第29話 失踪
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LOG:ナイン
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避難口A-1の前で、俺とタイチョーはアクムを待っていた。
昨日、別れ際に決めた集合時間を過ぎても、彼女は姿を見せなかった。
「タイチョー? 待ち合わせはここで合ってるよな?」
「合ってますよ、場所も時間も!」
珍しく寝坊でもしたのだろうか?
「ちょっと俺、見てくるわ!」
いつもと違う様子に、不安が胸をよぎる。このセクターは何かがおかしい。
その不安を抱えながら、地下3層のセンガの執務室へ駆け込んだ。そこで、センガの口から出た言葉が、さらに不安を増幅させることとなった。
「いいえ、私は存じ上げませんが…アクム殿は3390号室をお使いでした。そういえば、今朝方何者かがA-1出入り口を手動で通過したようですが、まさか……」
そんな馬鹿な!
アクムが勝手に動くなんて考えられない。第一、アクムはパンドラを破壊することなんてできないはずだ。
「一度、3390号室を確認してきます!」
俺はそう言い残し、部屋を飛び出した。
きっと寝坊しているだけだ。扉を開けたら「きゃ!」とか言って、着替え中のアクムに平手打ちされるだろう…。そんな希望を抱きながら、急いでアクムの部屋へ向かった。
途中、トラックの荷台ほどの大きさの金属箱を運搬している作業員とすれ違い、会話が耳を掠める。
「一体何が入ってるんだ? こんなものをセクター・カガワ(旧四国地方)に運ぶなんて、センガは何考えてんだか……」
「おいおい、そんなこと言ったら『追放』されかねないぞ?!」
彼らの会話が気になるが、立ち止まって考える余裕はない。胸の中に広がる嫌な予感が、それを許さなかった。
3390号室に到着すると、奇妙なことに隣の3391号室がなく、そこにはぽっかりと空間が広がっていた。
「アクム! どうした? いるんだろう!」
インターホンを押しても応答はない。
扉を叩くが、反応もない。
「非常事態だ、許してくれよ!」
俺は扉に向けて石弾を放った。轟音とともに扉が崩れ、人一人が通れるほどの穴が開く。
中を覗くと、そこにアクムの姿はなかった。
「そんな……。アクム、どうして?」
まさか、一人で中央塔に向かったのか。
違和感と不安を抱え、俺はタイチョーの元に駆け出した。
「つまりは、アクムさんは単独で中央塔に向かったと!」
タイチョーと合流した俺は、再びセンガの執務室に訪れていた。焦りに似た感情が口を突いて出る。
「A-1出入口を通過した人物は映像に残っているんじゃ?!」
その言葉に、センガは静かに首を振ると、「残念ながら、モニターは故障していたようです。映像は残っていません。ただ、手動で扉を開いた事による警告で確認したまでです。手動で出入口を開けるのは内側からしかできません。それも、大人三人がかりでやっとのことです。アクム殿お一人では到底不可能かと……」
── いや、アクムなら簡単なことだ。
「それは、何時頃の話ですか!」
「8時半前でした」
本当に一人で行動したのか? パンドラを破壊できるわけがないのに…。
「タイチョー! すぐに中央塔へ向かおう!」
「それが良さそうですね!」
俺たちは焦る気持ちを抑えきれず、地上へ向かう。
そして、地上に出た俺たちの目に飛び込んできたのは──。
おびただしい数の染人と天魔たちが、待ち構えていた。
その軍勢は、一瞬にして俺達を取り囲んだ。
「ぐっ!」
天使のような天魔が放った矢が、俺の右腿に突き刺さる。
焼けるような痛みに耐えながら、上空から槍を振り下ろそうとする女神タイプに向けて石弾を放つが、負傷した脚ではその反動に耐えきれず、俺は背中から倒れ込んだ。
「ナイン! 大丈夫かっ!」
タイチョーが駆け寄り、刺さった矢を引き抜きながら治療を施す。だがその瞬間、背後にいた染人の持ったパイプがタイチョーを襲った。
「がっ!」
タイチョーの顔が苦痛に歪む。
俺はすぐに染人に向けて石弾を放つが、不十分なイメージのせいで、パイプを弾き飛ばす程度の威力しかなかった。
「クソッ、囲まれた!」
状況は絶望的だ。アクムの戦闘力の高さを改めて実感する。中央塔は目の前なのに、一向にたどり着けない。
「ナイン! 防壁を!」
タイチョーが後ろから襲いかかってくる染人をなぎ倒しながら叫ぶ。
「ああ!」
俺は急いで四方に防壁を展開するが、その瞬間、上空から天魔の槍が飛来し、タイチョーの肩をかすめ血飛沫が宙に舞った。
「くっ、ナイン! このままではやられる! 一旦引こう!」
タイチョーが肩を抑えながら叫ぶ。
俺は悔しさで拳を握り締めながら、上空に防壁を展開し、真っ暗な壁内で唇を噛んだ。俺にもっと力があれば……。
タイチョーの荒い呼吸が聞こえる。彼も限界だ。
俺は退却のために後方の壁を崩し、退路を確保した。
(アクム…無事なのか?)
ようやく辿り着いたシェルターの天井を見上げ、俺は声にならない問いを胸の中で繰り返す。しかし返事はない。ただ、自分の無力さだけが募っていく。
タイチョーに傷を治療してもらったが、失血のせいで視界がぼやけ、壁や天井が二重に見える。泥のように重い思考を突然のPICT着信が現実に引き戻した。
『ウラギリモノ』だ。アクムの居場所がわかる!
回線が使えないはずのPICTの着信に、タイチョーは不思議そうな顔をしていたが、疲れきっていた彼は何も言わず黙り込んでいた。
『ナインか?』
ウラギリモノの声が予想外の言葉を告げる。
『アクムの反応がないが、一体どうした?』
── ウラギリモノでもわからないのか。
「こっちが知りたいよ! 何でわからねえんだよ!」
思わず声を荒げてしまう。最悪の事態が頭をよぎる。反応がない? それって……。
「ウラギリモノ! それってアクムが生きてないってことか!?」
視界が狭まり、胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
『いや、仮に死んでも微弱な電波が確認できる。アクムは死んでいない』
その言葉に一旦は胸を撫で下ろすが、では一体アクムはどこに消えたのか、新たな疑問が浮かんでくる。
『ナイン、状況を教えてくれ』
俺はセクター・ヒロシマに到着してからの経緯を説明する中、ウラギリモノは黙って聞いていた。
『そうか、アクムは拉致された可能性があるな』
「そんな! アクムほどの力があれば、拉致なんか…」
言葉を途切れさせた俺に代わり、タイチョーが会話に加わる。
「どなたか存じませんが、アクムさんの力があれば自力で脱出できるはずです。申し遅れましたが、私はナインと行動を共にしているコガと申します」
『タイチョー君だね。挨拶が遅れてすまない。僕のことは『ウラギリモノ』と呼んでくれ。君たちの協力者だよ』
タイチョーは名前を呼ばれたことに驚いた様子だが、ウラギリモノの言葉に耳を傾けた。
『ナイン、パンドラを覆っている金属はわかるな。その物質を製造しているのはセクター・ヒロシマだ。もし、アクムがその金属で覆われた箱に閉じ込められているとしたら……?』
アクムが切れない…金属。 アクムを探しに向かった時に、すれ違ったあの金属の箱の中身は……。
「ウラギリモノ! わかった! アクムはまだここにいるか、もしくはセクター・カガワ(四国)に運ばれている!」
『ナイン、救い出せるか?』
答えは決まっている。
「もちろんだ。必ず助け出す!」




