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異世界行ったら門前払い食らいました  作者: 矢代大介
Chapter8 神と人と始まりの地と
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第66話 決戦-3

「たわけたことをォォ!!」

 咆哮に乗せた魔龍の忌々しそうな雄たけびが轟くとともに、その口からは信じられない量の火炎の大波が吐き出された。その禍々しい黒紫色をした炎めがけて、俺とカノンが飛び出す。

「アルカンシエル!!」

「ウォトム・ガプサ=テトハドマスっ!!」

 アルカンシエルから吐き出された青い魔力素子の塊と、カノンが張った水の障壁が重なり合い、互いの力を高めあって、堅固な蒼穹色の防壁となって顕現した。直後、それにぶつかった黒紫の炎が爆ぜ、蒼い防壁をもってしても防ぎきれない熱波を俺たちの元へと届かせる。

「っ……タクト君、あいつの弱点とか、わかりそうかしら?」

「さぁ、な!わかってたら、苦労なんてしねぇよ!!」

 問いかけてきたサラに悪態を混ぜながら返答し、俺はいまだ身体にまとわりつく熱波を払いのけて、目の前に屹立する魔龍を見据える。正直に言えば、こうして第二形態が出てくること自体想定外だったのが痛い。いやまぁ、その辺に関する予備オタク知識もあるにはあるが、実際に相対することとなれば話は別だ。ともすればすぐにでも呑まれてしまいそうなその威圧感に、俺はただ圧倒されている。

 まぁ、いまさら泣き言を言っても始まらない。今は何とかして、この魔龍を妥当する方法を考えないと!

「カノン、ゴーシュ、サラ。今はとりあえず、好き勝手に攻撃してくれ!あいつの弱点やら急所がわからない以上、打つ手はない!」

「うん!」

「おう!」

「えぇ!」

 三者三様、それぞれの力強い返事を聞いてから、俺は魔龍へと突撃していく。

「おおぉりゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 アルカンシエルからまばゆい光を放ち、その光を一点に凝縮。巨大な二本の光刃を構築して、それを持って魔龍へと切り込む。

 二度、三度と魔龍の外殻を切りつける。だが、ぶつかり合った火花こそ散れど、魔龍の外殻はまったくといって良いほど傷ついていなかった。それどころか、強固に構築したはずの光刃のほうが、まばゆい燐光を散らしてばらばらと崩壊しかかっている。

「くくくはははははは……その程度かァ!!」

 魔龍の咆哮。ついで飛んできたのは、人の身の丈ほどもある巨大なツメの一振り。

「ぐっ!」

 アルカンシエルの光刃を霧散させて、身体の前へと引き戻す。振り下ろされた巨大なツメはアルカンシエルの腹を強くえぐり、そのまま持ち主である俺を軽々と吹き飛ばした。そのまま瓦礫と土煙を引き連れて、半ば崩壊しかかっている屋敷の壁に激突する。

「ご、はっ」

 壁と剣の両方から感じる、恐ろしい衝撃。アルカンシエルで防いでなければ、間違いなく内臓まで持っていかれていただろう。冷や汗を掻きながらもがき、壁にめり込んだその身をよじって脱出、跳躍する。

 一泊遅れて、魔龍の放った火炎弾が俺のいた場所に着弾。盛大な火柱を打ち上げて、残された部分を余さず灰に変えていった。

 アルカンシエルの力ならば防げないことはない。だが、刀身や魔力の損耗率から考えれば、ああいった類の攻撃は回避するのが定番だ。

「うっとおしい小虫どもめ!」

 俺の視界の先にいた魔龍が、その巨躯を翻して野太い尻尾を振りぬく。

「うおあぁぁっ!?」

 後方からの攻撃に徹していたカノンとサラは被弾を免れたが、前線を一人で支えていたゴーシュはまともに食らってしまったらしい。床の上を転がりながらも体制を建て直し、ちぃと俺に聞こえるくらいの舌打ちをはさむ。

「ゴーシュ、無事か!」

「このくらいどうってことねぇ。……けど、思った以上に厄介だな」

 ゴーシュが言っているのは、間違いなくあの魔龍の体躯を覆い隠す外殻のことだ。なにせアルカンシエルの刃が通らなかったのだ、改良させてはいるだろうが、それでも一般の武器であるハルバードで突破できるかと聞かれれば、正直首を横に振らざるを得ないだろう。

