選択【瑞夢】 エピローグ
── 今日も平和な現実世界が始まる ──
PICTを立ち上げると、目の前にスクリーンが現れ、今朝の啓示が流れ始めた。
画面には、我らの先導者。ユノ様がいつもの様に微笑みをたたえ、神々しく口を開いていた。
『ユーピテルの決定を国民の皆様にお知らせ致します……』
少し起きるのが早かったかと思いつつ、窓から外を眺めると、今ではすっかり早くなった日の出によって、街は黄金のように色付いていた。
『S•フクオカのセクター長、『如月』が秘密裏にヒューマノイドを製造しておりました為、処刑を行う事と致しました。二日後、4月10日正午に刑を執行致します。PICTにて中継を行いますので、奮ってご視聴下さい』
── 馬鹿な奴だ、何故『決定者』ユーピテルの意向に従わない? この国はユーピテルと『先導者』のユノ様に従っておけば平和に過ごせると云うのに。
『また、同セクターの『古賀 大長』がセクター抜けを行いました。目撃者は速やかに通報してください』
スクリーンに浮かぶ男の顔を見て、俺はつぶやいた。
「一体、何を考えて……おや? 何処かで見た顔だな」
そう思った矢先、画像が切り替わると同年代の少女が映し出された。
金色に輝くセミロングの髪と瞳の色は片方が虹色のオッドアイ……丈夫そうな深い緑のコート姿。 そう、今、最も危険な人物。
『そして、この女、『悪夢』も依然逃走中です。大変危険な思想の持ち主です、皆様の情報をお待ちしております』
悪夢と名乗る少女。この国の敵。
彼女はPICTをジャックし、ユーピテルを破壊すると宣言した。
何故、平和を脅かす様な事をするのだろう?
しかし、この顔を見ると胸が苦しくなる。
なんだ、この不快感は。
ユノ様の『国民皆様の平和は瑞夢と共に』という言葉でPICTの通信が終了する。
テーブルに目を向けると、すでに支給された朝食が用意されていた。
「そうか。『お勤め』で配達役が置いていってくれたんだな」
この国が平和な理由。
それは、ユーピテルが人々に適材適所の労働を割り当てる『お勤め』があるからだと言える。
よって、人々は仕事も寝る場所も結婚する相手も、全てが効率よくなるように指示がなさされていた。
「部屋に入ってきた音に気づかなかったな。俺を起こさない様に気遣ってくれるなんて、いい仕事をするじゃないか」
高校を卒業したら、憧れのお勤めである、カテゴリー『密告者』に就く為にも負けてられない。
そう思いつつ椅子に腰掛けると再び『PICT』から個人向け指示メッセージが浮かび上がった。
『おはようございます、有斗さん。今日は4月8日 始業式です。あなたは今日から高校2年生となります。これからも、勉学とお勤めに励んで下さい。今日のお勤めは15時より、住居ブロック27の5部屋を清掃して頂きます。本日もお平和に』
今日も清掃か……。早くユーピテルに認めて貰い、悪を裁くお勤めを行いたいものだ。
学校まで時間があるが、散歩がてら早く出よう。体調を維持しないと、いいお勤めが出来ないからな。
朝食を済ませ、身支度を整えると、ブロック25 51号室と書かれた部屋を出る。
扉に鍵かけたっけ? …あれ、鍵って何だ?
たまに意味不明な名称が頭に浮かぶ。
さっきの古賀という男といい、悪夢という女を見ると苦しくなったり。
今日が終われば、一度ユーピテルに診断してもらおう。
そう考えながら居住棟を出た途端の事だった、俺は映った光景に目を疑う事となった。
「やっと会えたわね、有斗」
── そんな。この女は、さっき目にした?!
彼女だけじゃ無い!
「久しぶりだな!会いたかったぞ!」
この男も!
目の前に居たのは、悪夢と古賀 大長。
「何なんだ!? どういう事だ?」
混乱する思考の中、『通報しなければ』と思い、PICTに手を掛けた時だった。悪夢が刀を抜き構える。
── そんな…殺される。
「はぁ、何よ? その符抜けた顔は。仮染めの平和呆けしちゃったの?」
悪夢はその言葉のあと、無表情のまま俺に向かい刀を振り抜いた。
「どう? 目が覚めたかしら?」
悪夢の声に、瞑っていた瞼をゆっくり開く。全身に痛みはなく、呆れた様子の二人が俺を見つめていた。
次の瞬間、俺の首にあったPICTは弾けるように吹き飛んでしまった。
── そして。
「全く、有斗も、お寝坊さんなんだから」
── そうだ。
「ねえ、前にも聞いたかしら? あなたの事、何て呼んだらいい?」
── 思い出した……俺は。
「ああ、アクム。会いたかったよ。俺の呼び方なんて決まっているだろ。それより、今なにが起こってるんだ? 教えてくれるか」
・
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……まさか、観測者の願ったのが、こんな現実だったなんて。
二人の話を聞いている内に、俺は自分の無力さに自責の念に駆られる事となった。
ユノは。オリュンポスを現実に上書きした。
俺は、止める事が出来なかった。
「ねえ、ナイン。自分を責めちゃ駄目。まだ私達に出来る事はあるわ」
アクムとタイチョーはどうやら仮想世界での『意思と能力』がそのまま、この現実世界に上書きされたらしい。
そして、アクムは続けて言った。
「トオルも生きていたの。そして今では味方よ。ユーピテルの居場所を探ってくれているから別行動なんだけどね」
そうか、あの『緑の光で消えた』のは、恐らく、リヴィアが現実世界に転送してくれたということなのだろう。
「きっと、リヴィアもこんな結末を望んでなかったんだな……」
── そう、まだ終わっていないんだ。
「ナイン!そんな中で悪いんだが!」
表情の優れないタイチョーの言いたい事は解っている。
「そうだな、先ずは如月さんを救出しないとな!その後はユーピテルと決戦だ!」
それを聞いていたアクムは頬を緩ませ。
「お帰りなさい、ナイン。早速だけど、いつものアレ、お願いね!」と嬉しそうに話した。
俺の握りしめた両手が緑色に輝く。
「ああ、人使いの荒いアクムよ。任せておけ。ユーピテルには……残念なお知らせだ!!」
── 太陽が昇る。
それは俺たちの行く末を明るく照らす様に、光が降り注いでいた。
── END 3 ──
次作 『ギルティー//ベクトル』 へ




