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ステラへの質問

 次は俺からステラに質問する番だった。

 正直言って、彼女に訊きたいことはたくさんある。その中でも特に引っ掛かっているのは、何故霧を越えるような危険を冒す必要があったのかだ。


 ステラの行動は、正直言って不可解だった。踊り子の仕事としてラドーム村のお祭りで踊るということが、俺にはどうしても命より重要度が高いとは思えなかったのだ。


「ステラは一度、ラドーム村のお祭りには死んででも行かなければならないと言っていたが……それは何故だ?」


 これさえ分かれば、他の気になることもおよそ想像がつくような気がする。だから俺はこの質問を選んだ。


「まあ、それを訊いてくるわよね……」


 ステラは呆れたような声でそう言ってからため息をつく。

 何というか、自分自身に呆れているという感じだった。


「……私の話は少し長くなるわ。あと言っておくけど、別に面白い話でもないし、全部説明してもそれであなたが納得出来るかも分からない話よ」

「ああ、それでステラのことが少しでも知れるなら問題ない」

「……そう」


 そういってステラは語り出す。


「私は北の国の生まれなの……って言ってもシンは分からないんだっけ。北の山岳を越えた向こうには、大きな国が三つあるの。それでその三国は何百年にも渡って戦争を続けている。もちろん何度も休戦を挟みながらだけどね。そして最後に休戦が明けたのは二十年前。言い換えれば、この二十年間はずっと戦争が続いているということ」


 ステラは続ける。


「私は戦災孤児だった。物心ついたときにはすでに両親は死んでいたわ。それでユーニス教の教会が営む孤児院で育ったの。当時の状況はあまり詳しくないけれど、孤児院に拾われただけでも、私は運が良い方だったのだと思う。といっても、その孤児院は十二歳までしかいられない決まりだったけどね」

「十二歳……」


 俺は思わず声を漏らす。十二歳なんて、俺の世界ではまだ小学生だった。

 少なくともその時点で世間に放り出されて、一人で生きていけるような年齢ではない。


「そ、十二歳。社会的には何も出来ない子供だけど、それも仕方ないことだった。孤児は増えていく一方だったんだもの。だから十二歳までにある程度の知識と教養を身につけた孤児の中から、何割かが自分の力で生き残っていく。ユーニス教の『一つでも多くの救いを』という教えからすれば、全滅よりはずっとマシということなのかもね」


 どこか自虐的にステラは笑う。


「まあそんな状況だから、仲間内では『ステラはかわいいから娼館に入れるかもね』なんて冗談を言い合ったりしてたわ」

「娼館って……」

「あら、知らない? お金を払ったら、綺麗な女の人がえっちなことをしてくれる施設」

「いや、名前も意味も知ってるよ」

「言っておくけど、別に娼館に入るっていうのは悪い意味じゃないのよ。娼館自体はギルドもあるちゃんとした商業施設だし、働いている人たちの扱いもちゃんとしているもの。そもそも私の国は奴隷制度もあって、実際孤児の多くは奴隷になって、数年で死んでいくの。手先が器用な子は職人に弟子入りしたり、頭の良い子は商人の下で働いたり、運が良い子は金持ちの召使いになれたりもしたらしいけど、残念ながら私はどれでもない。だから生きていくためには、娼館という選択肢は限りなく現実的なものだったの」


 そのあたりの感覚は、たぶん生まれも育ちも全てに恵まれていた国で育った俺が口出し出来ることではないのだと思う。そもそも俺はそんな恵まれた国での社会の厳しささえ知らないのだから。


「まあそんなこんなで、七歳くらいで将来娼婦になるしか生きる道はないんだなって、ちょっと絶望していた頃、私は偶然、街で旅の一座を見かけたの」

「旅の一座?」

「一座というのは演劇や舞踊、音楽など、人々を楽しませることを生業とする集団じゃな。一つの街に拠点を置くものが多い中、まれに世界中を旅しているものもあるそうじゃ」

「しかも戦争中で危険な街まで旅をしてくる一座なんて、他にはまずないでしょうね」

「なるほど……で、その一座がどうしたんだ?」


 俺はステラに続きを促す。正直言ってステラの話が気になって仕方がなかった。


「詳しく話すと時間がいくらあっても足りないから簡単に言うと、子供だった私はたまたま見かけたその一座の公演に感動して、その場で弟子入りを志願したわ」

「お、おお……」


 すげー行動力だな七歳児。


「今思えば無茶苦茶だと思うし、弟子入りなんて子供の戯言でしかないのだけど、それでも一座の代表がそんな私を気にいってくれて、そのまま孤児院から引き取ってくれたの。その後は一座の中で雑用をしながら、色々なことを学ぶ内、次第に私には踊りの才能があるってことが分かって、私は踊り子として一座の中でもトップの人気を獲得した幸せな美少女として生きていくことになりました。めでたしめでたし」


 確かにめでたい話だった。

 もちろんそれは、話がそこで終わる場合は、だが。


「……それで? その後、一体何が起きたんだ?」

「………………」


 それまで饒舌に話していたステラは口ごもる。心なしか、その身体が震えているように思えた。

 数秒の沈黙の後、意を決したステラは絞り出すように言う。


「≪災厄≫に、襲われたの」

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