リライト
「トールの反応が消えただと?」
自衛軍リライトの作戦会議室で、S•トウキョウの長『ゴウマ』が乾いた声で部下に質問する。
ここが動物園であればオットセイと見間違うであろう、その巨体は歩くたびに波打っていた。
「ハッ!トウキョウ郊外にて、例のアルトと交戦した模様です。恐らく敗退したものと……」
「いい気味だ。あの小僧の目は以前から気に食わなかったからな。何故、イヴ様はあんな奴を作戦の最前線に置いたのか知らんが」
その様子を部屋の隅で傍観していた少女が深紅の瞳を輝かせると嬉しそうに言った。
「じゃあ、アルト君はもうすぐここに来るのね。彼と戦うの楽しみっ」
漆黒の衣に身を包み、身の丈以上の鎌を持ったその少女の顔が高揚する。
「現実世界のジェネシス王者か知らんが、必ず仕留めて、『力』を奪ってくれよ。イヴ様の計画遂行の為には盗まれた『ユーピテル』の器……。イヴ様のカケラが必要なのだからな。ところで、他の連中は中央塔にいるのか?」
その問いに少女はシラけた表情で吐き捨てる。
「ええ、あんな雑魚共どうでもいいけど、いないよりマシかな? せめて、アタシの『駒』位にはなるでしょ」
ゴウマは焦りを隠せない様子で、「遊びでは無いんだ。我々の存続がかかっているからな。新しいイヴ様の世界で生き残る為にも失敗は出来ないぞ」と念を押したその時、オペレーターの1人が声を上げた。
「ゴウマ様!大変です!アナログ回線の情報ですが、アルト一行はセクター•ナゴヤの中央塔……、球状防壁を破壊した模様です!」
その言葉に会議室内が騒然とする。
「馬鹿なっ!イヴ様の推測では、先にここへ来るはずだ!何かの間違いじゃ無いのか!」
オペレーターは『これを見てください!』と、スクリーンに映像を映し出す。
そこには、球体上の防壁を解除し、中に入っていくアルト達の姿が映し出されていた。
「ユーピテルを破壊されてしまうと、計画は成り立たない!イヴ様に繋げっ!」
ゴウマの怒号の直後、スクリーンに女性の顔が映し出された。虹色の髪と瞳を持つその容姿は、まさに天魔そのものだった。
「イヴ様!アルト一行はS•ナゴヤに向かったと情報が入りました!非常にまずい状況なのでは!?」
スクリーンに映し出された女性イヴは、静かに語りだす。
『アナログ回線の情報は私には確認出来ません。ですが、アルト達の行動パターンからも先にナゴヤに向かう確率は6%にも満たない。これは虚偽の情報である可能性が高い』
「では!? このままで宜しいのでしょうか?」
『いいえ、こちらにいる侵入者を3名、ナゴヤに転送します。代わって、『ハデス』は中央塔の警備について下さい』
ハデスと呼ばれた漆黒の少女は、「えー? アタシが行きたいー!アルトと戦いたいー」と駄々をこねる仕草にゴウマは額の汗を拭いながら、「それでは、こちらの警備が居なくなります」と、苦言を呈した。
『この件が陽動作戦なのであれば、狙われるのはパンドラ《わたし》です。そちらが襲撃される事は、まず無いでしょう。兵も2割を残し、後はこちらに向かわせなさい。直ちに』
そう言う彼女の感情は掴めない。
しかし、放たれた声色は、その場に居た全員の背筋が凍る程に冷たく響いた。




