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5.捕縛

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 ガルドランダは逃げ惑う亜人を蹴り飛ばし、その地面を転がる胸倉を掴みあげる。

「答えろ!お前たちの目的は!」


 その汚らしい犬のような頭を掴みあげられ、暗がりの洞窟の中を反響する怒号にさらされたコボルトは、短く「うっ」とうめき声を出すがそれ以上は何も話そうとしない。

 苛立ちを抑えきれないガルドランダにより、メイスで腕をへし折られてもただ泣き叫ぶだけで、命乞いなどの言葉という言葉は話さなかった。


 ガルドランダは舌打ちするとコボルトを地面に放り投げる。肩にかけるようにしていたバトルアックスを両手で握る。

 その手に渾身の力を込めて……。

「ぎゃッ」


 短い断末魔と共にコボルトの顔面が潰れる。潰れた頭蓋骨から内容物が飛び散り、ガルドランダの服に血とともに染みを作る。


「これではモルダン様に顔向けできん」

 神山への侵入者を屠ることに夢中で何も情報を聞き出せなかった、などと言われても返しようが無い。


 洞窟の先を見る。次第に上へ上へと勾配が強くなってきている。何処へつながるのか。傾斜を登り切った先に何が待ち受けているのか。ガルドランダには想像もできない。

 今はただ、差し込む光を頼りにこの洞窟を抜け出す事が第一である。

この者たちが何処の者であれ、神山に降り立つ災厄に関係があるかどうかが重要だ。


 物思いにふけるガルドランダの肩に何かが落ちてきた。

 掴んで眼前に持ち上げるが、洞窟内の光量が少ないため、その小さな紐の様な物が何なのか判別がつかない。

 髭に手をかけ渋々顔を近づけてみる。どうやらそれはガルドランダの指に挟まれ、どうにか逃げ出そうと暴れまわっているらしい。


 また何かが落ちてきた。音からして今度は兜の辺りか。

 周りでも部下たちが異変に気付いたかのように声を出し始めていた。


 どうやら大量の紐状の虫か何かが洞窟内にいたらしい。入り口を閉ざした時の地響きなどにより落ちてきたのか。

 つまんでいた糸屑状の虫を潰して捨てる。指には粘膜のような粘液状の液体が付着したのが分かる。


「あぁあぁっ、ほおおぉおおお!」

 奇声を発しながら部下のオーガの一人が一人駆けだす。暗がりの為、何があったのかは見てとれない。

 そのオーガは洞窟の壁に全速力でぶつかると弾き返されて地面に倒れた。ひくひくと痙攣しているような影の動きが見える。


 そして、次々と何かが倒れる音が後方からも前方からも聞こえてくる。そして、横にいた部下が崩れ込むように地面に倒れ込んだ。


「おい!どうした!」

 ガルドランダの脳裏に不安がよぎる。


――まさか病魔!

 普通の生物では発狂するような病気が、この内臓の不自然に綺麗な亜人たちの持ってきた物なのか。


 にゅるりとした物がガルドランダの顔に張り付いた。先程の兜に落ちてきた虫か。


 手で払い落そうとするも素早くそれを交わされる。顔を這う虫に嫌悪感を感じるガルドランダをあざ笑うかのように、糸状の虫がガルドランダの鼻の穴に侵入してこようとする。


「なっ」

 声を発する間にも虫は鼻の奥へと歩を進めていく。


 ガルドランダは虫を鼻から吐き出そうとする間に、瞬間の激痛が走るのを感じた。それから程なくしてガルドランダという個人の意識は跡形もなく消え去った。


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「ではガルドランダ。貴様の主人はここの様子を見ていたと、そういう訳だな?」

「おそらくは」


 エイジは自分の浅はかさに相当怒りを覚えた。

 自分がこの地へと転移して来た時に何が起きていたかなど、エイジが知る筈が無い。ただでさえ一時の間気絶していたような節があったのだ。

 とはいっても予想は出来なかったはずが無い。見知らぬ場所、ゲームないと変わりのないベースキャンプ『コンノカミの社』。きっと飛ばされてきたのはエイジだけではなかったのだ。巨大な社までも一緒にこの地へと来たのだ。


 その質量を何事もなく、誰にも気づかれずなどと都合のいい事は起きなかったのだ。悪魔やガルドランダの話と合わせると、エイジのこの地への転移の際に山で異変があった。天空より漆黒の柱が山に向けて降りたったのだそうだ。

 今までの数日間を思い出す。その怒りに拍車がかかる。


――この地に来た時から監視されていた。

 アイテムを用いる姿も配下を集める様子も、全てだ。


――そして、ここで悪魔と戦う姿も。

 悪魔たち相手に己の実力を計っていたのはエイジだけではなかったのだ。この悪魔たちを使って、モルダンという貴族はエイジが何者かを探っていたのだ。


 当然エイジの使ったNPC召喚は奇異な超常現象を操る物として映ったであろう。無からの生物の召喚。ことにドワーフや亜人の召喚。そのような魔法などない。エビルブックに載っている魔法を見回しても、そのような生物の召喚の類はなかった。エイジにあるのはゲーム的に効果が決められたアイテムだ。

 当然エイジたちの魔法の使う様を見て、詠唱での魔法が使えないと気付かれたであろう。

 エイジは監視されていたこと、情報を自ら晒していたことが気に食わない。しかもNPCごときに。当然NPC――ただのプログラムで命の無い、価値の無い者――という認識はエイジの勝手な決め付けであるが。


 しかし、悪魔たちに魔法を使う者はいなかった。


――会話までは聞かれていなかったかも、いや希望的観測はダメだ。


 エイジは次の手を考える。

 このモルダン公爵領――国外のアシュルドワルド国には大公として独立して統治していると宣言しているようだが。――を早期に撤退しなければ……。

撤退したらどうなる? エイジの情報が多方面に漏れることにはならないだろうか?


 ではどうする? モルダン公爵とアシュルドワルド国に囲まれたこの地での徹底抗戦?

 ありえない。


 ならやはりモルダンを消し、情報の共有者を全て消す?

 それではエイジのポリシーに反する事に、周辺国への早期宣戦布告にはならないだろうか?

 この世界の全てをゲームの様に攻略するにしてもできるだけ準備は万端で臨みたい。


 エイジが暫くガルドランダのだらしなく口から涎を垂らし、目の焦点が合わないのを眺めていると……。

「エイジ様。このハンゾウ命に変えましてもエイジ様をお守りいたします。どうか、どうかご安心を!」


 そういう訳にもいかない。ここでさらに後手に回る事などエイジには考えられない。攻めてくる思考のNPC。時間は限りある。もたもたと考えている暇など最早ないに等しい。


――これはこれで攻略の甲斐があるじゃないか? そうだろう?


「ハンゾウ、準備だ。モルダンに……代償を支払わせるぞ」


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