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第25話 真実

 真剣な眼差しでユノが語り始めた。

その一言目から、自分の耳を疑う内容だった。


「ユーピテルが人類を乗っ取るといったのは嘘よ」


 ── 今、何て?


「アルトは今の現実世界は正しいと思う? この歪みきった現実を肯定する?」

 真剣な眼差しのままユノが続ける。


「人類の意識を乗っ取る計画はユーピテルではなく、私たちの目的なの。ユーピテルはそれを妨害していたというわけ」


 ちょっと待て……ユノ? 何を言っているんだ?

しかし、その言葉は口から出てこない。


「あなたも知っているはずよ。 上っ面では、人は皆平等と言われているけど、平等なんて有り得ない事を。 一部の特権階級が社会を操り、殆どの人が泥水を啜り生かされている事を!」

 ユノの瞳の奥に憎しみの炎が宿っている。


「これからエリがこのオリュンポスの神となって、特権階級のいない『公平』な世界を創るわ」


 ── エリが神? 彼女は一体……。彼女は言った、『ADM copy no:173『ELI 』(イーライ)と。


「その世界を上書きして、権力で大切な人を奪われない世界を、私たちは現実のものとするの!」


 駄目だ、ユノ。それは本心なのか? それはもはや、大量虐殺と変わらない!

「間違っている!!そんな事したって根本的な解決にはならない!」


 俺の反論に、ユノの目に悲しみの色が映る。

「じゃあ解決って何? 『ADM 』はロボット大原則の為、人を殺せない。 だけど、エリならできる。平和を脅かす存在は消去出来る…アルト…世界はいい方向に向かうのよ…」

 俺は…何てことに協力してしまったんだ!

取り返しの付かないことをしてしまった。


 そして、俺の目を真っ直ぐに見つめ、手に手を重ね言う。

「お願い、私と共に生きて……」


 ── 今わかった。 ここで断れば、俺の命が無いという事を。 恐らく、カイセがこのやりとりをモニターでもしているのだろう。

 協力しなければ、現実世界の俺を殺すだろう。

 ユノは俺を救おうとしてくれている……。

だからこそ『生きて』なんだ。


 俺は知らなかったとはいえ、この計画に加担してしまった…何とか阻止しなければ!


「本当に平和な未来になるんだな?」

(ここで時間を取れば、怪しまれる…)


 ユノが目を合わせたまま頷く。


「わかった、協力するよ。この国を一緒に救おう」

(考えろ!この企みを阻止するには…)


「アルトッ!解ってくれたのね!」

ユノはホッとした表情を浮かべ、また涙を浮かべる。

 トヨダさんは胸元に着けているPICTを握りしめ、安心した表情を浮かべ、ヤナセさんも表情が緩み、溜め息を一つこぼした。


 嬉しそうなユノの表情をみて、心が痛む。彼女も俺を騙すのに良心の呵責があったのだろうか…。


「ユノ、色々聞きたい事が沢山あるんだけど、カイセさんに聞いた方がいいかな?」

(阻止する案を思いついたが、カイセが向こうにいると成り立たない……。こっちに来させる方法は無いだろうか?)


「そうね、父さんに聞いた方が詳しく知れると思うわ。もうすぐこっちに来るハズだし……。あっ、言ってなかったけど、カイセは私の父さんなの、私は母さんの姓を名乗ってるからわからなかったでしょ」


 親子だったのか……。 道理でユノを呼び捨てだった訳だ。しかし、来てくれるなら好都合だが、『もうすぐ』と言っても、4時間位掛かるはずだ。なんとかここにいる全員を中央塔内に足止め出来なければ、計画は成り立たない。


「カイセさんがこっちに来たら、現実世界に戻れないんじゃあ? ……あっ、そうか。ガーディアンには、もう一人メンバーがいるんだっけ?」

(もう一つの懸念。 ガーディアンにはもう一人会ったことのない人物がいる。確か、『湯田』という男性だったはずだ)


「ユダさんは言ってなかったけど、行方不明なの…父さんは私達のサルベージ時刻をを設定してから来ると思うわ」

(いける!全ての条件がいい方向に向いている)


「噂をすれば、ほら」

ユノの視線の先にカイセが立っている。

 ── タイムラグがない!?

