これからの話
目的を果たした俺たちは、一旦クリスの家へと戻ることにする。家に着く頃にはすでに日も傾いていた。
朝食の時と同じようにテーブルで向かい合うように座り、クリスが入れてくれたお茶を飲みながら話をする。
「今回は、おぬしのおかげで本当に助かった。……もし儂一人じゃったら、今頃は……」
それ以上はクリスも言わなかったが、何を言おうとしたのかは分かる。
「何にせよ無事で何よりだな、俺もクリスも」
「……あれほどの危険に、おぬしを巻きこむつもりは無かったのじゃ」
そう言って落ち込んでいるクリスは、見た目相応のか弱い少女のようだった。
だから俺はそんな彼女を元気づけるように言う。
「クリスは何も気にする必要はないだろ? 俺は自分で決めてクリスに同行したんだから」
俺は危険を承知で、その決定を自分で下した。その決意は他ならぬ俺自身のものだ。だから結果どうなろうとそれは全て俺だけの責任だ。
そうした俺の決断を蔑ろにすることは、俺自身を蔑ろにすることに繋がる。
聡いクリスは、俺の言葉だけでそのことに思い至ったようで、それ以上は自分を必要以上に責めることは言わなくなった。
「……そう言ってもらえると儂としても助かるのじゃ」
「それに、俺としても自分の力を知るいい経験になったしな」
「渡り人の力、か……そういえばおぬし、あれはもう自由自在に使いこなせるのか?」
「いや、まだ無理だな。自分でもどうやったのか理解もしてないし。まあでも、あれだけのことが出来ると分かっただけでも充分だ」
ドラゴンを倒した瞬間のあの力はまだ扱いこなすことは出来ていないが、あれが必要になることもそうそう無いだろう。だから焦って習得する必要も無いはずだ。
それにあれが無くても、どうやら俺は充分に強いらしい。
「そうか……それでシン、おぬしはこれからどうするつもりなのじゃ?」
「これから?」
「うむ。慣れない異世界ではあるじゃろうが、それだけの力があれば生きていくだけなら特に苦労もないじゃろう」
ああ、そういうことか。今までゆっくりと考える機会はなかったが、それは遠からずぶち当たる問題だった。
――これから、か。
しかし色々考えようにも、現状だと情報が少なすぎて決めようがなかった。
何をするにしても、まずはこの世界のことを知る必要があるだろう。
「とりあえずは大きな街にでも行ってみようかなと思う。その後のことは、その時に考えるよ」
「ふむ……まずこの世界のことを知らねば、判断もつかんか」
クリスはそう言うと少し考えるように目を伏せた。
――あれ、もしかしてこのパターンは。
そして、どうやら俺の予想は正しかったようだ。
「よし、決めた。儂もおぬしに同行するとしよう」
「やっぱりか。……いや、ありがたいというか、普通に嬉しいけど……いいのか?」
「うむ。渡り人としてでなく、シンという人間自体に興味が湧いたのでな」
「興味本位かよ」
「あはは。まあそう言うでない。右も左も分からぬ異世界なら、ガイドはいた方が便利じゃぞ?」
「まあクリスが来てくれるなら心強いけどさ」
「それも治癒魔法まで使えるとびっきり美人の魔法使いじゃしな」
……美人?
俺は疑問形でクリスを見る。
確かに将来的には美人になるとは思うが、現状はせいぜい美少女というところだった。
ああ、でもクリスはすでに百歳を越えているという話だし……将来的ってそれ、俺が生きている間の話になるのか?
「……何じゃ、その目は?」
「いや、クリスの体ってこの先成長するのかなって」
「……ふむ? それはあれかの? おぬしはボンキュッボンの方が好みじゃとか、そういう話か?」
「どうしてそうなった」
「人間の男はおぬしくらいの年齢になると、そういう性的嗜好に目覚めるのじゃろ?」
「性的嗜好言うな。というか違うからな?」
「……ふむ。つまりシンとしては、成長せずに幼いままの方が良いと」
「いや、そうは言ってない」
「確かに儂ならおぬしの特殊な性癖も合法的に満たせるから安心じゃな!」
「全然安心じゃねぇよ!」
クリスの外見について少しからかおうかと思ったら、思いもよらない角度から反撃を食らってしまった。
その辺りはさすがに百年以上生きているだけあって、全く動じないというか何とも強かだ。
……何にせよクリスがついてきてくれるというなら、それは俺にとっても嬉しい話だった。
そんな形でとりあえずの方針が立ったところで、クリスの提案で晩飯にする。
料理を手伝ってみたが、異世界といっても人間が生きている以上、その様式が大きく変わることもないらしい。材料こそ違えど、料理の完成までの手順で特に戸惑うこともなかった。
とはいえ俺は料理が得意ではないので、役に立てたのか正直自信はないのだけど。
ちなみにクリスは俺の手つきを見て爆笑していた。酷い。




