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愛の戦士は永遠に

 ひかるが帰宅すると、娘たちは大興奮でテレビに釘付けだった。あの、現代史の教科書でしか知らない伝説の戦士が、数十年の沈黙を破って再登場し、さらには往年のままの強さを発揮して敵を倒したのだ。これが興奮せずにいられるかとばかりに、彼女たちは大騒ぎをしていた。

「おかえりー!!お母さんの行った街でしょ!?見た!?」

「本物、どんなだった!?」

 それがまさか自分であるなんて、もちろん口にできるはずがない。ただただ苦笑いでやり過ごしていたが、そんなひかるも

「ちょっとママに似てたよね!」

 という、下の子の屈託のない発言には肝を冷やされた。



 ラブリードリームジュエルへの反響は、ひかるの家だけではなかった。その日のニュースはネットもテレビも報じ、翌朝には新聞に掲載された。週刊誌はこぞって特集を組んでその正体を勘ぐり、街を歩けば子供サイズのコスチュームが売りに出されている。そして写真館のウィンドウには、ミニ・ラブリードリームたちの写真が並んでいた。彼女たちの姿を模した人形は飛ぶように売れ、各地の遊園地ではラブドリのまねをしたヒーローショーが開催された。

 ラブリードリームジュエルの5人は、30年の時を経た再び少女たちの憧れになったのだ。

「うちの教室にも、生徒さんが増えたんだよね」

 茜からの電話がそう告げると、ひかるの心臓は大きく動揺する。

「なんで!?まさか・・・茜が正体だってばれたの?」

 声をひそめてそう尋ねると、けらけらと笑って否定された。

「違うよ。ラブドリと同世代の、私たちみたいなおばちゃんたちが、なんていうのかな・・・?触発されたっていうの?ラブドリもがんばってるんだから、自分もまた輝きたいってさ」

 そう説明されると、なるほどそんなものかと思えてくるから不思議だった。確かに街を見回してみると、道行く女性たちはどこか元気に感じられる。年をとっても負けないラブリードリームジュエル。たとえ体型が崩れてもあきらめないラブリードリームジュエル。

 登場した瞬間は確かに驚いたが、しかしそれでも中身はやっぱり自分たちを守ってくれる正義の化身。愛の戦士である魂こそは、変わることがなかった。


 変化は茜のスポーツジムだけではなかった。葵の会社で扱っている女性向け商品は飛ぶように売れ、翠の運営するHPには注文が殺到した。直接的に関連はなくても、経済はつながりを持っている。巡り巡って透子の夫の会社も景気が向上し、ひかるの夫もまたその恩恵にあずかれて給料が上がった。

 強くなりたい、きれいになりたい、賢くなりたい、でも可愛くありたい!ラブリードリームの戦う姿は、女性たちを元気にするだけではなく向上心を刺激し、そのために欲張りにさえさせたのだ。欲張りになった彼女たちは自分への投資をためらわず、あたかも将来への不安すらラブリードリームジュエルがなんとかしてくれるような、そんな錯覚すら抱いて熱狂した。

 もちろん、それで本当にどうにかなるわけではないのだが、しかし世の中の景気が上向けばならないこともなくなるかもしれない。たった5人の女性たちの存在が、街だけではなく国の経済を支えはじめ、さらにはその影響を世界へと広げ始めていた。



 ひかるが食器を洗っていると、携帯電話が一斉メールの着信を知らせる。泡だらけの手もそのままに、誰から送られてきたのかと表示画面をチェックすると、そこには透子の名前が表示されていた。もしやの予感を抱えたひかるは、急いで手についた泡を洗い流して受信ボックスから新着メールを開く。果たしてそこには、ダークナイト・メアの出現を伝えている。

「集合のメール!!」

 ひかるは慌てて部屋中の戸締りをし、火の元と水道の蛇口を確認して外へと飛び出す。変身するには人目を避けなければならないから、誰もいない家でするのは打って付けではあったが、しかしそんな姿で外に出て、出会い頭で近所の人に見られるわけにはいかない。となると、適当な場所を探してラブリードリーム・ダイヤモンドにならねばならないのだ。

 ダークナイト・メアが出現している近くの公園に到着すると、すでに透子の他、翠と茜が駆けつけていた。自分が最後かと走る速度をあげたが、人影は一つ少なく葵がまだのようだった。

「ごめん、待った!?」

「しょうがないよ。こっちだって生活があるんだから」

 茜が騒ぎのする方を気にしながら答えると、翠がそれに付け加える。

「葵ちゃん、さっき連絡が来てこっちに向かってるって。会議中で携帯切ってたらしくて、さっき気が付いたからって謝ってたわ」

「そっか・・・じゃあ、4人でなんとかがんばらないとね!!」

 ひかるが頷くと、3人はそれを合図とばかりに変身用のアイテムを取り出す。そしてその反応につられるように、ひかるもまたアイテムを手に強く握った。



 ダークナイト・メアの悪夢に取り込まれる人々は、現実に夢を見られない人々である。その人数はどんなに世の中がよくなろうとも、ゼロになることはないだろう。だからこそ愛の戦士は戦わなくてはならないのだ。一人でも多くの、いや、一人も取りこぼすことなく、悪夢から解放されるのを助けるために。

「ラブリードリーム、がんばってー!!」

 少女たちの声援を背後に、おばさん戦士は奮闘する。たとえどんな苦境に陥ろうとも、

「みんな、お待たせ!!」

「サファイア!!待ってた!!」

仲間がそろえば少女のころと同じ気持ちで、また立ち上がることができるのだ。



 ダイヤモンドとして復活したひかるは、変身した時のためにダイエットを始めた。が、娘たちとのお菓子作りを中止する言い訳を見つけられず、食べなきゃいいかと調理にいそしんではつまみ食いをしすぎてリバウンドしていた。


 同様にダイエットを始めたエメラルドこと翠は、ひかるよりは頑張って効果を出していたが、しかしこれまたやはり家族から外食をせっつかれ、自分は少量のものをと決意しつついつも誘惑に負けてリバウンドを繰り返した。


 ルビーである茜は、ラブリードリームのルビーに似てますねと生徒に言われ、ジム内での人気も前以上にあがっていた。これをきっかけにモテ期が到来するかもと期待した茜であったが、しかしもてるにはもてたもののそのすべては女性で、まるで宝塚みたいと葵に冷やかされた。


 似ている似ていると指摘されつつも、透子はオパールであることをセレブ仲間にごまかしていた。が、自分の子も含めて子供たちにはオパールと呼ばれ、正真正銘の本人でありながらそっくりさんとしての評判を高め、複雑な心境を持て余していた。


 そしてサファイアと社長の二足草鞋をこなす葵は、茜のモテ期をうらやましいわと笑いながらも、その実、ラブドリ景気を逃すまいと仕事にのめりこんでいた。さすがに、サファイアに似てませんかと指摘する根性は社員たちにないらしく、葵だけが似てるなんて言われないわよと目を丸くした。



「ダークナイト・メア!!あなたの悪事は、私たちがいる限り許さないわよ!!」

 ダイヤモンドの宣言に、4人もまた一堂に並んで敵をにらみつけた。たとえどんなに年を重ねようとも、たとえどんなに体型が崩れようとも、みんなの平和を乱すものが現れる限り、自分たちはこうして立ち塞がるのだとばかりに。


 なぜなら私たちは、愛の戦士ラブリードリームジュエルなのだから!



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