俺の時には3~4時間のズレがあったのに。

いや、理由は解らないがこれはチャンスだ!


「アルト君!本当によくやってくれました!そして、我々の理想を受け入れてくれて、本当にありがとう!」

カイセの笑顔が思い込みかもしれないが、歪に見える。


「いいえ、お役に立てて嬉しいです。でも、何故、初めから本当の事を言ってくれなかったんですか?」

(中央塔の周辺はどんな風景だったか……)


「それは本当にすまなかった。 始めから真実を伝えると、君の賛同を貰える可能性が低いと考えた為、ああいう形を取りました。 どうか、許して下さい」

(作戦決行のタイミングは……)


「ところでエリは何者なんです? ユーピテルが『コピー』と言ってましたが?」

(この室内で脆そうな部分は……)


「そうだね、説明しましょう。エリは元々このオリュンポス内に住んでいた少女の意識なんです。 彼女は名前すら与えられず、小さい頃から両親に虐待を受けていました。そして、幼いながらに危険な労働を強いられていたんです」

 カイセは遠い目をエリに向けると、言葉を続けた。

「彼女の命が燃え尽きようとしていた折、偶然通りかかった私達はエリを保護し、仲間として引き入れました。この世界を正す為に」


「エリはこちらでの姿が元々の姿だったんですね……」

(ひどい話だが、話に気を取られては駄目だ。今がチャンスなんだ、組み立てろ!作戦とイメージを!)


 カイセの話は続く。 その内容は悲しき過去だった。

 カイセ達はS•トウキョウにいたオリュンポス計画の研究者だった。 それに目を付けた権力者は、その力を我が物にしようとするが、カイセ達は拒否。 権力者は、民間軍事企業『リライト』を使い、力ずくで奪取を試みる。

 その中、カイセの妻。ユノの母親は命を落とす事となり、同じ研究者の豊田、柳瀬とともに逃亡する事となった。

 それが、この屋敷。

 今は行方がわからない、ユダという人物の自宅だった。


 カイセ達は権力者やこの世の理不尽を一掃し、公平な世界を実現するため『ガーディアン』を結成。

 現実世界の上書きにはユーピテルの代わりが必要になる。そこで、『オリュンポス』内の意識+現実世界での肉体。そこにAI原始プログラム(知恵の実)を融合した人物を現実世界に創る実験を開始する事となった。

 その完成体。つまりは、エリである。


 現実世界の実験体(器)は同志の一人だった女性で、現実世界で絵里と名乗っていた、あの美しい女性……本名は栄 美月という。 見覚えがあったのは無理もない、そう、彼女はPICTで指名手配されていた逃亡犯だったからだ。

 しかし、彼女は無実の罪で投獄されていたらしい。それをガーディアンは救い出した。そして、彼女は自我の意識が無くなってしまうにも関わらず『権力に歪められない世界の為に』と、器になる立候補をしたそうだ。

 

 二人の人格の統合を終え、完成体となった美月と名もなき少女はユーピテルと互換を可能とし、現実世界を上書きする準備が整った。彼女()の名前の由来は美月の掌に刻印された囚人番号173を反対側からみると、アルファベットの『ELI』と見える事にユノが気づき、エリと命名したとの事だった。


 ── そして、ユーピテル破壊のため、『俺』を見つける……。


 しかし、酷い現実だ。 でも、意識を乗っ取るのはやりすぎだろ……。


「素晴らしい因果とは思わないかい?『ELI』とは旧約聖書で『イーライ』と読み、その意味は先導者なのだから…。 ユノにはエリと呼ぶ様何度も注意されたがね」

 機嫌良く話し続けるカイセはまるで、狂信者の様だった。

 ともかく、カイセがお喋りで十分な時間を稼げた。

 ── 作戦が間も無く完成するだろう。


 ただ、胸に込み上げる後悔があった。

それは、俺が現実世界には戻れないだろう事。


 両親と、貴志には二度と会えないであろう事。


『サヨナラ……みんな』と心の中で呟くと、刀にイメージを送り込んでゆく。


 途端にその場の全員が俺に注目する事となった。

「アルトッ!何をしているの!?」

 ユノが驚きの表情を向けた時には、刀は淡く緑色の光を放ち始めていた。


 ガーディアンには…残念な結果になるだろう……。


 そう。作戦は…こうだ。

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