分かっていない。
だからその言葉には説得力がない。だとすれば、どうすればいいのか。
「……ああもう、まどろっこしいな。そんなに俺が頼りないって言うならさ、勝負しようぜクリス」
「勝負……? おぬし、それは本気で言っておるのか?」
「もちろん本気だ。正直自分でも馬鹿馬鹿しいとは思うけど、お前を納得させる方法が他に思いつかないんだ」
「……全く。おぬしはもっと賢い人間だと思っておったが、本当に面白い奴じゃのう。じゃが、今の儂はおぬしが思っているその何倍も強いぞ?」
「知ってるよ。でも、そんなお前を楽勝で圧倒出来るくらいじゃないと、お前は納得しないだろ?」
「楽勝で圧倒のう……儂も軽く見られたものじゃな」
「その言葉、そっくりそのままクリスに返すよ」
「………………」
売り言葉に買い言葉。こうなったらお互いにもう引けないあたり、俺たちはやはり似た者同士なのだろう。
何にせよクリスも勝負に乗ってきたので、俺は五メートルほど離れたところで剣を抜いた。
「もっと距離を離した方がいいか?」
「………………」
クリスは答えない。どうやら挑発と捉えたようだ。まあその通りなんだけどな。
そして次の瞬間、クリスも杖を構えて俺と相対すると、じりじりと距離を離すように動きだす。すでに勝負は始まっていた。
クリスは俺の速さに対応出来る状態を維持しながら、少しずつ自分の有利な間合いを作ろうとしている。
このまま待っていてもクリスが有利になるだけだが、だからと言って馬鹿正直にまっすぐ突っ込めば、それこそクリスの思う壺だ。
クリスは近距離での戦闘を嫌がる振りをして、逆にそこに俺を誘い込もうとしている。おそらくは俺の知らない魔法で罠を張っているのだろう。
まあ、あえてその誘いに乗った上で圧倒してもいいんだけど、それだとクリスは単に本来苦手な近距離戦闘で負けただけになってしまう。
それでクリスが負けを認めないということはないだろうが、心の底から納得して俺の力を信じられるかといえば難しいだろう。
だから俺はあえて、自分から後ろに下がった。
もちろんそんな俺の隙を見逃すクリスではない。その瞬間に恐ろしい密度の氷の魔法が俺に向けて放たれる。
俺はその魔法に対して、ただ一振り、横薙ぎに剣を振った。
その剣には何の魔法も乗せていない。乗せたのは、ただ一つの強い意志。
何人たりとも俺の邪魔はさせない。
それは例えドラゴンであろうが、魔族であろうが、それこそ形のない魔法のようなものでさえ、だ。
俺の力は、俺の意志を押し通すためにある。だから――自分の道は、自分で切り開くんだ。
そうして俺が剣を振り切った次の瞬間、クリスの放った氷の魔法は跡形もなく消滅する。
「……何だ、やっぱりやれば出来るじゃねえか、俺」
まあ、出来る気がしていたからやったんだけどな。




