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第20話 前夜【一部ファイル欠損 1/2表示】

 時刻は0時前。使わせてもらう客室は広く、実家のマンションよりかなり大きかった。天井のシャンデリアが静かに輝き、ソファの柔らかさが身体を包み込む。ここはまるで、以前ネットで見たスイートルームのようだ。


 その部屋に今、由乃と二人並んで座っている。彼女は少し緊張した様子で、俺の方を見つめた。

「ごめんね……巻き込んじゃって」

 由乃が話し始めると、膨らんでいた妄想が一瞬でかき消された。


「いや、むしろ嬉しかったよ。こんなに誰かに必要とされたこと、今までなかったから。それに、由乃さんの言葉は嘘に思えなかったし…」

 これは、本心だった。


「ありがとう。それと、私を呼ぶときはユノでいいよ」由乃が微笑む。その笑顔は、眩しいほどに愛らしい。

「…あかん、めっちゃカワエエ!」

 心の中で叫びつつも、俺は平常心を保とうと必死だった。悟られないように、話題を変える。

「ところで、ジェネシスで由乃さん……いや、ユノは強かったな。あんな反応速度、見たことがないよ」


 ユノが苦笑いを浮かべ答える。「それはね、精神接続をして参戦してたからよ」

 一瞬、俺の胸が凍りついた。ということは、俺はユノを本当に危険な目に遭わせたってことか?


「バイタルが40%を切ると自動でサルベージされるはずだったんだけど、あなたの最後の攻撃…本当に死ぬかと思ったわ」

 ユノは微笑みながら右手を口元に当てる。その笑顔に、少しの安心感がよみがえった。


「でも、危険を冒した甲斐はあったわ、あなたを見つけられたんだから。本当に、こっちの世界に居てくれて良かった……」


 こっちの世界という言葉に、俺は首をかしげる。

ユノは理解できないという表情を見てか、「そうね、説明してないものね」と、話を続けてくれた。


 そもそも、今回の『ジェネシス』の大会は

『ガーディアン』主催のもと行われたということ。

 目的は俺のようなルールを破れる能力を持つ者を探すことであり、多くの参加者を集める為に賞金額を多くしたこと。

 そしてこの大会は、現実だけでなく仮想世界と同時に開催したという……。


「明日、侵入するオリュンポスはどんな危険が待っているか分からないわ。だから……後悔する前に……」

 ユノは視線を落とすと、小声で呟いた。

「ねえ、キスしてくれない?」


 由乃の突然の言葉に思考が停止する。

── 今、なんて言ったんだ?

 俺の手の上に由乃が手を重ねて来る。

彼女の頬は赤く染まっていた。


「まっ、万がイチ……。死んじゃったら後悔すると思うから……。それに、今日はクリスマス・イヴでしょ。私じゃ、嫌かな?」

 気付けば時計は0時を回っていた。


 俺の頭の中で、天使と悪魔が囁く。

『やっちゃえよ』と『よく考えなさい』という言葉が。


 でも。

これは生命が脅かされた時の感情、吊り橋効果である事は明らかだった。


 そして、直後に俺は人生最大の選択をした。


「俺も由乃を始めて見たときから、可愛いなって思ってたんだ。正直、この部屋に来てくれる事になったときは、こんな展開を期待もしてた……。でも、キスは作戦が成功して無事戻ってからでどうかな? 心残りが有れば、死ねないだろ」


 『据え膳食わぬは男の恥』と、昔から言うが。これが最適解。そう、自分に言い聞かせる。


「あなたは、優しいのね……」

 その直後、由乃の唇が俺の頬にそっと触れた。


 ── え?!


 そして耳元で囁いたのは、「もし私を、いいえ、あなたの大切な人達を見捨てないと世界が救えないとしたら、あなたはどうする?」という言葉。


 心臓の音が耳に届く中、平常心を装い答える。

「大切な人を守れない奴に、世界は救えないんじゃないかな」


 完璧な回答だと思ったが、彼女は哀しそうな表情で「意地悪な質問でごめんなさいね…」と立ち上がり、扉に向かって歩き始めた。

 そして、振り返り、

「明日、絶対帰って来ましょうね。さっき、言ってた『こんな展開』の続き楽しみにしてるからね」

 悪戯っぽい笑顔と共に部屋から出て行った。


 ファーストキスはお預けとなったが、

「死ななければ……キス確定って事デスヨネ?」

 由乃が出て行き大きな部屋に一人残された俺は、勢いよく立ち上がると。

「絶対に負けられない戦いがそこにある」

 両拳を握りしめ、天を仰いだ。


 その後、中々寝付けなかった事は云うまでもないだろう。




…………………………………………ファイル

以下一部欠損


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