困惑
「とまぁ、そーゆーことだから。」
そう言って、アレスはニカッと微笑みながら、ポンとレインの肩を叩いた。国王との謁見の後、アレス達は行きつけの料理屋に行き、遅めの昼食を取っていた。
「どーゆーことなんスか・・・。」
普段元気が取り柄であるレインの声色は少しだけ震えていた。
「簡単なことだろ?俺たちが世界を救う。それだけさ。」
おっ、このスープうまいな。などと言いつつ、アレスは普段と変わりない様子で昼食を楽しんでいた。
「俺たちが世界を救う?キングが王族?ちょっと言葉が出てこないッス・・。キングは元々、考えていたこと、なんスよね?」
「もちろんだ。ミスリルを作り、解散し、そしてライオンを作り、そして今ここにいることも、だ。全ては、【世界を救う】ためだ。」
「キングは元々そのつもりだったのかもしれませんが!」
ガタン!と勢い良く音を立てながらレインは椅子から立ち上がった。
・・・悪いな。もどかしい何かを伝えたようとして伝えることのできないレインを横目に、アレスは心の奥底で少しだけレインに謝った。人より少しだけ腕っぷしが強いレインにとって、自分が魔族と和平を結ぶという話は奇想天外以外のなにものでもないだろう。
「英雄になれるんだぜ?一旗挙げるチャンスじゃないか。」
「そ、そうなんスけど!キング、リリス姐、ユフィ姐やソフィ姐なら分かりますけど、俺なんかがそんなことできるのか。正直、分からないッス。」
「俺はレインならできると信じてるぜ?」
「だって俺は平凡なただの剣士で、全然魔法とかも使えない、ですし・・・。」
「"ライオン"から抜ける、か?」
アレスはスープから目を離さずにレインに問い掛けた。
「分からないッス。俺がどーしたいのか、どーしたらいいのか。ちょっと・・・失礼します。」
そう言って、レインはお店からそのまま出て行ってしまった。
「・・・いいの?アレス。」
もぐもぐと食事に集中していたユフィが料理を口に運ぶのを止め、口を開いた。
「ちょっと、一人にしておいてやろう。今までは俺の言う通りにしてくれていたら良かったが・・。ここからは自分の決意が必要だから、な。」
「そう。」
短く返事をして食事を再開するユフィの姿はどことなく寂しげだった。
そこからしばらくはカチャカチャと食器同士のぶつかる音がしばらく食卓に響いていた。どこか機械的な風景を打ち破ったのは、アレスだった。
「ユフィとソフィは・・・その、いいのか?」
アレスにしては珍しく歯切れの悪い物の言い方だった。
「私たちは、アレスさんについていきます。」
アレスの曖昧な質問に対して、きっぱりと答えたのはソフィだった。
「前から、姉さんと話してたんですけど・・・。私たちの命は、アレスさんに捧げようと思っていたんです。私たちの世界を変えてくれたのはアレスさんで、私たちの居場所はここしか知りませんから。」
普段おっとりしているソフィだが、はっきりとした口調で自分の思いを口にしていた。
「そっ、そんなこと・・。」
言葉を続けようと思ったアレスだったが、安易にその先の言葉を発することはできなかった。魔族と人間が忌み合っているこの世界において、魔族と人間のハーフであることはそのまま自分の存在意義を揺るがすことであった。そして、それを誰よりも知っているのはアレスではなく、ユフィとソフィだ。
「そんな世界をアレスさんが変えてくれるんですよね?」
「・・・あぁ、こんなクソッタレな世界なんか俺が変えてやるさ。」
アレスは知らず知らずのうちに握りこぶしを作っていた。
「ふふっ。そんな世界が訪れることを楽しみにしています。」
裏表のないソフィの笑顔にアレスの心は自然と和まされた。
「それにしても、二人でそんなことを話していたのか?」
「まあね。そもそも、地位も名誉も金にも興味がないアンタが「大陸一のギルドになる!」、だなんて言う意味がわからないもの。その後ろにある"何か"を想像するのは当たり前でしょ?まぁ・・筋肉男のレインには想像できなかったかもしれないけど。」
「でも、私たちが予想したアレスさんの目的とは違っていましたね。私たちが強くなって"人間を守る"ことがアレスさんの目的だと予想していましたから。」
「それだと、恒久の平和は訪れない、だろ?」
「そうですね。私たちもまだまだ甘かったなぁ。ですよね、姉さん?」
ふん、と言いながらユフィは食後のデザートを口にせっせと運んでいた。
レインは街を出て、一人で草原をさまよっていた。そのレインの思考は濁流に流されるかのように、様々なことが思い浮かんでは流れていった。
俺が世界を救う?一般的な家庭に生まれて育ったこの俺が?出来るのか?キングの役に立てるのか?ってか、キングが王族ってことはキングは本当にキングってことか?俺は何ができる?ライオンを抜けてどうする?
様々な疑問がどこからか舞い上がり、そしてまとまることなく煙のように消えてしまう。
ふと気づけば、城からだいぶ離れたところまで来てしまっており、太陽も沈みかけている。数時間もずっと歩いていたようだった。
考えているようで考えることができていないレインの思考にかすかな違和感が走る。
(魔物・・・か。数は、3匹。)
遠くに見えるのは、今まで散々戦ってきた犬のような魔物が3匹だった。
レインは、今や愛剣ともなっている背中にひっさげた大きな剣を抜き、魔物の方に走り出した。魔物の方もレインに気付き、鋭い牙を出しながら猛然と突進してきた。
魔物と激突する瞬間、レインは呼吸をするかのように魔物3匹を一薙ぎしていた。
しかし、その魔物を倒しても違和感は消えなかった。それどころか、その違和感はますます大きくなっていった。
(う、上かっ!)
はっと気づき上空を睨みつけると、大きな鳥の魔物が凄まじい勢いでレインに襲いかかろうとしていた。
(間に合え!)
咄嗟に人の重さ以上もある大剣で攻撃を受け止めようとした矢先、魔物はとてつもない勢いで爆発していた。レインの上空の数メートルで爆発が起きたため、その熱と光はレインをもれなく襲った。
「じ、自爆!?って熱ッ!!まぶしっ!熱いッ〜〜ス!!」
両手で目を押さえ込み、一人で悶えている中で、
「自爆なワケ・・・あるかっ!」
と、聞きなじみのある声と腹部への衝撃がレインに届いた。
レインが両手を顔の前からゆっくりと離しまぶたを開くと、そこには自分の腹に右ストレートを決めている金髪の少女の姿だった。
※この話を書きたいがために、17話「目的」の話を少しだけ変更しました。整合性を合わせるためです。
ということで、今回の話の主役は、レインとユフィでした!
ユフィもソフィも本当にいい子なんです。次話も、もう少しこの二人の絡みが続きます。
次回:出るか、デンプシーロール (嘘
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