第37話 ウラギリモノ
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LOG : ウラギリモノ
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『── それでね、聞いてよウラギリモノ! そのメゾ・シールズっていう連中、ほんとに変わった人たちで……。初めは味噌汁ズって聞き間違えたけどね!』
改世邸の薄暗い地下室でモニターを見つめる僕に、アクムが明るい声で報告を続けている。その明るさが、僕に複雑な感情を抱かせていた。
過酷すぎる運命を彼女に強いたというのに、彼女はそれを感じさせず、強く振る舞っているからだ。
『── 傑作でしょう? でも、帰ってきたら名前を聞かないとね……』
彼女はまだ16歳の少女だ。そして、自らの手で意識を断つという選択をする事になる。それは、まるで自死を選ぶような行為に他ならない。
心の底では助けの来ない絶望の中、泣き叫んでいるだろう。それを、僕は強要したのだ。
『そうそう、ミームに呑み込まれるとその対象に擬態するんだって!怖いわよね。 ……それにしても、メゾ・シールズの人たち遅いなぁ。もう報告することがなくなっちゃった!』
僕は「そうだな」と相槌を打ちつつ、地下室を見渡す。まさか、この改世邸の地下に潜入することが、こんな結果を招くとは思いもしなかった。
改世邸の噴水に仕掛けられた小型カメラに映ったアルト君を見たとき、正直焦った。彼が計画の鍵を握る人物だと、すぐに気づいたからだ。そのため、潜伏していたホテルを急いで後にし、ここに戻ってきたのはクリスマス・イブの朝だった……。
【ウラギリモノの回想 現実世界】
── クリスマス・イブの朝。僕は改世邸向かいのビルの屋上にて 観察を続けていた。
改世の屋敷内には4つの生体反応があり、僕はスコープを覗き込みながら動向に注視する。その人物は改世、由乃、そして美月……いや、今は『ELI』と呼ばれている3人と、連れて来られた少年の名はアルトというらしい。ピースが揃った今、計画が動き出すのだろう。
鞄から電力消費計測器を取り出すと計測を始める。
「結構使ってるな……」
この数値からすると、既に2人は『侵入』しているようだ。「豊田と柳瀬か……」と、顎を擦ると、無精髭が音を立てた。
再び生体反応スコープを覗くと、館内の反応が消えていることに気づく。「とうとう始まったか……」彼らは地下のオリュンポス侵入室に移動したのだろう。焦りを感じつつ、まだ動けない。
改世の計画では、ユーピテルの破壊後、彼自身も侵入することになっていた。つまり、『全員』が侵入状態となる。
僕はその時を待ち、地下の侵入室に入って、全員を殺さなければならない。
改世の理想は素晴らしいものに思われた。
だからこそ、逃亡の手助けをし、協力する事となったのだ。
その理想は、正に僕が求めていた社会の実現といえた。
── 争いの無い、公平な世界。
つまり、人間の『欲』と『情』を制限し、不調和要素は排除するという世界改変。
しかし、美月を失った時に僕は気づいた。
愛情すら希薄となるのであれば、その理想は間違っていると。僕は彼女を愛していたのだろう。その空虚な心を埋められず、逃げ出した。そして、計画を阻止するために身を隠してきたのだ……『全員』が侵入状態になるこの時のために。
電力消費が跳ね上がるのを確認すると、「いよいよか」と、独り呟く。改世以外の3人が侵入たようだ。遅くとも夜には改世も侵入するだろう。僕の出番も近い。「ふぅ……」深呼吸を一つ。人を殺める覚悟を決め、「僕は大量殺人犯となるんだな」と、空を見上げた。
晴れていた朝空は、今やどんよりと曇っていた。「僕の気持ちを表しているみたいじゃないか……」不思議と心は軽くなっていた。ようやく、僕の撒いた種を回収できるからかもしれないからだ。
その後、数時間が過ぎ、辺りはすっかり暗くなっていた。そして、ついに消費電力が上がる。改世も侵入したのだ。僕は屋上を後にし、改世邸の門にPICTをかざす。ゆっくりと開門する様子に、IDはまだ抹消されていなかったらしい。「泥棒の真似をしなくて済んだな」と、僕は用意していた鉤縄をみて苦笑いをした。
部屋内に入ると大時計の振り子を下げ、地下室に降りる。すると、侵入用のカプセルが全て光を放っていた。
「予想通りだな」しかし、モニターに映し出された状況は予想外だった。
「改世たちの反応が消えている……?」
更には、全国の中央塔周辺に『セレクター』が放たれていた。
「計画は失敗したのか?!」
安堵し胸を撫で下ろす反面、理解が及ばない状況に別の不安が沸き起こっていく。
「S・ナゴヤに強い反応が……どういう状況なんだ?」
通信不能となった中央塔は謎の球体で覆われ、ユーピテルの反応もない。改世たちもその中にいるのだろうか?