 彼もそれを内心で察しているのだろう。もう一度ちぃと悪態をつきながら、今度はハルバードの刀身に、可視化できるほどに濃い風の魔力をコーティングした。

「だったら、こいつでどうだァァッ!!」

 雄たけびを引き連れて、ゴーシュが突撃する。吐き出される火炎弾を巧みな足裁きで回避しつつ肉薄し、ハルバードを外殻の薄い部分――つまるところの腹にめがけて、豪快に振り下ろした。

 瞬間、天井の抜けた部屋に轟くズバァン!という快音。確かなダメージではないのだろうが、それでも確かにゴーシュのハルバードは外殻に切り口を刻んでいた。

「ビンゴ!」

「小癪な!!」

 攻撃が通用したことにガッツポーズをとったゴーシュだったが、間髪いれずに振ってきた大きな足に気がつくと、バックステップで大きく飛びのく。そのまま跳び退って俺のところまで後退してきたゴーシュだったが、その顔は未だギラギラとした喜びに彩られていた。

「二人とも、腹を狙え!魔力を通した攻撃なら、多少でも傷は入る!!」

 確かな効果を確認していた俺は、すぐさまカノンとサラに弱点を通達する。俺の言葉を確かにキャッチした二人は、すぐさま攻撃を開始した。

「ブルセイ・ワズル=テトパルマス!!」

「『ガイア・ピアース』!!」

 カノンの放った光魔法が、攻撃力強化を伴って魔龍の腹へと直撃。そこへ追い討ちをかけるように、サラの放った輝く魔矢が突き刺さった。

「ゴーシュ!」

「おうよ!!」

 同時に炸裂して魔力の爆煙が吹き上がるさまを見て、ゴーシュを伴い俺も飛び出す。魔力の衝撃でわずかに体制を崩した魔龍が俺たちの接近に気づくが、遅い!!

「ぜらあぁぁぁぁぁッ!!」

「チェストおぉぉぉぉぉッ!!」

 再び繰り出された光刃が、魔龍の腹にズガン!と重い一撃を叩き込む。ツメを振り下ろそうとしていた魔龍が再びその攻撃にぐらりと体制を崩したその隙に、右のアルカンシエルで袈裟懸けに切り裂いた。即座に離脱したところに、ゴーシュの風刃が叩き込まれる。

「どりゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 咆哮一発、外殻へめり込んだハルバードが折れそうなほどの勢いで、ゴーシュが腕を、得物たるハルバードを横なぎに振りぬいた。その衝撃で、魔龍の腹を覆っていた薄い外殻が一緒にはじけ跳ぶ。

「ぐぅっ…………たかが人間風情があぁッ!!」

 だが、魔龍はそう甘くなかった。咆哮とともに発した衝撃波で俺たちを吹き飛ばすと、カダーヴェルが消えたときに発する煙とよく似た瘴気らしきものを発生させ、はがされた腹の外殻を修復してしまったのだ。それを見て、俺もゴーシュに習って舌打ちする。

「……ったく、七面倒な」

「まったくだ。……竜の弱点っつったら、腹か眉間って相場は決まってるんだがなぁ」

 ゴーシュの呟きを、俺の耳は逃さなかった。

「……眉間も弱点なのか?」

「ん?おぉ。代々の勇者は、竜を討つときに眉間を刺し貫いてしとめた……って、カインの爺さんは言ってたぜ。だから、もしかするとこいつもそうなのかなぁ、って思っただけだ」

 ここにきて新事実である。いや、そういえばオリエンスで相対したワイバーンも眉間に食らった攻撃で叫んでたわ、忘れてた。……まぁ、俺が情報集めてなかっただけか……あぁ、もうちょっとアルネイトの図書館見ておくべきだった。

 いやいや、こんなところまで来て嘆いてもどうにもならない。ともかく有益な情報が手に入ったんだ、試してみない手はない。

「……なぁゴーシュ、アレどうやって狙うんだよ!?」

「俺に聞かないでくれ!そもそもこんなでっかい竜はウチの家系も知らんっつの!?」

 試してみない手はないこともないのだが、なにぶん眉間を狙うにはあいつの身長の高さが障害になる。跳躍してたどり着こうにもあいつのツメが確実に邪魔してくるし、かといってよじ登るなんてのは論外だ。確実に振り落とされる。空を飛べるとかならやってみる価値はあるんだが……。


「……ん?空?」

 そうだ、あるじゃないか。俺たちのもつ数少ない移動手段であり、高速機動戦の要でもあった、あいつが居る!

