被フォアグラ
死ぬために生きている
それは人間も同じ?
生まれて直ぐに小さな箱に詰められた。
物心も付いていないのに何故かその時の記憶は鮮明に思い出せる。
もちろん俺のただの妄想という可能性も否定できない。
それ以降の記憶が曖昧だから。
左右には同じような奴が、何列も何行も重層的に拘束されている。
馬鹿みたいに奇声を上げながら首を振りまわしている。
赤ちゃんのガラガラの玩具のように、頭の中で申し訳程度の脳が音をたてているに違いない。
ここには窓も無く日光が差し込まないから、たまに顔を照らされると眩しくて仕方がない。
籠の外の奴らのヘッドライトが、対向車のレーザービームのように俺の網膜を刺激する。
ゴーグルくらい装着させてもらいたいものが如何せん奴らとは会話が出来ない。
資金は出来るだけ切り詰めなければならない彼らは、合理性のみを追求している。
総じて、一番嫌いな時間は食事の時間だ。
ろくに動けやしないのに、奴らは口から食道まで巨大なストローを突っ込んでくる。
首を振ったって無駄。
首根っこを掴んで抑え込まれる。
奴らにとって、俺らの首を絞めるのはジャガイモを引っこ抜くより簡単だろう。
そして、食事という名の無機質な嘔吐物のようなヘドロを流し込まれる。
自分が吐いた嘔吐物もそのまま流されてもう一度体内に回帰する。
他動的反芻運動。
皆みるみる太っていき、精気を次第に失っていった。
眼も小学生がべた塗したような黒色をしていた。
本音はわからないが、見ていて諦めたものから死んでいったように思う。
生きるとしても、この無残な生き地獄。
ろくに掃除をされないこの部屋は、腐った悪臭に囲まれていた。
汚物の処理は予算では十分に賄えないから後回しにされていた。
月日が流れたある日。
混濁した意識の中、出口がゆっくり開いた。
安堵、安堵、安堵。
あらゆる邪悪に耐え抜いて、俺は、ついに解放される。
全身の毛穴から溜息と汗が溢れ出る。
・・・。
運ばれたのは俎上の上。
どれだけ動いても声を出して救いは来ない。
「おお、美味そうだ。」
と最後の言葉を聞いた時、世界がくるくる回って床に落ちた。
刎ねられた首から出た血が床の隙間を通って逃げる。
俺の血の色は意外と悪くはなかった。
興味があるのは俺の肝臓だけ。
俺には抵抗の余地すら反逆の兆しすら一度もなかった。
後悔さえ出来ない。