更には中央塔の近くに強力な生体反応が2体見つかるが、どちらも瀕死だった。
「この二人は誰だ? 」彼らは現実世界の人間でもなく、オリュンポスのデータでもない。だが、その少年はアルト君に瓜二つだった。
僕は彼らを救うため、一度しか使えない蘇生データを入力する。 蘇生データはオリュンポスにおいて、ウイルスと認識される為、次はブロックされてしまう。
二度と使えなくなるが、と、思いながらもデータを送る。それにより生体反応は回復したが、彼らはまだ意識を取り戻していない様だった。通信を試みるも、応答はなかったのだ。
「少し時間を置くか」
待っている間にこれまでのログを確認する事にする。
白髪の少年の名前はやはりアルト君だった。
そして、理を超える力がある。
彼のPICTの履歴を確認すると、『ガーディアン』の情報ファイルを転送している履歴が見つかった。
「これはマズいな…」
運良く、時限型のロックを掛けられているため、回覧できないようになっているが、「これは消去しないとな…いや、いずれ警察の元に行くのであれば」
ほんの皮肉のつもりだった。
お前らがこの社会から見捨てた女性。
そして、僕が愛した人。
『栄 美月』の写真と入れ替える。
その写真には、この改世邸の噴水をバックに、弾ける笑顔の美月が映っていた。
「僕は、僕の方法で世界と君を救うよ」
僕の声は地下室の闇に溶け込んでいった。
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通信が繋がったのは、それから1日後のことで、まず目覚めたのは芽亜という少女だった。
『でも、どうして私の髪と左の瞳の色が変わっちゃったのかしら?』
そう不思議がる彼女に「きっと、ナイン君とセレクター、いや、天魔だったか。その力が君に移ったんだろうね」と、伝えた。
現実離れした出来事を不審がる少女に、僕は本名の『湯田』を言葉遊びで『裏切り者』名乗り、そこが仮想現実であること、そして過酷な依頼を告げる事となる。それを受け入れた彼女は言った。
『こっちの世界を破壊すれば、現実世界に住む本当の私達……。みんなは無事で済むのね』と。
そして、彼女は決意を込めて口を開いた。
『私はナインを守る騎士になる。そして、この世界にとっての……。 ねえ、ウラギリモノ。これから私のこと、『アクム』って呼んで頂戴!』
なるほど……『騎士芽亜』か。
アクムにセクターナガノの『自分』の元へ向かうよう伝え、通信を終えた僕は安堵の息をつく。どうやら彼女は協力してくれるようで、今のところカプセル内の人間を殺す必要がなくなったから。
アルト君……ナインにパンドラを破壊させ、その後オリュンポス自体を消去できれば現実世界への脅威は無くなる。
「アクムとナインか……」
蘇生データを使ってしまった今、彼女達には強くなってもらう必要がある。
これからの計画を進めるために、先ずはオリュンポス内の自分に向けてメールを書く必要があるようだ。
「どうか協力してくれよ。そっちの僕」
そう言って、送信ボタンを押した。