「三人とも、ちょっと時間稼ぎを頼む!」

「やらせぬ!!」

 カノンたちにそう伝えたが、俺が何を考えているのかを見通したらしい魔龍の火炎弾が、妨害に飛来してくる。勘弁してくれ、念話は地味だけど集中しなきゃ使えないんだよ!

「やらせないっ!」

 が、その火炎弾より早く展開された蒼い障壁が、俺への直撃コースを取っていた火炎弾のことごとくをはじき、かき消した。その様子とともに、カノンがこちらに駆け込んでくる。

「カノン!」

「大丈夫!……破らせは、しないから!!」

 とっさに名前を呼ばれたことに頬を緩めたカノンだったが、しかしすぐに表情を引き締めて蒼い障壁の硬度を、明度を上げていく。そこに火炎弾が次々と叩き込まれていくが、驚いたことに障壁にはヒビの一つも入らないのだ。ただしその代わりに、カノンの額にはうっすらと汗が浮かんでいる。

 たぶん、体内魔力を無理して強化に当てているんだろう。長くは持たないことを確信して、俺は急いで念話を飛ばす。

「きゃあっ!?」

 直後、ガラスが砕けたような音を伴って、カノンの身体が吹き飛ばされた。慌ててカノンをキャッチしてから、俺はアルカンシエルで蒼い障壁を作る。

「大丈夫か?!」

「う、うん。……ごめんね、満足に時間稼ぎできなくて」

 床におろされた後、うなだれて謝るカノンに「心配するな」とだけ告げて、俺は障壁を張り続ける。あいつが俺だけを狙ってくれるなら、好都合だ。

「横が!」

「がら空きだっつぅの!!」

 サラとゴーシュがそれぞれ裂帛の気合を声に出し、懇親の一撃を足元めがけて叩き込む。攻撃の目的は、魔龍の体躯を支えている足ではなく、その足を支えている床――つまるところ、足場だ。

 ズガン!という大音響とともに崩された足場は、そのまま魔龍の足が接している場所ともども崩壊する。

「む、ぐっ!?」

 足に攻撃が来るだろうと踏んでいたらしい魔龍が、驚きの声を上げる。そのままがらがらと崩落する足場に両足をうずめた魔龍が、怒りに満ちた咆哮を天へととどろかせた。

 そこへ、再度サラとゴーシュの攻撃。今度は復帰したカノンも加わった、仲間たちの総攻撃だ。おそらく、俺が今から何をしようとしているのかをゴーシュが伝えてくれていたのだろう。そのことに感謝しつつ、近づいてくるはばたきに耳を済ませる。

「おのれ……矮小な生物めが!!」

 直後、怒りに再び吼えた魔龍が、埋まった足を勢いよく持ち上げた。砂煙がもうもうと立ち込めて、三人と魔龍の下半身が見えなくなる。幸いにも魔龍は砂煙に消えた三人のことを警戒しているようで、俺の動向に関しては一時的に意識の外に向けてくれたらしい。

『――お待たせしました』

 その隙に、俺は城内を突っ切ってきたらしい龍形態のルゥにまたがる。長く戦っていたであろうに、ほとんど傷のない白銀の鱗に軽く驚嘆しつつ、俺は城の上空へと飛び上がった。

 眼下では、晴れた砂煙から這い出た三人が後退し、遠距離攻撃によって魔龍の気を引いている。忌々しげに火炎弾と衝撃波でそれをいなして行く魔龍だったが、ふと俺が居ないことに気がついたようだ。眼球だけで周囲を確認した後、ようやく俺が居る空にその首を持ち上げた。

「――――遅い、っての!」

 合図とともに、ルゥが急降下を開始した。降下が始まる寸前に俺はルゥから飛び降りて、中空にほんの少しの間とどまる。

 銀色の流星となったルゥが燐光をまとい、魔龍めがけてその身をたたきつけた。ただしく特攻と形容すべき攻撃だったが、意外なことにあれだけの速度でぶつかったにもかかわらず、ルゥ本人の身体に傷らしい傷は存在してなかった。龍ってすげーとか相変わらず見当違いなことを考えながらも、俺は降下を始める。それと同時に、その手に握っていたアルカンシエルの柄頭同士を向かい合わせてぶつけ、がっちりと接続。ダブルセイバーのような形状に変化させて、そのまま魔龍の頭蓋めがけて降下、振り下ろす。

「らあああああぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

 咆哮とともに放たれた大上段からの一撃は、魔龍の頭を確かに捕らえた。が、硬い外殻に覆われているのはここも同じらしく、ガチイィィィィィン!!という大音響とともに、アルカンシエルがはじかれる。

「――その程度がぁぁぁッ!!」

 大きくたわめられた首が振るわれるとともに、俺は空中めがけて放り投げられた。そのまま連射された火炎弾が迫ってくる。避けられない――!?

「させませんッ!!」

 数泊の間をおいて、ルゥが俺の前に躍り出た。そしてルゥの目の前で、火炎弾が連続して炸裂する。

「ぐ、うあぁぁっ……!」

「ルゥ!!」

 苦しそうなうめき声をあげて、ルゥが力なく墜落していった。とっさに名を呼ぶがそれもむなしく、ルゥの姿ははるか下に広がる瑠璃色の海へと吸い込まれていく。

 防御障壁は張っていたはずだ。となると、防げなかったのはひとえにその展開の速さにあったんだろう。にもかかわらず、俺のことを身を挺して攻撃から護ってくれたルゥには頭が上がらない。



 ――その気持ちに、想いにこたえて。


 俺は放とう。この旅で、この世界で、この人生で培ってきたすべてをこめた。最高最大の、最強の一撃を!!!


「――――覚悟しろ、魔神!!」

 毅然と叫ぶ俺の手には、ダブルセイバー状態を解除されたアルカンシエルが、しっかりと握られていた。それをぴったりとあわせて、分厚い一本の剣とする。

 一本にまとめられたアルカンシエルは、どことなくかつてのイーリスブレイドを想起させる重量を俺の手に与えてくれた。懐かしさにすこしだけ頬が緩むが、それはともかく。


 俺の眼下には、忌々しげにこちらを見上げる魔龍が――魔神が居る。

「……何故だ。何故異界の民たる貴様が、これほどまでに戦える!何故、矮小な生物たる貴様が!!」

 悔しそうに、あるいは焦ったように吼える魔龍は、なおも抵抗のために火炎弾を連射してくる。

 ――何度でも言い放ってやろう。行動が、遅すぎる。

「……俺は、神龍の騎士だ」

 呟き、アルカンシエルの力を解放する。莫大な力の奔流が、何者をも通さない絶対の障壁を自然と構築し、飛来してきた火炎弾のことごとくを消し飛ばした。

「異世界の奴だからとか、門前払いされたちっぽけなやつだとか、そんなことは関係ない!」

 一度、二度と空中で剣を振るい、その刀身からこれまでとは比べ物にならないほどの巨大な刃を生み出す。それはかつて、技巧のオーディンとの戦いでも見せた、イーリスブレイドのオーバーロード状態に似ていたが、あの時とは違い、宿されたその力は完全に制御されていた。ゆえに、刀身はどこまでも長く、分厚く伸びていく。

「俺はこの世界で、かけがえのないものや人を見つけることができた。それを守りたいって気持ちに、そんな些細なことは関係ない!!」

 毅然とした表情で、俺は叫ぶ。吹き飛ばされて宙を舞っていた俺の身体が、魔龍にむけて降下していく。その手に、巨大な光の刃を伴って!

「そうさ。守りたいもののために振るわれるこの力が!この世界を覆わんとする邪悪な力を倒すための力が!!」

 焦るように後ずさった魔龍めがけて、俺は空を切り裂く光刃とともに駆け下りる。それはまるで、邪悪な闇を切り開いてく、聖なる流星のように。



「神龍の騎士の!俺の!!力だああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 ――――魔龍を真正面から、両断した。

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